北の大陸編
第26話 兵器
ドルク帝国に所属している上層部では会議が行われていた。
だが、参加している人間達はどれもみな神妙な顔持ちをしていた。
それもそのはずであった。今回のこの会議には、このドルク帝国軍より更に上にいるクルシス国の大臣が参加していたからであった。
この大臣であるが、皆の神妙な顔つきの原因でもある。あまり好かれてなく嫌味たっぷりな性格をしているからだ。
「皆の者!今日は集まってくれて礼を言おう」
開口一番に大臣が口を開く。
「早速だが、今日集まってくれたのは、我が国の最高傑作でもあった"例の兵器"についての話なのだが」
"例の兵器"という言葉を聞いて何人かの軍上層部の人達がピクッと反応を示した。
「かの"兵器"は、我が国にとって多大なる経費を費やしそして完成させ、このドルク帝国軍に貸したのだが、最近の報告によると、とてもじゃないが見て喜ばれる結果が見えてないだろ」
大臣はため息を1つついた。薄汚い歯がチラリと顔を覗かせた。
「このままでは、我が国と対抗しておる西の国に、騙され奪われる可能性が無きにしも
ガタタッと大きな音を立て軍上層部の人達が席を立ち上がった。
「破棄という事は、クルシス国から完全に手放されるという事でしょうか?」
「ああ。そうだ。今あるあの兵器を遠い北の大陸の寒い海の中に沈め、我が国ではまた新たなる完全な最高傑作の兵器を作るという事を決めたのだ」
ニヤリと薄気味悪く笑う大臣の言葉に、今まで神妙な顔だった軍上層部達の顔色が、皆怒りに満ちた。
――
――――
――――――――
「っていう訳で、なんかコレを遠い北の方の海に捨ててこいって言われたんだよ」
ランドは手に持っていた小さな黒い箱を上に放り投げ、落ちてきた箱をまた手で受け止める。
「ご…ご
ランドの隣には、
「マスターって、一応はそういった命令されると素直に従うんですね…」
ランドの隣にはもう1人の従魔である
ハルは、ロウと同じ人狼種族なのだが、見た目は人間に近い姿である――が、耳は頭の上に犬耳が生えており綺麗な青い瞳に口の中には犬歯がチラチラと覗かせていた。
少し離れて3人の後ろには、魂の契約をし従魔となったライ。腰から遠い東の方で一般的に使われている刀を腰から下げている。
そしてその隣を、ランドと同じ学校で同じ武術科である
「あれ?なんで私はまたみんなと一緒に居るのかが知りたいんだけど」
愛花は首を傾げた。愛花は従魔でも無ければ、軍の一員でも無い。ランドが軍の命令を受け、何かを破棄しに行くのは分かったが、何故一緒に行かなければならないのは分からない。
「愛花様はマスターの伴侶なんですから、一緒に行くのは当然ですわ」
ハルがクルッと振り返り笑顔で答える。
「伴――!?ちょっと待って!私とラン君は別にそんな関係じゃないからっ!」
愛華は顔を赤面させながら叫んだ。
今思えば少しおかしかったのだ。学校へ行く為に家を出たらハルが待ち構えており手を差し伸べてきたのだ。てっきり学校に一緒に行くものだと思ったのだが、まさか北の大陸にいく為に街の外の草原を歩かされる羽目になるとは思わなかったからだ。
「それにしても、軍の人達は何を考えてるんですかね?マスターにこんな命令を下しておきながら、プリムに行ってそこから船に乗って北の大陸に行かすなら、せめてプリムまで馬車や
ぷりぷりとハルが怒る。ころころと表情が変わるハルを
「まさかと思うのじゃが、この調子だと、用意してある船なんか最低限の船では無いのではないだろうか…」
そんな嫌な予感というものは当たるものであり、プリムに着いた一行に待っていたものは、今にも底に穴が開きそうなオンボロな小舟1隻であった。
「これに…5人乗れって?」
ロウは今にも沈みそうな小舟を見ながら呟いた。
「ロウ、お主は犬かきで海を渡ればギリギリ拙者らはこの船で海を超えれるのでは無いか?」
「なんだと?人間風情が、我を犬畜生呼ばわりするとはいい度胸だな」
ライの言葉に、ロウは喉の奥をグルルと鳴らしながら答える。
「はいはいっ!オス達はすぐ喧嘩を始めないの!――にしても、マスター本当にどうしますかこれ?」
ハルは2人の喧嘩を止めながらも、今の現状に不安を覚えている。
「まぁ、俺は落ちても別に水の中でも息は出来るし、寒さとかも感じないから何でも良いんだけど――」
ランドはチラリと愛花を見た。
愛花の顔は青ざめている。プリムに来る前の暗黒の森でのランチタイムや、沈みかけた小舟での渡航等、不安要素は沢山あるからだ。
「ほら出てこい"
精霊の
ランドの手のひらにポンっと小さな小人の様な精霊が現れる。ランドがその精霊に対して何か話しかけているが、その言葉自体も聞き取る事が出来ない。
小人の精霊は何かを承諾したのかまたポンッと音を立てて消える。消えたと同時に小さな地震が起こると、海の底の地面からゴゴゴッ…と音を立てて地面が盛り上がり、沈みそうな小舟を中心に周りに丸く土が固まる。
「"
今度は水の中から渦が巻き起こると、全身が水で出来ているような半裸体の女性の精霊が出てきた。
先程とは違う言葉であろうが、それもまた何を言ってるのかは分からないが、ランドの言葉に精霊がコクコクと頷いてるのが分かる。
そしてまた渦が巻き起こると精霊は姿を消すと、
「よし…これで全員乗れるし沈む事も無いぞ……ってどうしたんだ?」
ランドが振り返ると、ほか4人は目を丸くその場に固まっていた。
「さ――さすが見事ですマスター。
ハルは胸に手を置きとても感激している表情でうっとりとしている。
「ラン君って最初の頃、椅子とか机直してたけど、この力を使って直してたんだ」
「いや…あれは、単に俺の
「そうですよ!愛花様!精霊魔法自体、物凄い魔力の消費が激しくて、腕利きの魔法使いですら何人かで何日も魔力を込めないと――」
とここでハルが言葉を止めた。
分かってはいたのだが、自分の主人とはいえ今この人は精霊魔法を立て続けに2回使ったのだが、何もなくケロッとしているのだ。
もしかしたら精霊の真名を呼ぶことで消費される魔力量が減るのかもしれないが、それにしてもここまで何も無くしているのは異常なことでもある。
この主人と出会い従魔として
何重にもかけられた呪い、4属性の精霊との契約、感覚の麻痺、赤子並みの知能、誰にも扱えないと言われている魔剣、無尽蔵の体力と魔力――
「――ル!ハルッ!」
自分の名前を呼ばれハッと我に返る。
考え事をしていたせいか周りが見えてなかったらしい。主人と他3人は船に乗り込んでいた。
「ハル?どうしたんだ?そんな所に突っ立って」
ロウが心配そうな表情を見せる。
ハルは考え事を辞め笑顔で返事をすると、主人の作った船に乗り込んだ。
「ハル殿大丈夫でござるか?潮風で身体に堪えてしまったのではないか?」
「バカを言うんじゃないぞ人間!我ら人狼族がそんな人間みたいな弱い作りしている訳なかろうが!」
船は風も何も無いのに独りでに勝手に進み始める。
愛花とライが無言で顔を見合わせそして2人してため息をついた。
「はぁ~…ここにいる男共って鈍感な人多くて嫌になっちゃうわ。ハルさんが可哀想すぎて…」
「愛花様…それは拙者も入ってるんでしょうか」
2人はまた顔を見合わせそしてまたため息をついた。
「おい!ライ!愛花様!2人して何を言っているんだ!ハルがなんだと言うんですか!」
「いや――ロウさんが何か言う
急に話を振られランドは振り返る。
「ハルの
ランドの言葉に一同は驚いた。
あのキングオブ鈍感のランドが気づいた事と、それ以上の鈍感であるロウが父親になるという事の嬉しいような悲しいような話で、ロウは真っ白にミイラ化していくのであった――――
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