第16話 修学旅行編 仲間

ドルク帝国から約半日ほど移動した先にある滅ぼされたもう1つの帝国『プリム 』。プリムはかつて古代武装国家として栄華えいがを極め、その脅威に怯えたどこかの国が討ち滅ぼしたと文献に載っている。

しかし、そんな武装国家も今や観光地として生まれ変わり、街はその当時のままに、そのままに狭い石畳の通りを、肌や頭髪の色の違う人々が、切れることなく行き交っていた。

市場には聞き慣れない様々な国の言葉が飛び交い、街角には道化師達が奏でる物哀ものがなしい音楽が流れ、街は異国情緒いこくじょうちょに溢れていた。

だが、街のいたる所に浮浪者や難民などがたむろしていた。魔物や怪物の襲撃を恐れた人々が故郷くにを捨てて、この観光地に流れ着いてきたことが容易に察しがついた。

そんな観光地に修学旅行として来ていた私立武装学園の学生達は、個別に班ごとに分かれこの観光地を各々と見学をしていた。


そんな中、ランド一行は武装国家のメインでもあるプリムの中心にそびつ古城の中を見学する。

人混みが多いこの街で、人を判別出来ないランドは個人で見学する事を強いられ(すぐ迷子になる為)1人気楽に城の中を見学していると、先日、チンピラと思わしき男達に絡まれていた他学校の女子生徒達フレイとアクアと偶然――といってもここしか観るところも無いが――出会ったのだった。


――――――――――――


「っていうか…またお1人で行動されてるんです?」


昨日会った時も単独で行動をしていたランド。それも仕方ないと言えば仕方ないのだが、その問いに答える前に2人の学校の先生だろうが話しかけてきた。

派手なローブを着た小太りの女だった。厚化粧で歳を隠してるが、もはや隠しきれないほどの年齢まで来ていた。背はあまり高くない。ランドは見下ろす形になる。


「昨日は、この子達を助けていただいたみたいで、ありがとうございます」


その姿とは裏腹に甲高い声、喉が酒焼けをしているのか少ししゃがれている。


「確か…私立武装学園の学生だとお聞きしたんですが」


初めて会った先生なのだが、その声や話し方にどこかで聞いたような気がしたがそれはすぐに判明したのだ。


「ウチの弟が、武装学園の先生をしているのですが、聞いた事あるかしら?龍虎りゅうこって言うんですが」


龍先生ならもちろん知っている。Cクラスの担任でもあり、武術科の先生でもある。

ランドはコクリと頷いた。


「あらそう、まさか同じ日にあの子の学校と同じ場所で旅行するとは思わなかったから」


小太りの女の先生はランドに近づいて来ると、ランドの顔をそっと手で触れる。指についた幾つもの指輪がカチャカチャと金属音を鳴らす。


「あなた…綺麗な目をしてるのね。とても純粋で汚れもなく…でもその奥に、深い闇が見えるわ」


ランドの澄んだ青い瞳のさらに奥にある闇とは呪いの事であろう。

しばらく小太りの先生は目を見る。そしてゆっくりと振り向いた。


「あなた達、今さら化粧をしたって無駄ですよ。この方、私たちの事が見えてない、もしくは見えてるが姿形程度しか見えてないわ」


それは後ろで待機していた他の学生達に向けての言葉だった。凛々しい少年のランドはどこへ行っても人気者だ。


「さぁ、アーシ(アタシ)達はもう行くから貴方あなたはゆっくりとこのお城を見学なさってくださいね。弟にもよろしく伝えておいて」


小太りの先生は手を下ろし振り向いた。それ以上は何も追及してくることも無かった。2人はまた頭をペコりと下げ先生の背中を追いかけた。ランドも背中を向ける。

とりあえず、この城を見学する事を終えようと思ったからだ。特に見るものも無いし――見えないが――視線を下に下ろしてからまた前を向く。

物陰から見覚えのある者がコチラを監視していた。――と言っても気配で付いてきていたのは分かっていたし、そもそも隠れる必要なんて事も無いのだが…。

ランドは隠れている水無月に声をかけようとしたが、その後ろにあの受付をしていた男性が立っていた事に気づいた。声をかけるタイミングを外され、その男性が近づいてきた。


――――――


「なんか、色々と壊れてはいるけど綺麗なお城だよね」


睦月は天井を見上げた。色とりどりなシャンデリアが天井にぶら下がっている。一つ一つがガラス細工で出来ており、キラキラと輝きメインホール全体を照らしていた。その大きさもかなり大きく、あのシャンデリアが落ちてきたらかなりの人数が潰されて命を落とすであろう。

そんな物騒な事を思いながら、城の中を見回した。


「ラン君1人で平気だと思うけど、やっぱりちょっと心配だなぁ…知らない人とかについて行っちゃいそうだし」


知らない人について行った所で危害を与えられるということも無いのだろうが、人を疑う事をしない彼の事だ。どこへでもホイホイついて行ってしまうだろう。


「まぁまぁ、大丈夫でしょ。水無月姉ぇがついてる事だし…あ。ほら、ここにこのお城の王様のこと書いてある!」


睦月が指さす方向に、壁にはられた剣を持った王様らしき人の肖像画。その下にその絵の説明が施してあった。


『プリム城の主である王。数多の武器を扱うすべを持っており幾千の戦場を駆け巡るその姿に、獅子王ししおうの称号を名付けられた』


「へぇ~、なんかランドと同じ能力でも持ってたのかなぁ?」


そんな睦月のひとごとともえる言葉ことばに目を丸くしてクレイ達は睦月を見た。


「あ。そっか。ランドの能力知らなかったんだっけ?この王様と似たような能力持ってるんだよね」

「似たようなって言うか、それって皐月さつき先輩と同じ能力ってこと?」


かつて獅子王と呼ばれたこの国の王様。常に前線に立ちたみを守るという事で有名だったそうだ。その王様の特筆すべき能力は、100の武器を扱い100の力を得ることであった。

どんな物でも分け隔てなく使えるランドと同一と思える様な能力だ。


「まぁ…皐月姉ぇのはランドの下位互換って感じかな。っていうか、無理矢理使ってる感もいなめないし…何より人を人と認識してるから私たちの能力ちからを使う事も出来ないんだけどね」


睦月の含みのあるような言い方に首を傾げる。そしてまた肖像画に目をやる。

獅子王と呼ばれた王様の隣に座っているであろう王妃様の顔は、戦いのあとであろう。破れて見れなくなっていた。



___________


「どうぞ、足もとをお気をつけて」


受け付けの男性はランドを連れ立ち入り禁止区域へと案内をしていた。

そこは他の場所より、より一層戦闘の激しさを物語っている。壁は斬撃ざんげきを受けたあとが残っているが、強固きょうこな造りになっているのだろう、崩れる事も無く元の部屋の形だけは残していた。


「ここは、王様と王妃様の寝室です。夜に攻められたこの場所で、身篭みごもった王妃様を守る為に王様は戦い続け…そして命を落とした場所でもあります」


なぜ男がここにランドを案内した意味があるのかは分からない…が、その場所は荒れ果ててはいるが嫌な気分になる様な場所では無かった。

部屋の奥の壁には大きな肖像画が飾ってある。それは、下の階にもあるのと同じ肖像画で、激しい戦闘があったのにも関わらず傷一つ無い綺麗な状態で保管してあった。

だが、呪いで視覚を失っているランドに絵は見えておらず、ただその絵を飾っている金縁の額縁だけが白黒で映っているだけである。


「私は、貴方様を初めて見た時に確信致しました。あなたもこの絵を見て分かると思いますが、王妃様と貴方様の顔が瓜一つなのを」


そう話すと男性はうっすら涙を浮かべながら肖像画を見上げる。


「え?いや、俺…見えてないけど」


肖像画を見て驚き固まっていると思っていた男性はバッとランドに向き直り、力強くランドの肩を両手で掴む。


「え?えて無い?と言うのはどういう事ですか!まさか…目が見えないんですか?」


後ろで隠れて付いてきていた水無月が姿を現し男性の元へと歩みよると男性のその問いを答える。






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