第17話 修学旅行編 指輪
「はぁ…何をやってるんだあの国は…」
男性は頭を抱え
「すみません。私たち
「いや、悪いのは悪い大人達だよ。まさかあのお方の…いや、悔やんでも仕方ない事だ」
男性は蹲るのをやめランドに顔を向けた。
「それでも、こうして無事に成長が出来てこんな立派になって、またここに
ランドは不思議そうに首を傾げた。戻って来るも何もこの場所は初めて来た場所。それなのにこの男性は変な事を言うもんだと不思議に思う。
「今回、私たちの目的は、弟――ランドをここに連れてくる事が目的でした」
水無月は肖像画を見上げた。
ランドと瓜二つな顔をした女性――王妃様。燃え盛る都から子供達を守りながらドルク帝国まで逃げさせてくれた王妃様。ドルク帝国の城下町で死に逆らいながら男の子を産み、死の間際、王妃様は自分の子供に名前を付けた。その名前は『ランド』と…。そしてそのまま静かに息を引き取ったのだ。
水無月の頬を涙が
ドルク帝国までの何日も何週間もまるで自分の子供の様に扱ってくれた事。
追撃してくる兵士を果敢にも戦いながら守ってくれた事。
子供の時ながら今でも鮮明に覚えている。
そんな命の恩人でもある方の忘れ
目的は達成されたのだが、果たして本当に良かったのだろうか。天国にいるあの子の本当の両親は、今の
当の本人は肖像画を見ながらぼーっと立っていたが、ふと何かに気づいたのか肖像画に向かって歩み出していた。
その動きを2人は
ランドは肖像画が掛かっている壁の前で止まると何かを拾い上げた。
この部屋――というかお城自体、当時のまま保存してあるとは言え、埃などが被らないように常に綺麗に清掃はしている。そんな中で彼が何かを拾い上げると言うのは不思議な事であった。
ましてや、ただでさえランドの視覚は精霊の目を通して見ている訳だが、あの
「水無月!なんだろコレ」
ランドが拾い上げた物は、片手に収まるくらいの小さな物であった。それを握りしめ水無月の方へ向かって歩いてくる。
ランドは水無月の前まで来ると、パッと手を広げた。
それは何の変哲もない銀色の指輪であった。受け付けの男性もまじまじと覗き込んでくる。
「この部屋は特に綺麗に清掃していたのですが、この指輪が落ちてたなんて全然気づきませんでしたね」
「落ちてた?いや…今あそこに誰か居たよな?そいつが俺に何かを渡して来たんだぞ?」
そんなランドの話に、急に背筋が寒くなるのを覚えた。確かにランドは何かを拾い上げる仕草をしていたのだが、本人は誰かにこの指輪を渡されたという感覚だったのだ。
そうよね…ここは、この城の王様が亡くなった場所。きっと、王様の
水無月は誰も居ない肖像画がかかっている壁に向かって深々と頭を下げた。
それを見た男性も振り返り、手を胸に当て深々と頭を下げる。
そんな2人の仕草を見てランドも振り返るが、さっきまで見えていた人型の何かはその場から消えていた。どこに行ったのかも分からない。気配を読んでみたが、この部屋に居るのは男性と水無月だけ。そして、入口の方から同じ班の仲間達が近づいてくる気配を感じ取っただけであった。
―――――
「絶対ヤバいって!ここ立ち入り禁止区域でしょ?見つかったら怒られるって」
恐る恐るついて行くのは雪音だけであって、その他の人は見つかっても良いくらいに堂々と練り歩いていた。
「大丈夫だって雪ちゃん。なんかコッチの方からあの迷子の気配ぽいのと、
そこは立ち入り禁止の看板を乗り越え最上階に続く階段を上りきり、果てしなく続きそうな長い廊下をあるいていた。
激しい戦闘が行われていたのであろう、当時そのままになっている壁の傷が奥に行くたびにどんどんと激しくなっていくのが分かる。
壁に飛び散ったであろう血の跡は拭き取られてはいるが、うっすらと残っているのが生々しく感じる。
ここは、人が
「いやぁ~これこそ何か謎に迫ってるって感じがしてワクワクしてくるぜ!何か変な物とか出てきたら俺がか弱い女子達を守ってみせるぜ!」
意気揚々になかなか大きな声で
「うん!大丈夫!友人君より、クレイちゃんや愛花ちゃんに頼った方が心強いから」
アッサリと満面の笑みで睦月は友人のやる気を打ち砕く。
「うへぇ~睦月ちゃんそりゃ無いぜぇ!これでも一応は男なんだから…っと」
友人が言葉を止めた。長い廊下の先は二手に分かれている。右も左もボロボロになっては居るが、左の道は更に上に行く階段があるが、薄暗く階段も崩れては居るが一応上れるようにはなっていた。
睦月は深くため息をつき左の道を指さした。
「こっちからかな…2人の気配感じるの」
「何かそんな気がしたよ。まぁ、後で元に戻せば良いよね」
とクレイが皆の前に躍り出ると粘土を取り出す。
「コンコントントン土の精。笑って踊って私たちに力を貸して」
手の中にポゥっと光る魔法陣が現れると、粘土は形を変えみるみる階段を造りあげていく。
「うわぁ凄い!精霊使いクレイちゃんだ!」
雪音が目を輝かせその技を魅入る。
「本来ならこうした
クレイが大きなため息をついた。そのどっかの誰かさんなんて思いつく人物は1人しか居ない。我が兄の事ながら軽く作り笑いをして、その場を流す。
「ほら、でもせっかくクレイちゃんが階段造って…階段……だよね?造ってくれたんだから早く行こっ!」
万年美術ALL1の階段と思われる物体。その表面には謎の突起物が散りばめており、何かの生物を
雪音はゆっくりとその物体を踏みつける。
ギチミチミチミチと何か柔らかい物が音を立てる。空気の塊であろう、圧力がかかった事により、何かの生物を象った謎の突起物から悲鳴な様な音が聞こえてくる。
(ううん。何も聞こえない。私はただ階段を上ってるだけ)
そう心に何度も何度も呼びかける。
雪音に踏まれてぐちゃぐちゃになった突起物を後からみんなが静かに上っていく。
「ちなみに、これ…なに?」
愛花は階段と思わしき物体の上に潰れている突起物に目をやった。所々に人の顔の様な模様が見えるが、これはきっとシュミラクラ現象だろうと思うようにした。
※シュミラクラ現象とは、木目や模様が人の顔の様に見える現象。
「え?これ?ただの階段じゃつまんないし花が無いかなと思って、森の妖精達がお祭りをしている様に象ってみたの」
今の現状を見る限り森の妖精?達はお祭りどころの騒ぎじゃ無いなと友人は階段に視線を落とした。
「クレイちゃん。次からこういう機会があったらでいいんだけど、もっとシンプルな普通の階段とかでいいと思うよ」
愛花が静かに言い放つ。
上にあがるにつれ森の妖精達と思われる突起物の残骸がどんどんと激しくなっていく。先に行く雪音が狂ったように突起物がある所をわざと踏みつけているようにも見えたが、愛花は特に何も言わずにただただ後ろをついて上っていった。
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