第20話 修学旅行編 変わったもの変わらなかったもの
皆さんこんにちわ愛花です。
この前までというよりか今でもですが、とある人物を殺す為に武装学園に入学しました。
とある情報屋で武装学園に入学するって聞いてコレはチャンスだなーんて思ったんですよ。
入学時の模擬戦で初めて相手を見たんですが、武器は忘れたとか途中で帰るとかしたものだから、とにかく少しでも近づく為に同じクラスに入るため私も途中で抜け出して、あえなくCクラスになったわけです。
こんなノーテンキな人だったら、直ぐにでも殺れるかななんて思ってたんですが、これが全く隙が無いの!
少しでも相手を殺ろうなんて動こうとすると、すぐに察知されて、もうどうしたらいいの状態!
しかも、あの人の兄妹って何なの?ズルいよね…。私の事見ただけですぐ警戒されたわ。しかも、私の武器でもある
この修学旅行で隙さえあれば殺るつもりだったのにさ…あの人、寝ないとかなんなの!?って思ったわけ!
真夜中に宿抜け出すわ、
コッチは、上を見ながら路地を抜けたりしてたのに、途中で酔っ払いに絡まれるわ衛兵さんには見つかりそうになるわで…人の苦労も気にもせず
まぁ1番ショックだったのは、普通に気づかれてたって事ね。
なんか遠くから見てたんだけど、急にお兄さんとお姉さんと戦い始めて、殺れそうならコッチも攻撃してやるなんて思ってたのにさ、木の陰から出た瞬間に、あの人が
でもその後、初めて私の前で見せた隙だったのに…なんで殺せなかったんだろ。パパとママの仇だって…ずっと殺そう殺そうって思ってた相手だったのに…結局、眠気に負けちゃってその日は何も出来なかったしね。
次の日は班行動とかで、あのお城に行ったの。あの人のあの技…あれは厄介だったなぁ…。
普通、相手に
……………
本当に、あれはどういう意味だったのか分かんないわけ!本当に……。
迷子になってたあの人見つけたと思ったら、なんも前触れも無く左手薬指に指輪されたんですけど!
隣に居たクレイちゃんとすっごい気まずくて…。しかも、あの指輪…外せなかったの。
指にピッタリフィットしてて、何やっても外せなくて…試しに呪い探知機かざしてみたら、見事に
私、あの人に呪いの装備させられたの。でも、身体的に何か影響があるとは思えないし、ただ外せないだけなんだけどさ…クレイちゃんが絶対に私の手を見ないようにしてるのを垣間見えるのがなんか気まずくてしょうが無いわ。
…でまぁ、もう疲れたから宿に帰ろって話して、お城から出たら、昨日の夜に森にいた人狼の
周りも驚いてたし、私達も驚いてた。
あの人と話があるとか言ってさ、先生も先生で問題無いでしょ!とか言って、1人と2匹だけにして私達は先に宿に帰ってお風呂入って夕飯くらいの時に帰ってきたのよ。
別に戦った後があったとかじゃないんだけど、ただ…衛兵の人と帰ってきた時、あの人ずっと目を閉じてたの。
まぁ、別に普段から見えてないみたいだったし目を開けてようが閉じてようが関係ないみたい。
あの堅物で有名な
何の話してたのかは分かんなかったけど(聞いたけど教えてくれなかった)、多分あの塔を破壊した事のお礼かなんかでしょ。
あの塔が無くなって、一部の人狼以外、全員暗黒の森に帰ってったらしいから…。
もう考えたって無駄無駄。はぁ~…次は必ずあの人を殺るわ。お腹すいたしご飯食べて今日はさっさと寝ましょ。
明日は、学園に帰る日なんだから。
――――――――
「だぁぁぁぁ!くっそぉ!この化け物が!」
友人は叫びテーブルの上に突っ伏した。手には食べかけのおにぎりが握られている。あまりにも強く握っているのか、指の間から米粒がはみ出し、おにぎりの原型が残っていないほどであった。
「ふっごふぅふぅごっふごっ!」
Cクラス普通科生徒の中で1
「頑張ってくれ…ベヒモス君…。この化け物を倒してくれ…」
ベヒモス君(もちろんあだ名だが)と呼ばれた生徒は、今まさに50個目のおにぎり(1個100gほど)を食べ切ろうとしている所である。
「本当…男子って馬鹿な事してるよねー…あっお兄ちゃんお代わりいる?」
雪音が
「おい!ベヒモス君!あいつ、120個目のおにぎり食い始めたぞ!頑張って30個くらい口に含めって!」
「ふぅふぅふぐぶぅ…ううぅぅ」
ベヒモス君の手が止まる。もうこれ以上は拒否反応が出てるのか、なかなかおにぎりを手に取ることが出来ないようだ。
「あの
愛花も頬杖をつきながらランドの頭の先から足元まで見るが、細身でがっちりした身体で無限に食べるランドが不思議でならなかった。
「うごォォォォォォォォ!!!!」
ベヒモス君が
「ベヒモスくーーん!まだ逝くなぁぁぁ!お前が逝ったら誰が王子様を倒すんだよ!なぁ!」
友人は、倒れたベヒモス君を起こそうと奮闘しているが、5kg以上の食糧を食べた巨漢はビクとも動かないようだ。
「よし…一応飯も食ったし、軽く運動でもしてこようかな」
ランドはぐっと背伸びをする。目の前のお皿に山盛りになっていたおにぎりは綺麗に消えている。雪音が酒場の主人から濡れたタオルを貰いそれをランドの顔に押し付けた。
「ダメ!お兄ちゃんが軽く運動とか言って、そのまま戻ってこないし、どうせ全然軽くないんだから!今日はこのまま部屋戻って!後でお風呂にも入れないといけないんだし!」
何気ない雪音の
「お風呂に入れないといけない?」
その言葉が聞こえていた全員が反応を示す。兄妹と言え、年頃の娘が一緒にお風呂に入るなんてコンプライアンス的に大丈夫なのかと。
「あっ私もたまにいれてるよ」
「あぁ、私もやってるな。っていうか、来る時にあの『
睦月、水無月と雪音の後に続く。そんな事よりも、女子と一緒にお風呂に入れるという事の方が友人にとっては衝撃だったみたいで、その場に立ち尽くす。
「いやいやいや、雪音ちゃんって血が繋がってない…いや!繋がってても問題ありだよね!っていうか睦月ちゃんも水無月先生まで…」
「いやだってお兄ちゃん」
「どうせランド」
「この馬鹿」
「「「見えてないし」」」
3人の声がハモる。見えてなければ問題無いといった感じに3人は真顔で答えた。
「いや!違うよ!見えてなくても、ちょっと動いた時とかに手が当たったりして、いやん♡えっちんぐ♡的な事になりかねないじゃん!見えてないならOKなら俺絶対目を開けないから一緒に入ろうよ!」
最後は友人の本音が飛び出してくる。
「絶対にヤダ!気持ち悪い!」
雪音は本当に気持ち悪かったのであろう。汚物を見る様な目つきで友人を睨む。それは、睦月も同じであった。
「この馬鹿を風呂に入れる時、私らは別に最後まで面倒見るわけじゃないぞ。この馬鹿のお母さんが、この子の髪の毛を綺麗に大事にしてるから、それを洗ってトリートメントするくらいだからな」
それはランドの特徴と言えるべき腰まで伸びた髪の毛だ。毛先だけを結んでいて、いつもスラッと綺麗にしてある。
「それに、別に服とか脱がせないしね。そのままポンってお風呂場入れて、シャワーかけて髪洗ったら後は自分で洗うだろうから風呂桶にポチャンでおしまい。水の精霊と契約してるから水の中でも呼吸出来るんで絶対に溺れないし、お風呂上がっても、火の精霊と風の精霊のお陰で一瞬で服も何もかも乾いちゃうし、お風呂場から出てきたら、
「水の中に入れちゃえば、後は勝手に土の精霊と水の精霊が身体洗ってくれるし…本当にいたせりつくせりよね…」
それは四代精霊の正しい使い方では無い。だが、4つの精霊を宿してるのはランドくらいしか居ない。本来の使い方では無い使い方が出来るのは彼の強みの1つでもあるのだろう。
「っていうか本当に。なんでずっと目を閉じてんの?」
雪音のタオル攻撃から少し苦しそうに抜け出すたランドは答える。
「いや…なんか不思議な感じだったから」
「不思議な感じ…って?」
感覚のない兄がまたおかしな事を言っている。不思議とか何とかそういった感覚は全て呪いで感じてないはずなのに。
ランドは雪音の問いには答えず席をひらりと外すと、器用にテーブルを避けながらベヒモス君の元へ歩み寄ると、倒れているベヒモス君を余裕で片手で肩に担いだ。ゆうに100kgは超えてそうな彼だが、ランドはまた器用にテーブルを避け、軽快な足音を立てながら階段を登って行った。
「はぁ…誰にでも優しく出来て、強くてかっこよくて、女子にもモテて…王子様って完璧な人間だよな…」
友人は軽快に階段を上がる友達の背中を見送りながら呟いた。
「あの馬鹿の愛嬌の良さは異常だからな。それにあの子は全然完璧でも何でも無いし…人なのか、兵器なのか…」
水無月の呟きに、睦月と雪音は表情を曇らせる。酒場の天井からドスンと大きな音とミシッと言う不安な音が鳴る。部屋にベヒモス君を寝かせた音であろう。この宿の耐久性に少々不安が残る…が、夜は
―――――――
「はい。皆さん忘れ物は無いですか?準備はよろしいでしょうか?」
今日も快晴で、光に照らされると街は徐々に明るさを取り戻してくる。石畳の道はキラキラと太陽の光を反射させ、異国から来た商人達が店を開け、街は活気に満ちてくる。
ランドの服装も昨日とは変わっていて、大きめのシャツにラフなズボンを履いている。大きめなシャツは胸元がはだけており、龍の手が心臓を掴みそうな
シャツは誰が着せたか一発で分かるような絵が描かれている。ハゲ頭の筋肉モリモリふんどしサングラスの男が、
勿論だが、そのシャツの持ち主にその痕の事を聞かれたが、はぐらかされて終わったのだとか。
「えー…帰りの
それは1人の人にしか言ってない様に聞こえるのだが、ランドは素直に聞いてる様に見えた。
「では、それでは皆さん集団行動ですよ。離れず馬ス乗り場まで行きますよ」
音羽先生は生徒達を先導するかのように先頭を歩き出し、その後ろを普通科の生徒達が付いて歩きだす。
その生徒達の両脇に武術科生徒を配置し、ランドは
馬ス乗り場まであと少しの所で、家の屋根の上に2つの人影がある事に水無月は気がついた。それは昨日、ランドに話があると言っていた人狼の2人。彼らは真っ直ぐコチラを見てそして頭を下げた。
いつの間にか目を開いていたランドは2人を見上げ、いつもの作り笑顔でその2人に手を上げて挨拶をした。そんな光景を見た水無月は何か違和感を覚えたが、特に気にする事もなく馬ス乗り場にたどり着いた。
馬スには列の先頭から順々に乗っていき、馬スが一杯になったらもう1台の方に乗り込む。水無月は前の方で指示している音羽先生の手伝いに行き、ランドは恭子先生と一緒に馬スに乗り込んだ。
行きの馬スはクラスで分かれていたが、帰りの馬スはクラスがごちゃごちゃになって乗り込んだおかげか、1台目より2台目の方が何故か女子率が高かった。
恭子先生は席につくなり
剛田先生は、ガタイが良くゴリラの様な人で、独身であるが
「恭子先生…生徒の前でタバコ吸わんで下さいよ」
「剛田先生。アタシ、ずぅぅぅーっと我慢してたんですよ!幸いにもあの口うるさい睦月が別の馬スに乗ってるんですから、ここは一つ許してくださいよ。なぁランド!お前は別に気にしないだろ?」
恭子先生の隣に座ったランドが絡まれる。
「ああ。恭子母さんが何やってても俺べつに気にならないし」
「本当に良い息子だなお前は!」
恭子先生が力任せにランドの頭を撫でくりまわす。それはハゲるんじゃ無いかと言わんばかりの強さで、ランドの首がガクガクと前後に揺らされる。
「あ。恭子母さんのこの髪飾り綺麗だな」
「だろ?これ、睦月の手作りなんだ。アタシの誕生日に、お母さんいつもありがとうって作ってくれてよ」
恭子先生が自慢気に髪飾りを外しランドに手渡した。その髪飾りはキラキラと色んな色のガラスの様な物で細工されている。
「いやぁ、本当になんであんないい子に彼氏が出来ないか不思議でなんねぇんだよな。家事出来て気遣い出来て、アタシとは全然似ても似つかないっていうの?」
恭子先生は大きく息を吸い煙を外に吐き出した。
「それどころか、私の事は気にしないで新しい人と再婚しなよとか言ってきて、あたしはね!ランドと睦月が成人になるまでは絶対に再婚なんかしないんだからね!全く…」
恭子先生はまた大きく息吸い煙を吐き出した。そして何か妙な違和感が段々と膨れ上がってくる。
「なぁランド?お前、さっき何て言ったよ?」
ランドは物珍しそうに髪飾りを色んな角度から見ていたが、ハッと止めると恭子先生に顔を向けた。
「ここから勢い付けて
「違うわよ。あんた、そんなくだらない事にあの力使ったら、死ぬ前に
ついさっきと聞いて少し考え込む。馬スに乗ってから恭子先生と話した事と言えば…
「睦月には言わないってやつか?」
「惜しい!そこじゃないの!その後よ後!髪飾りの
恭子母さんの髪に止まっている髪飾り。キラキラして色とりどりで綺麗な物だったのでランドの目に止まった事だろう。
「髪飾りが綺麗ってこと?」
恭子先生に髪飾りを手渡しながら、ランドが答える。
「そうよ!それ!あんた、この髪飾りが見えてるんだろ?」
恭子先生もまた水無月と同じ違和感を覚えていたのだ。目を開けていたとはいえ、あの
驚きと嬉しさが入り交じり、何が何だか分からない感情が込み上げてくる。と同時に恭子先生は後ろを振り向き馬スの椅子に乗り上げた。
「剛田先生。こいつ、目が見えてやがりますよ」
剛田先生はガッと席を立つと、前の席に座っていたランドの顔を手で挟む様に掴むと、自分の方に向けさせる。
ランドの目は濁りのない透き通った青い目をしている。
「お前、本当に見えてるのか?」
「ゴーダ父さんってこんな顔してたんだな」
ランドは優しく剛田先生の頬に手を触れる。いつもの作り笑顔ではなく、感情のこもった笑顔を見せた。剛田先生の目に
「うぉぉぉぉ!まさかランドがこんなに人間らしくなる日が来るなんて思ってもながったよォォォ」
剛田先生はランドから手を話すと、零れそうなくらい溜めた涙をこぼさないために、図太い腕でそれを抑える。
「音羽先生にLIINEで教えてあげなきゃ!」
恭子先生が携帯を取りだし文字を打ち始めると、剛田先生がそれをすかさず止めた。
「待ってください。今、この状態で音羽先生に連絡したら、あの人、動いてる馬スでも構わずこっちに乗り込んできそうで大変危険ですのでおやめ下さい」
普段は堅物で真面目な先生だが、子供のことになると急に親バカに急変するおかしな人だ。もし、ランドの目が見えるなんて知ったら、死に物狂いでコチラの馬スに乗り込んでくるだろう。恭子先生は、黙って携帯をカバンに戻した。
馬スはちょうど暗黒の森に差し掛かった所であった。道は荒れ、次第に縦揺れと横揺れが激しくなってくる。
しばらく暗黒の森を走っていると、どこか遠くの方から狼の遠吠えみたいな声が聞こえてきた。
ランドは遠くから聞こえる声に耳を澄ませながらまた目をつぶった。家に帰ったら、久しぶりに母さんと父さん、兄妹達、雪音の顔を見ることが出来る事に、少しだけ心が踊る様なそんな気がした。
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