第11話 修学旅行編 視界
ガタガタゴトン…
ガタガタゴトゴト…
ゴンガンゴトゴト…
「はぁ…なんで
睦月がボヤいた。
現在、忘れられた都『プリム』への修学旅行中。集団で移動するならばと、手懐けた馬型の魔物『
馬ゴンは草食で人を襲ったりもしない大人しい魔物だ。動物の馬より体格も力も一回り以上あり、こう言った力仕事に一役買っているのであった。
馬スは2台。AクラスとBクラスが乗った馬スと、SクラスとCクラスが乗った馬ス。
「はーい!皆さん次はこの暗黒の森を抜けていきますよー!」
その馬スには馬スガイドが1人づつ乗っている。窓は無く外からの心地よい風が吹き抜けて行く。
暗黒の森は木々が生い茂り太陽の光を遮断してしまい、昼でも暗い森である。だからといって別に変に強い魔物が住んでたり等はせず、一般的に使われている森でもあった。
「この馬スには魔物よけの呪印が貼られてますので、魔物は寄ってきません!でも、だからといって先程みたいに窓から飛び出て魔物を狩るなんて行為は、絶対にしないでくださいね」
ガイドが笑顔でコチラを見てきた。笑ってはいるが多分内心は怒ってるだろうと感じられる表情をしていた。
暗黒の森に入る前の爽やか草原での出来事だ。その草原は特に危険の無い草原なのだが、その時はたまたま『
普段は大人しい草食の牛型の魔物だが、縄張りに入ってしまうと途端に
修学旅行では腕利きの傭兵が各3人づつ生徒を守る為に同乗していた。武術科生徒が護衛するという訳では無く、あくまでも生徒達が楽しく旅行出来るように学校からの配慮である。
生徒の他にも、各クラスの担任である水無月先生と龍虎先生。
そんな中、1人の傭兵__一番年配そうな禿げた頭に傷だらけの鎧を着た大柄のオッサンが、暴れ牛鳥を捕まえて昼ご飯のオカズにしようなんて提案をしたものだから、生徒の中からも一番空気の読めないあの男が周りから止められるのも聞かずに立ち上がった。
ランドだ。
傭兵達は大きな声で笑い飛ばす。武術科と言えども、こんな子供に何が出来るのかと。武器も持っていない、身体はしっかりと出来上がって居るが、大人ですら狩るのを苦労する暴れ牛鳥を仕留めるなんて出来やしないと。
傭兵達は馬スから降りると
まぁ、オレらにかかればこんなもんよと生徒達に自慢をするが、その自信はものの数分で崩れ落ちた。
昼ご飯は豪華に暴れ牛鳥の焼肉パーティーが開かれた。生徒全員や先生達のお腹いっぱいになるほどの肉の量だ。それもそのはず、傭兵達が小さい個体を狩っている間に、群れの
3体の牛の死体は、どれも頭を潰されておりその返り血で血まみれになったその少年が楽しそうにケラケラと笑っている事に傭兵達は寒気を覚えた。
___というのが、つい先程あったからである。
と言うよりも、目的地に着くまで馬スの中が生臭いのが嫌だったからというのもあった。傭兵達は
森の中を馬スが進むと、ひんやりとした空気が流れ込んできた。やはり陽の光が入らないとなると空気が冷たくなる。
「あ!見ろよユート。ブラッディウルフだ!しかも群れでいるぞ」
ランドが暗闇の中を指さす。友人は目を
「ユートあれ見てみろよ!あの
また指をさす方向に視線を逸らすが、本当に何も見えない。
「王子様…よく見えるな。俺、何も見えないぞ?」
「ユート君。ちょっと酔っちゃうかも知れないけど、ランドの視界をユート君に見せてあげることが出来るよ」
睦月が助け舟の手を差し伸べる。友人は目を輝かせ首を縦に振った。元より武術科生徒の特殊な
「ねぇねぇ。それって私たちも見れたり出来る?」
隣からクレイと愛花も身を乗り出した。
「うん。ランドの能力使えばみんなにランドの視界を見せること可能だよ」
ランドの能力という言葉を聞いて更に興味が湧いてきた。精霊の力を使って見ている景色とは一体どういうものなのかも気になる所だ。
「じゃあ、ランド。はい。手を繋いで」
ランドは小さく頷くと睦月と手を繋ぐ。
「ユート君とクレイちゃんと愛花ちゃんにランドの視界を移してあげて」
ランドは目を閉じる。その瞬間に、クレイの視界はぐにゃっと歪み新しい世界が見えてきた。それはとても不思議と言ったらなんだけど、不思議な世界だった。
全て灰色の世界。暗闇でもハッキリと物が見えるが、全て灰色で色その物が全くない。クレイは愛花の方を見て驚く。
愛花の身体が赤い光で構成されていた。勿論、愛花だけでは無い。他の者もみんな赤い光の塊にしか見えない。例えると、サーモグラフィーの様な感じだ。
彼はこの状態で誰が誰だかを把握している事が不思議であった。ただ、人の顔を見ることが出来ない。全てが光で構成されているので、顔の判別すらも出来ない…という事は、彼はもう何年も何十年と自分の母や妹の顔さえ分からないのであろう。
クレイはとても悲しくなってきた。目から大粒の涙が溢れてきた。それを見た睦月が慌てて手を離す。次第に3人の視界は一気に色のある世界に変わる。
「クレイちゃんどうしたの!?急に泣き出して…やっぱり酔っちゃった?」
クレイは首を横に振る。しかし、後の2人は急に視界が変わった事で目眩を起こし頭を抱えて目を
「ラン君いつもこんな世界を見ていたなんて…。誰も分からないし雪音さんや睦月さんの顔も分からないのって、なんだか孤独な気がしてきちゃって」
ランドに視界を提供している精霊…元より精霊自体が、人の顔や物の色などを見る必要が無い為だろう、それが彼のいつもの世界なのだ。
「でさぁ…結局ランド君の
目眩から回復した愛花が聞いてきた。睦月は少し考えて答えた。
「んー…それも半分正解で、半分不正解かなぁ」
「強化した相手の能力を使う能力?」
「それも惜しい!でも、今の同調を使ったのはランドだよ」
睦月の同調の強化版で自分の視界をみんなに見せたのは間違いないのだが、それすらも惜しいとはどういう事なのか。
「ヒントは、ランドが模擬戦でホウキで
ホウキは確かプラスチックな様な柔らかい素材だったのにも関わらず、弾冴の分厚い腹の肉をなぎ払い、最終的には硬い校庭に穴まで開けた…。それってもしかして…。
クレイが口を開きかけた時だった。馬スガイドが大きな声で被せてくる。
「はいっ!皆さんお待たせしましたー!暗黒の森を抜ければそこには!忘れられた都『プリム』に到着しましたー!」
ドルク帝国からおよそ半日ほどで、プリムに到着する。半日といえど、馬スのスピード等を考えると、徒歩だとかなりの距離があった。
忘れられた都プリムは、高い山に出来たような街であった。所々の家は未だに壊れていたりもした。その山の頂点には古城もある。
しかし、そんな見た目とは裏腹に何か不思議な幻想的な街並みで十数年前に壊滅したとは思えない美しさも
「みなさーん!馬スはここで降りて街の中は徒歩で移動します!忘れ物が無いようにしてくださいねー!」
馬スガイドが先に降りる。生徒達も座ってるのに疲れたのか一斉に立ち上がると、荷台はガタガタと揺れ始めた。
一通り人が降りたのを確認すると、睦月達も荷物をまとめて馬スから降りた。
「普通科の人達はこのままあの門をくぐって大丈夫ですが、武術科と傭兵の方はあちらの窓口にて、所持してる武器登録をしてください。この街では
ランド達と睦月達は一旦分かれ、別の入口に案内される。さほど時間もかからず__と言うより、武器らしい武器を持ってない為かサッとチェックされ終わった。愛花も
街の中に入るとその作りに圧巻された。外から見るのと中から見るのでは全然違った。
街の至る所には街灯が立ち並び夜でも安心して過ごせるようになっている。無数の路地からなる街並みがその美しさを
それにしてもさすが観光地というのもあり、街とは別に
「にしてもやっぱりすごい人混みだよね」
「うん。本当に…迷子になったら見つけるの大変そう」
愛花とクレイは人混みをかき分けて普通科の生徒達が入ってきた入口を目指す。
「あのさ、馬スの中でランド君の視界になった時あったじゃん?」
「うんうん。あの視界でこんな人混みなんて入ったら迷子になっちゃいそうだよね…」
不安が
もしかしたら、他のクラスの武術科の人達と一緒に居るのかも知れない…。可能性は極めて低いが…2人は顔を見合わせるととりあえず合流地点に向かった。
_____
「んー…ダメ。私の同調の範囲の外にいるみたい…そこまで範囲は広くないけど、学校の広さくらいだったら届くしね」
睦月は困ったように首を傾げた。ならば、今や誰でも持っているであろう携帯電話で連絡してみればと提案するが、兄妹の中で唯一持ってない。画面が見えないというのもあるし、何より使い方が分からないというのもあった。
「まぁ、あの子の強さなら変な人に絡まれようが問題は無いだろうし、自分より格下と思えば手を抜くだろうし…心配しないで私達は旅行楽しみましょ!」
こういった事態に慣れてるのかなんなのかは分からないが、睦月はみんなの心配を
ランドと出会ってまだ数ヶ月しか経っていないのだが、スイッチの無い爆弾が訳も分からずその辺を歩き回ってるという不安が2人の脳裏に焼きついて離れなかった。
そして物語は10話冒頭に戻る___
_____
「よぉ兄ちゃん。なんか文句ありそうな顔してやがるなぁ!あぁ?」
「兄貴!コイツやっちゃいましょうよ!」
「オラァ金だせや!金をよぉ!」
ランドは3人の男達に囲まれていた。時は、昼下がり、まだ太陽が空に輝いてる時、路地裏で絡まれている。
近くには、普通科の女子生徒が2人怯えながら座っていた。見た感じうちの学校の生徒では無さそうだ。
ただ迷子になり訳も分からず歩いてただけなのに…そう思いながら兄貴と呼ばれていた真ん中の男を見た。背格好はランドと同じくらいの背の高さだ。ほかの2人はそこから少しだけ背が低い。見たところ相手にもならない程の
はぁ…。とため息をついた。一緒に入口に入ってきた愛花とクレイがいつの間にか居なくなっていたし、人が多すぎて誰が誰だかの判別も出来ないし、なんかいつも
そんなランドのため息を聞いてか、男達が逆上した。何かギャーギャー騒いでるが今はそれどころでは無い。この子達は迷子になり怯えてるのだと思い近づく。
「(みんなと離れて)大丈夫か?」
と聞くと、女の子達は首を横に振った。
「そっか…俺も(みんなが離れて)大丈夫じゃないんだよな」
女の子達はビクッとした。助けてくれると思っていたのに、この状況が大丈夫じゃないと感じたのか更に恐怖に怯え始めた。大声を出した所で表通りを歩いてる人に声は届かないだろう。
「ヒヒッ…そうだよなぁイケメンの兄ちゃんよォ!お前は今はピンチの状態なんだよ」
男達はぞろぞろと3人を囲み始めた。
「あぁそうだな…なぁ(みんなを探すのを)助けてくれたり出来ないか?」
男3人は大きな声で笑いだした。一通り笑ってから顔を上げる。
「おいおいおい…さっきまでの威勢はどこ行ったんだよ!クソガキが!」
背の高い男が壁を蹴る。勿論、自分に当たる攻撃では無いので、受けることも避けることもしなかった。
「それによぉ、お前さっきから年上相手に敬語がなってねぇよなぁ!敬語ってモンを教えてやるよ!」
ランドの顔面目掛けて鋭い右ストレートが飛んできたが、軽くそれを受け止める。
「へぇ~『けーご』って奴は、殴る事なのか?」
ニコニコとし、男が必死に拳を離そうと引っ張るが、ランドはそれを離さなかった。特に離さなかったことに意味はないのだが、捕まえておく必要も無い。
「てめぇ!離しやがれ!!」
パッと手を離すとその勢いで後ろに倒れた。他2人の子分達が慌てて背の高い男を起こしにかかる。
「なんだコイツ…舐めやがって!」
男がチラっと子分を見ると軽く頷き合う。へへっと含み笑いニヤリとすると、腰元から刃渡りは短いナイフを取り出した。大抵の奴らは、ナイフで脅せば金を落として逃げていく。しかしこの小僧は自分らを舐めているので、少しくらい痛めつけても文句は無いだろうと…
「はぁ…やめろよ。それ、俺に向けたらお前らに手加減できる自信がないからさ」
ブチブチと頭の中で何かが切れる音がする。
「俺らを舐めやがるとどうなるか教えてやるよ!」
チンピラ3人がナイフをランドに向けたと同時に、パンと言う音共に背の高い男が向けていたナイフが空気を切りながら上空に飛び上がった。
「俺もお前らに教えることがあるよ」
ナイフを蹴りあげた足を戻しながらまずは
「その1、武器を向けたなら相手から目を逸らすな」
ナイフを押さえ込んだ手とは別の腕で、チンピラの1人の顔面に
「その2、武器を抜いたなら命をかけろ」
そのチンピラの手からナイフをもぎ取ると、反対側に立っていた子分に投げつけた。ちょうどその頃、上空を飛んでいたナイフが勢いを無くし落ちて来ていた。投げたナイフが、落ちてきたナイフに当たり刃が折れ柄の部分だけがもう1人の子分の顔面に直撃した。
「その3、対して使えない武器を偉そうに持つのはやめた方がいいぞ」
落ちてきたナイフにナイフが当たった事により少し浮き、それを左手で掴むと、背の高い男の首元に突きつけた。
「やば…」
「えーめっちゃカッコよすぎ…」
さっきまで怯えてたのが嘘の様に、憧れの目つきでランドを見る。ランドはナイフを首元から外すとカチャッと音を立てて刃をしまい背の高い男に返した。
「見逃してやるから、そこの倒れてる2人持ってどっか行けよ」
男に背を向け女の子達の元へと歩き出した。しかし、プライドを傷つけられた男はランドの背中を睨む。渡されたナイフを握りしめると、ギリギリと
チンピラ業を長年やってきたが、相手にしてはいけない相手という物があった。長年の勘と言うやつである。しかし、このままではプライドというものを傷つけられた事ある。
意を決して男は背中を向けているランドに飛びかかろうとした時だった___
「待てっ!!」
と大きな声が聞こえた。裏路地に入る入口に数人の衛兵が立っていた。小ぶりな盾とショートソードを持った街の衛兵である。
飛びかかろうとしていた男に静止をかけた。男は逃げようとしたのだが、地面に のびている子分たちを置いておけないのか、両手を上げて降参のポーズをとった。
ドカドカと鎧を着た重たい足音を立てながら衛兵達がやってくると、チンピラ3人組を拘束し始めた。
「君たち大丈夫かい?怪我とか無かったかい?」
コクコクと首を縦に振り怪我が無いことを無言でアピールする。
「君たちは見たところ『国立魔法学校』の子達だね。その見た目が
衛兵がコチラを見てくる。みすぼらしい格好はしていないが、黒ずくめの服装。腰に鎖付きの変な玉と緑色のクリスタルみたいな石を付けている。変質者っぽくは無いがこの街では見た事がない。
「武装学園のしゅーがくりょこーで来たんだけど」
衛兵はフムっと頷くと、1つ提案をしてきた。
「実は最近、こういった修学旅行生に混じって悪者が悪さをする事案が多数寄せられていてね。悪いんだけど、学生証は持ってるかな?」
衛兵の提案にすぐさま女子学生2人は懐から手帳みたいなのを提示する。問題はコッチだ。学生証は配られたはずだが、持ってる訳も無くどうしたものかと困っていた。
「君は、持ってない…のかね?うーん…持ってないと、本当に武装学園の子なのか悪さをする人なのか判別出来ないなぁ。身分証とかも持ってないよね?」
ランドは少し考えそして腰に着いてた緑色のクリスタルを差し出した。この石は、すっごい昔に赤龍に渡された石だった。この石を見せれば大抵何とかなるから、困ったことがあったらこの石を見せるんだ。と言われたことがある。
まぁ、第2話くらいにちょろっと出てきて今まで忘れられていた装飾品にそこまで効果があるとは思えないが。
衛兵は差し出された石を見て隊長と思わしき人物に話しかける。隊長はその石を見るなり物凄い形相で近づいてくると、勢いよく頭を下げ始めた。
「も…申し訳ございません!部下が大変失礼をした模様で!!」
そんな隊長の様子を見てか声をかけてきた衛兵も頭を下げ始めた。一番この状況について行けないのはランドであったが。
「た…隊長!この石って一体何なんでしょうか?」
「馬鹿者!この石は……ドルク帝国の………で…………だぞ!」
隊長が最初に声をかけてきた衛兵の耳元でその石がどういうものなのかを打ち明ける。それを聞いていた衛兵の顔がどんどんと青ざめていった。
「こ…この
いきなり頭を下げてくる衛兵達に戸惑いが隠せない。ランドはとにかくこの場から離れたくなってきた。
「私立武装学園が取っている宿は、龍エリアの宿ですな。もし宜しければわたくしめがご案内をさせていただきますので」
隊長格の衛兵が顔を上げコチラを見てくる。ランドは首を横に振り断るが、隊長格はそれを譲らない。
「いえ!またもしもこの様な事があるといけませんので、わたくしめが貴方様を『
聞き覚えのある言葉が出てきた。それは先程、あの背の高い男が教えてくれた言葉だ。
「いや、俺のことをけーごしなくて大丈夫だって…どうせ当てられないんだし」
「???…いえいえ、わたくしに是非とも警護させてください」
言っても聞かないし困ってしまう。そんなに俺の事を殴りたいのであるならば、その前にこの男を無力化させてしまえば済む話だ。
ランドの右ストレートが隊長格の顔面を捉える。流石に魔力は込めずに殴ったので致命傷は避けられるはずだ。衛兵達のどよめきと、女子学生の悲鳴が混じり初めての修学旅行が始まっていく。
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