第27話 兵器2

 「全く…ラン君って鈍いのか鋭いのか、馬鹿なのか阿呆なのか分かんないわね」


 北の大陸に向かうつちふねの上で、愛花は悩みながらもランドを見た。

 未だに大陸には着かない。

 元の船は、しばらく進むと底に穴が開き沈んで行ったが、ランドが補強した土船がすぐさまに船の部分に空いた穴を塞ぎそのまま渡航している。

 船の真ん中には、も無いのに、小さな炎が燃え続けている。ランドの呼び出した精霊が炎を付けたのだ。

 そして水の精霊の加護かごのおかげなのか、海の中に居る魚達がみずから船の中へと飛び込んでくる。

 それをハルは慣れた手捌てさばきで魚を開き燃えている火にべる。


 「"風精霊ジン"のおかげなのかな、ハルの方から心臓の音が2つ聞こえるからさ」


 なんのおかげなのかは聞き取れないが、恐らく精霊のおかげなのだろう。

 しばらくすると陽が沈みかけてきた。愛花は振り返り海の先を見る。

 南の大陸に位置するクルシス国はもう見えなくなっている。

 パチパチと魚の脂が弾ける音と、魚の焼けるいい匂いが漂ってきた。

 お腹は正直で、いい匂いがするのと同時にぐぅ~っと大きな音がなり始めた。


 「お腹は正直者ですね愛花様。一応骨は取ってありますが、小さな骨は気をつけて召し上がってください」


 ハルの手から魚を受け取ると、愛花は魚にかぶりついた。

 昼は暗黒の森の中でランドが取ってきた丸々太った巨大な幼虫を輪切りにしたものを生で食べさせられそうになり、何とか難を逃れたっきり何も食べていなかった為か、女子だとか関係無しに貪り尽くす。


 「うむ。やはりハル殿の料理は素晴らしいですな。この絶妙な塩加減に魚の焼き加減。ここ暫くは、ハル殿の家にお世話になっていたんですが、朝早くから起きては家事をしたり拙者達のご飯をこさえてくれたりと、働き者でしたな」


 ライは焼き魚に舌づつみを打ちながらも、チラリとロウを見た。


 「それなのに、ロウはハル殿の微妙な変化も気づかず、獲物を取ってきたと思ったら毎日ゴロゴロと」

 「ぬ…なんだ貴様!それは人間族での事であろうが!我ら人狼族のオスは、獲物を獲ることだけが仕事なんだ!ハルに腹いっぱい食べさせる為により大きな獲物を狙っているんだぞ!」


 ロウが立ち上がると、そこまで大きくない土船が大きくグラグラと揺れる。

 

 「ロウ!落ち着いて!貴方が暴れると、私は愚か主人マスターも愛花様も海に落ちてしまうわ」


 ピシャリとハルの言葉で、ロウは落ち着きを取り戻しその場にまた座り込む。


 「大丈夫よ。私は別に人間のオスと人狼のオスを見比べたりしないから。ライも、あまり変な事言ってウチの旦那を煽らないで頂けます?」


 ハルの鋭い視線を充てられライは口を塞いだ。

 食事も終わり辺りは陽も落ち真っ暗になる。土船の上の炎の明かりだけが周りを照らしている。

 船は自動で進んでいるが、まだ北の大陸すらも見えていない。


 「どうしますマスター?私達がかわりばんこで寝ずの番を致しますので、お休みになられては」


 水の精霊の加護で、海に住む魔物達の殺気が飛んでくるが襲ってくる事は出来ないこの真っ暗な海をチラチラと見ながらハルはランドに問いかける。


 「いや、俺は別に寝なくても大丈夫だから。俺に気にしないでみんな寝てて大丈夫だよ」


 ランドの言葉にまたハルは何か考え込む様にうつむいた。

 船に乗る前から少し様子がおかしい妻にロウが話しかけようとしたが、ハルはバッと顔を上げランドを見る。


 「マスター!その寝なくても大丈夫な身体って、やはり何重にも重ねられた呪いのせいでしょうか?」


 突然問いかけられ少し戸惑う様子が見られたが、直ぐに平静を保ちランドは答える。


 「いや、別にこれは関係ないよ。昔の癖みたいなもんで、周りに気配や殺気があると寝れないんだ」

 「昔の癖…。なるほどねー。あ、ラン君!私達まだ眠くないからさ、ラン君の昔話聞きたいかなぁ!何でそんなに呪われてるのかって」


 今度は愛花に問いかけられる。周りもそれは気になっていた様で、目を輝かせながらランドを見る。


 「うーん――って言っても、俺もあんまり覚えてないけど、それでも大丈夫か?」


 一同頷く。

 ランドは昔の事を思い出す様に話し始めた。


 「あれは、俺が5歳くらいの時だったかな―――――…」



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