近代文明の結晶編

第21話 伝説の男復活

おっす!

俺様の名前は御手洗みたらし弾冴だんご。御手洗財閥の大事な大事な1人息子!今回、停学とかいう学園のクソみたいな規約を、パパの威光いこうで取り消してもらって見事に復活を遂げたんだ!

なんか俺様が居ない間に修学旅行とか言って、クソくだらねぇ古ぼけた都に行ってきたとかなんとか聞いたけど、マジで停学で良かったぜ!あんな所、年寄りくらいしか行かねぇだろ笑

まぁ、夜の時間に俺様が居なくて女子共おんなたちが寂しがってたに違いねぇな!ん?何だお前達。久々に俺様に逢えて近づく事も出来ないのかガハハハハハ。

いやぁ気持ちいいもんだな!どいつもこいつも、俺様が通る道を開けてくれてるぜ!


弾冴あくしゅうのかたまりが普通科生徒達が開けてくれた道の真ん中をズカズカと歩く。1歩歩く毎に、たるんだ腹が揺れ、あくしゅうのもとが周りに飛び散る。


あぁん?校門の辺りが騒がしいな。オイオイまさか俺様のお出迎えか?辞めてくれよな、あまり目立ちたくなかったんだけど仕方ねぇなぁアイツらは…。


弾冴にくだるまが前髪を――と言ってもスポーツ刈りで前髪は無いのだが――持ち上げる仕草をすると、風に乗って汗がキラキラと太陽の光を反射させながら風下に居る生徒達に飛んでいく。


ったく、アイツらの黄色い声が聞こえてくるぜ。


悲鳴が聞こえる中、弾冴はズカズカと校門に近づく。


「ランド君!これ受け取ってください!」


普通科の女子だろう。見た事も会ったことも無い女子の1人が、人混みの中ランドに手紙を手渡そうと差し出した。


「俺、字読めないから雪音に渡してくれるか?」


と全く悪意無く、隣に立っている雪音に手紙を渡そうとしたが、女子はサッと手紙を戻すと、そそくさと何処かへ走り去る。


「お兄ちゃんって悪魔の生まれ変わりとか何かなの?確かに、今まで渡された手紙読んでって渡されてきたけど、本人の目の前でやるとか…デリカシーの欠片も無いよね…」


ぶひっぶひひ。なんだ?あのいけ好かないクソランドの野郎は。女に振られたんか?ぶひひ…だっせぇなぁ!女みてぇなひ弱なツラしてるから振られんだよぶひひひひひ。

って言うか、アイツまた妹と学校来てんのかよ!同い年で兄とか言ってるから、双子かと思ったらげぇとか言いやがるけど、クソ生意気な所はソックリなんだよな。

まぁ、あの振った女子も俺様というモテが、世話係的な位置に置いてやってもいいな。


「おいランドがまた女フったぞ」

「これで何人目だ?」

「くそぉ~俺あの子狙ってたのにぃ!」

「でも、ランドだと憎めないのが悔しいな…」


普通科男子達の戯言ざれごとがヒソヒソと聞こえてくる…が、弾冴の耳には届かない。


ん?アイツ妹と離れて1人で校舎に向かい始めたぞ?ははぁ…さては、妹の方があのクソ兄貴と一緒に居るところを俺様に見られたくねぇんだな?ぶひひ。可愛い所あるじゃねぇか。

朝イチに俺様の美声で挨拶くらいしてやるか。


「おい!俺様が来てやったぞ」

「へ?あ…えと、だんご達磨くんおはよっ」

「あぁ!?てめぇルビと言葉が逆なんだよ!」


雪音は数歩後ろへ下がる。


「弾冴くん停学解けたんだね。期日クラスのへいわは、まだまだ先じゃなかったっけ?」


おいおいおい。コイツ、俺様といる所を他の奴らに見られて照れてやがる。人気ひとけのない所に誘おうとしてんのか?仕方ねぇなぁ…ったくよぉ。


「ふんっ!そんなの俺様には関係ないんだぜ!」


弾冴が近づく度に、雪音は1歩また1歩と離れていく。両手を前に何かを防ぐ形をとり顔をそむけている。


「はーいストップストップ!饅頭だんご君それ以上近づくと、また停学になるよー」


2人の間にサッと2つの人影が現れる。同じクラスのムカつく女と、粘土遊びの女だ。


「おいてめぇら!字が違うんだよ!まんじゅうじゃねぇって言ってんだろうが!」


弾冴が声を荒らげる。その度に、額から流れ落ちる汗が周りに飛び散る。クレイはすかさず肩くらいまである壁を生成する。壁の上には、謎の突起物に顔の様なものが付いており、弾冴に向かって手だと思われる物を振っている。


「あーもう本当にうるさい。ちょっとは周りの空気読んでよ!」


愛花が声を荒げた。いつの間にか、弾冴達を囲う様に人垣ひとがきが出来ている。


「ほら、あのホウキの…」

「あれ?アイツ退学じゃなかったのか?」

「姑息な手でランド殺ろうとしてた奴?」


人垣からヒソヒソ声が聞こえてくる。


くそ!なんだコイツら!何の力もねぇミジンコ共がヒソヒソうるせぇな!だったらコイツらに俺様の凄いパワーを見せつけてやるか!


弾冴は振り向き腰にかがけている超スーパー変身ベルト改(停学中に改良した)を、人垣の生徒らに見せびらかす。


「てめぇら!俺様のスーパーなパワーを見やがれ!!」


ベルトに手を置きポーズをとった瞬間だった。弾冴は白目を向きドスンという大きな音をたてその場に倒れた。

それを見ていた生徒達の頭上には、みんな「?」マークが浮かんでいた。勿論、愛花とクレイも同じだ。


唯一、雪音だけは何が起こったか分かっていたみたいで、苦笑いをしてから自分の前に立つ2人の肩を叩き、遅刻するから学校行こっと、倒れている弾冴をそのままに2人を促した。


――――


「ゆーとー…疲れた~おんぶしてくれぇ~」

「ふざけんなって!王子様、絶対疲れてなんか無いだろ!普通科一般男子の体力なめんなよ!」


校舎内1年生のクラスは3階にある。その途中の上り階段にて、息を切らせ登る友人ゆうとと、その後ろに体重を友人にほぼ乗せてランドがのしかかっている。


「大体、ドルク帝国1周45kmを数分で走りきる奴が、たかが学校の上り階段で力尽きる訳ないんだよ!」


身体を捻ったり震わせて振り払おうと頑張る友人に、ピタリとくっついて何をされようが離れないランド。その光景を、ケラケラと笑いながら同じクラスの普通科男子達がさっさと抜けていく。


「あれ?お兄ちゃんまだこんなとこに居たの?」


後ろから声がする。さっきまで弾冴に絡まれていた雪音達だ。だいぶ長い時間絡まれていたのに、先に行っていたランドに追いついてしまった。


ランドはチラリと振り向くと、友人から離れ今度は妹に取り憑こうと振り向いた。その一瞬の隙をついて友人が全速力で階段を登る。……が。


トッ…トン


軽快な足音が一瞬聴こえた瞬間に背中に重いものがのしかかる。全速力で登っていたがスピードは落ち、階段を登る足が1歩また1歩と重くなっていく。


「だぁぁぁぁぁ!!お前は子泣きじじいか!!」


ランドは、直ぐに追いつき友人の背中に取り憑いていた。


「ほら、お兄ちゃんも友人君も、あんまりじゃれついてると遅刻するよ」


そんな2人の脇を軽快な足取りで階段を登っていく雪音や愛花にクレイ。


「おい!待て妹ぉぉぉぉ!子泣きじじいを処理してってくれぇぇぇぇ!」


友人の悲痛な叫びが廊下に木霊こだまする。


「ほら、ゆーと。遅刻するぞ~」

「お前が言うんじゃねぇよ!!いい加減離れろぉぉぉぉ!!」


そんな友人の言葉に誰も耳を傾けてくれず、始業のベルが学校中に響き渡る。




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