修学旅行編

第10話 修学旅行編 気絶

「よぉ兄ちゃん。なんか文句ありそうな顔してやがるなぁ!あぁ?」

「兄貴!コイツやっちゃいましょうよ!」

「オラァ金だせや!金をよぉ!」


ランドは3人の男達に囲まれていた。時は、昼下がり、まだ太陽が空に輝いてる時、路地裏で絡まれている。

近くには、普通科の女子生徒が2人怯えながら座っていた。見た感じうちの学校の生徒では無さそうだ。

ただ迷子になり訳も分からず歩いてただけなのに…そう思いながら兄貴と呼ばれていた真ん中の男を見た。背格好はランドと同じくらいの背の高さだ。ほかの2人はそこから少しだけ背が低い。見たところ相手にもならない程の雑魚ざこと言うのだけは分かる。この3人は、年の瀬は赤龍せきりゅう達くらいだろうと感じ取れる。手を出しても問題無さそうだが___あまりやり過ぎると、後で兄達に怒られそうだなと思った。

何故、こんなめんどくさい事になったのか…ランドは記憶を辿る_____


時は遡り3日前の事だった____


_______


『以下の者を厳重に処罰致します。


1年Cクラス 御手洗みたらし 弾冴だんご 停学3ヶ月

1年Cクラス ランド 学園周辺ランニング45km


以上』


廊下にでかでかと貼り出される。

次の日には校舎が直っていたのも驚きだが、それよりも、なによりも、全治半年はかかりそうなくらいズタボロだったランドが普通に登校してきたのにも驚いた。Cクラスと言わず全学年で驚いていたが、当の本人はいつものように顔を机に伏せて寝ていた。


「ね…ねぇ、あの肉だるまが停学っての分かるけど、なんでラン君まで罰受けんの?」

「ちょー意味わかんないよねー」


恐らくだが、ランドの意思では無いが、校舎をほぼ壊滅させた事を含めての罰なんだろうなと友人は思った。


「なぁなぁ王子様。起きろって」


友人ゆうとは、寝ている人の頭をグリグリする。ランドはガバッと顔を上げ友人を見た。


「なぁ、昨日なんかめちゃくちゃヤバそうだったのに、1日で治すなんてどんだけ生命力高いんだよ」

「え?あぁ…しろに治してもらっただけだよ」

「そっか……ってオイ!」


友人の放つ鋭い手刀がぼふっと音を立ててランドに当たる。周りから見れば仲のいい友達同士。友人もあの場に居たのでランドがどういう人間かも知ることが出来た。

別に感情が無くったってさ、絡んでみればちょっとおかしな普通なイケメンな奴ってだけじゃん。そう感じ取れるのも彼の性格なんであろう。


「王子様の言う白って…2年生の岩男いわお先輩の事だろ?」

「いわお?」

「そうだよ。なんか、岩みたいな見た目の大男だから周りからそう呼ばれてんだって」


ランドは暫し考えた。どこからどう見たら岩に見えるのかが分からない…。そもそも白龍は人間ですら無いのに…。友人は何を言ってるのか…。


「岩男先輩が治してくれたって、そういう能力ちから持ってるって事?俺だったら保険の水無月先生に治してもらいてぇなぁ!あの人も王子様の兄妹なんだろ?良いなぁ…あのむちむちでエロエロに…ぐふふふふふ」


妄想が妄想を超えいやらしい笑い声が吹き出る。周りの女子がコチラを嫌そうな

目で見ている。中には怒ってる女子もいる。ランドはポカンとする事しか出来なかった。


「あ、そうそう。そう言えば、王子様は準備とかしたのか?」

「準備?」


急に準備なんて言われたので、もし文字が具現化する世界だったらランドの頭の上には大きな?マークが浮かんでいただろう。


「そう準備。旅行の」

「旅行?」

「そうだよ。前に班決めしたじゃん。修学旅行だよ」


記憶を思い返してみればそんな気がしてきた。よく分からない事でクラスでギャーギャー騒いでた人達を遠くでボーっと見ていた気がした。

武術科は武術科で1組になるか、普通科と混じるかの論争に、クラスの女子全員が普通科に混ざるという意見と、普通科と混ざるなら男子と女子で分けろという、普通科男子達の反論で事態は騒然となった。

結局、武術科は武術科でまとまるという話で決まり、そこに何故か普通科の友人も加わるという事になったのだ。


「で、さっき先生に言われたんだけど、弾冴が停学になったじゃん?だからそこに、Sクラスの雪音ゆきねちゃんと睦月むつきちゃんが加わる事になったからって」


先生曰く、ただただ心配という事だった。弾冴君も心配だったが、友人君とランド君と心配と不安で押しつぶされそうだった所、弾冴君が停学になったのでという理由の体で、Sクラスの雪音と睦月を監視役で無理矢理クラスの垣根を超えた班決めをしたそうだ。

その件に関しては、他クラスからも反論が集まった事は言うまでもなかった。


「王子様、絶対忘れてただろ?行く場所とかも忘れてるんじゃないのか?」

「あー…うん。分かんない」

「だろうな…。よし!俺が説明をしてやるからメモの準備しろよ」

「俺、字書けない…」

「ぐっ…そうだった。よし!俺が一生懸命書いたこのメモを見ながら説明してやるならな!」

「俺、字読めない…」

「ぐああああああ!!そうだったぁぁぁぁぁ!!もう!お手上げじゃねぇぇぇかぁぁぁぁぁぁ!!!」

「ユート元気だな…」


頭を抱えて叫ぶ友人。廊下にこだまとなり響き渡る声。


【大丈夫…私と雪音ちゃんで準備してるから】

「うわっ!なんだ!?頭の中に声が聞こえてきたんだけど!」


驚いた友人がキョロキョロと辺りを見回す。とうとう頭がおかしくなったのかと、遠巻きで友人に視線が集まる。


【ユート君の声、コッチまで聞こえてきたから多分ランドの事で頭抱えてるのかな?って思って】

「そうなんだよ睦月ちゃん!なにこれ?どこいんの??」


友人はそんなとこに居ないだろと思うような机の中やカバンの中を見たが、当たり前だが睦月は居ない。


【ま…まぁ、電話じゃないから声出さなくても聞こえてるから…。頭痛くなるからあんまり大声出さないで欲しいかな…】

「すっげぇ!武術科ってこんなこと出来んのかよ!」


目をキラキラと輝かせ友人は立ち上がる。立ち上がる際に机の角に膝をぶつけていたが、感動がまさって痛みを感じていないようだ。


【いや、本当に頭痛が酷いから…それに私、武術科じゃないし】

「あっ!そっかぁ!そうだったよね!睦月ちゃんは普通科だった!って事は、武術科である王子様ってもっとすげぇ能力持ってたりすんの?」


急に話を振られボーっとしていたランドはすぐに我に返る。この能力の話に、女子2人も聞き耳をたててる気配を感じた。


「ほら、なんか昨日はめちゃくちゃ弾冴を吹き飛ばしてたし、あれも能力みたいな奴なんじゃないの?」

「いや__あれは別に、俺の攻撃手段っていうかそんな感じ…かな」


掌に魔力を集中させ一気に放つだけの簡単な攻撃方法で、昨日は容赦なく放ったが実は意外にも威力はある。あの攻撃を放つ前にランドは能力を使っていたのだが、どう説明をしたらいいかが分からず口篭くちごもる。


「まさか…自分の能力は分からないとかじゃないよな?」

「いや__なんだっけと思って…名前。あかが前に教えてくれたんだけど…完全フル完全フル……思い出せない」

「フルフル?なんかどっかのハンターが討伐しそうな名前だな」


いやそうじゃないでしょ!というツッコミが聞こえてきそうな空気に、女子2人は肩を落とした。それにしても今日は天気も良く窓から心地よい風が流れてくる。


「それはそうと、王子様さぁ…旅行の前にあのマラソンやっておかないとヤバいんじゃないの?」

「ん?マラソン?」

「学園周辺45kmマラソンだよ。なんか罰が重いよなぁ。これって何日くらいかけて走んの?」

「あぁ…さっき走ってきたけど、もしかして足りなかったかな」


友人はチラッと時計を見た。今は昼休憩。さっきと言うのは、授業と授業の合間にある10分くらいの時間だろう。その時間なら良くて1kmとか2kmくらいしか走れないだろう。


「この学園、無駄に敷地広いからな。1周5kmくらいあるから、旅行までに9周走れんのか?」

「え!?後、9周しないとダメだったの?」


やっぱり…と友人は思った。流石さすがに、10分やそこらで45km走るのは早すぎる。まぁ、10分で5kmも早すぎるが…


「はぁ…やっぱ15周じゃ足んなかったか…」

「は?王子様15周!?10分で?」


そこで、横からクレイが口を挟んできた。


「ラン君、体力バカだから、45km程度じゃ多分なんなくクリア出来るよ」

「ねー!龍先生りゅうせんせーの地獄の30kmマラソンとかいつも1位でゴールするし、むしろウチらを待つ間に追加で2周くらいしてるし」


愛花あいかも口を挟んできた。友人は開いた口が塞がらなかった。っていうか、世界新記録を取れるんじゃ無いかという疑問まで浮かんでくる。


「ま…まぁなんにせよ。王子様の罰は終わってんなら言うこと無いわな。…で、旅行の話に戻るけど…、今回行く所ってのがこのクルシス大陸の最北端にある忘れられたみやこ『プリム』って街なんだけど知ってるか?」


ランドは首を横に振る。


「だよな!知らないのは無理も無いよな!プリムは数十年前に滅ぼされた街なんだけど、今やそこは観光地に開拓されてまた多くの人が住んでるんだってよ。まぁ、俺もなんで滅ぼされたかは知らないんだけど、そこは様々な武人達が住む街だったらしいんだよな」

「へー…」

「ってオイ!王子様興味無さそうだな!それなのに忘れられた都なんて2つ名までついて、俺はさぁこの修学旅行でその謎を解明するつもりで行くからな!」

「うん…それは良いと思うけど、さっきから先生がユートの事睨んでるぞ?」


はっ!と我に返る。よく見れば周りは静かに座って前を向いている。友人はゆっくりと振り向くと、イライラした顔で先生がコチラを睨んでいた。いつの間にか、昼休憩終了のチャイムが鳴っており、先生の中でも怖い分類に入っている現代社会の音羽おとは先生が立っていた。40代半ばくらいの男性教師だ。


仲間なかま友人ゆうと君…減点と」


ボソッと呟き何かに書き物をする先生。その無情なペンの音が教室に響き渡る。


「せ…先生ちょっと待ってください」


友人の訴えも虚しく先生は授業の準備を始める。


「先生。あの、俺もユートと一緒に騒いでたから、罰も一緒に受けるんでその減点っていうの半分こして欲しいです」


ピクっと先生が眉をひそめた。そして怪訝そうな顔でコチラを見る。


「それは友達を思っての言葉ですか?ランド君」

「友達…?よく分かんないけど、ユートと話してるとなんかこう変な気持ちになるんだよな。なんて言えば良いのか分かんないけど…」


先生がニヤリと笑った気がしたがすぐにしかめっつらに戻る。


「分かりました。では、2人にはそれぞれ後で課題を出しますので、それが終わったら減点は無しにします」


先生はすぐに後ろを向き黒板に大きく図面と文字を書き始めた。


「今回の授業は、皆さんが修学旅行で行く忘れられた都『プリム』の話をして行きます。先程、友人君が大きな声で説明をしてくれた通りここは多くの武人達が作った1つの都市でした」


教室に小さな笑い声が聞こえてきた。友人は席に座り直しノートを広げる。


「この都市は大きく3つの部族に分かれていました。3分の1が、『りゅうの一族』、3分の2が『げいの一族』。そして、その部族に挟まれて真ん中に巨大な城には『の一族』が住んでいました。この『龍の一族』と『芸の一族』は、『武の一族』を護るようにしていたという事です」


カッカッと黒板にチョークが当たる音、生徒達がシュッシュッとノートにペンを擦る音を聞きながら、黒板に書かれた絵を見ながらランドはボーっと見ていた。見た事も聞いた事も無い街なのに、何故だか心の奥底に何か光が感じ取れる気がした。だけれど、その光がなんなのかは分からない。どす黒い闇のような物がそれをはばんでいる。そんな気がした。


_____


「だぁぁぁぁ!!終わったぁ!」


友人はノートの上に顔を乗せうつ伏せになる。


「っていうか課題ってなんだよ!いやその前に、王子様!」


ガバッと起き上がりコチラに向く。色々と騒がしい奴…


「さっき、俺の事、友達って言ってくれたよな!なっ!!」


目を輝かせ凄い勢いで両肩を掴まれた。


「友達って…なんだか分かんないけど、ユートと話してるとなんか雪音やむつと一緒に居るようななんだかよく分かんない気持ちになれるんだよ」

「王子様!それが『楽しい』って気持ちなんだよ!」

「『楽しい』気持ち…?」


ランドは胸に手を置いた。なんだか物凄くモヤモヤする様な気持ちになる。


「楽しい…楽しいか…うん。楽しい気持ちになる」


ニコッと子供の様に笑う。その笑顔はいつもと違う表面上の笑顔では無く心から笑った様な気がした。そして休憩中もあってか廊下に出ていた生徒やクラスに居た大半の女子生徒の心も奪う。


「王子様!今、心から笑ったよな!?もっかい笑ってみてくれよ!」


そしてぎこちないいつもの表面上の笑顔に戻る。友人は肩を落とした。


「王子様…いや、でもこれなら何とかなりそうじゃないか!あぁっ!ていうか課題忘れてた!あの先生の事だ絶対難解不落なんかいふらくな問題ふっかけてくるじゃねぇか!くそぅ!」


怒ったり笑ったり驚いたり色々な表現をする友人に、ランドは心にモヤがかかる感じがした。普通の人はこういう風に、色々と表情を変えたりするのに、俺はなんで何も感じないのか…。


「よし!王子様!ここは1つ手を打って、闇に紛れて音羽先生を闇討ちしてやろうぜ!」


それは友人なりの冗談でもあり、本当にそんな事をやるつもりは無いし、普通の一般人ならば笑って終わるような話でもある。しかし相手は冗談など通じる相手では無い。友人の言葉が終わるか終わらないうちにランドは友人の首元にナイフを突きつけた。


「父さんを傷つけるならユートでも容赦はしないぞ」


音羽先生は、ランドを引き取った里親だったのだ。家族を傷つけると言われれば怒って当然の事だった。

Cクラス全体に重い空気が漂う。寒気が止まらず身体が震え止まらない。


「お兄ちゃん!」


雪音の声に、はっ!と我に返る。重い空気もパッと消えた。だが、その後遺症は充分に残っている。

ランドの殺気は、個人に対して放つ事が出来るが、今みたく家族の事になるとなりふり構わず出てしまう。異様な空気を感じた雪音が兄の元までやってきたのであろう。


「お兄ちゃん。怒る気持ちは分かるけど、普通科の人に手を出し……怒る?え?お兄ちゃん怒ったの?」


ランドは手を引き首元からナイフを外した。小さく呟くとナイフは光とともに鎖付きの玉に戻る。


「…なんか、こう何かがゴワってなった気がしたけど、分かんない…」


両手を上げてガタガタと震える友人を見て、今度は心が塞がっていく気持ちになる。この場から離れたい。そんな気持ちでいっぱいになってくるが、どす黒い闇のような物がグルグルとランドの身体の中をかき回す。

気持ちが悪い…なんだこれは……


「お兄ちゃん?どうしたの?」


急に頭を抱えてうずくまる兄に声をかけるがその声が聞こえてない様だった。


「分からない……わからない……ワカラナイワカラナイ…」


意識が遠のいていく。遠くで叫ぶ雪音の声が聞こえてきたがもうその声に応えることは出来ずランドは目を閉じた。


______


目を開けるとそこには見慣れた天井が見えた。いつの間にか自分の家に帰ってきている。何が起きたのかも分からない。

身体の中をモヤモヤがうごめきランドの意識を乗っ取っていく気がした。

ランドは上半身だけ起こす。周りを見るとベッドが2つ並んでいた。

ここは、両親の寝室だ。窓の外を見ると陽が暮れている。外に見える街灯の光がとても眩しく感じた。


「あ。起きた?」

「水無月?」


学校では白衣を着ていたが、今は私服に着替えてランドの隣に座っていた。


「ランドが急に倒れたって、雪音ちゃんが慌てて保健室まで来てね。もうそこからは大変よ。赤龍に黒龍こくりゅう、如月や皐月、弥生やよいに睦月、白龍までみんなしてクラスに来てギャーギャー騒いでしっちゃかめっちゃかで、睦月は色んな人に同調どうちょうを飛ばすわ、黒龍と白龍は元の姿に戻ろうとするわでね」


思い出しながら落ち着いて笑う水無月に、ランドはただボーっと頷いた。


「どうしたの?倒れるなんてらしくない」

「なんか…分かんないけど、身体の中に何かがボワボワってグルグルってして」


また胸の辺りに手を置いた。


「そっか。多分、今まで感じた事の無い感情が容量キャパシティオーバーしたのね。呪いの力を自信で反発しようとして身体が耐えれなくなっちゃったのよ」


ドアがノックされ赤龍が入ってきた。意思が戻っているランドを見ると少し安心した顔をして、ドカッとベッドに腰を落とした。


「お前の友達のユートって奴が、お前が目を覚ましたら『ごめん』って謝っといてくれってさ」

「ランドも、その子の首にナイフ突きつけたんでしょ?なら、明日会ったらごめんってちゃんと言うのよ?」


2人が何を話してるのか分からない。ただ、ごめんって言葉を聞くと少し落ち着く様な気がした。


「ランドに友達が出来て、喧嘩して仲直りして、なんか普通の人になってきて良かったわ」


水無月はランドの頬に手を当てた。


「だな。俺たちの身代わりに全部の呪いを受けて感情も何もかも無くしたコイツを見た時、自分の弱さを呪ったよ。"あの時"は何も出来無かった…」

「それは赤龍だけの責任じゃないわ。ランドがみんなを守っての行動だったのよ。みんなこの子に助けられたの」


赤龍は俯き固く拳を握る。力が入りすぎて指の間から血が流れていく。


「俺…学校楽しいよ。ユートと話してると楽しい気持ちになるんだよ。この気持ちは楽しい事だって教えてくれたんだ。でも俺、ユートに何かしちゃったんだろ?ごめんって言えば元に戻るの?」


バッと赤龍は顔を上げランドをみる。今なんて言った?楽しい気持ち?


「そうよ。多分、ユート君はランドを怒らせちゃったの。でもランドもユート君にひどいことをしちゃったのよ。だからお互いに『ごめん』って言って仲直りするのよ」


頬に当てた手でランドを撫でる。まるで子供を扱う様な目で___


「にしてもよぉ…こんな時になんだけど、水無月のその私服なんだよ」


赤龍が指さすのは水無月が現在着ている私服。赤いパーカーなんだが、アニメのキャラみたいな絵が描かれていた。禿げた頭に犬の耳を付けて青い身体に筋肉モリモリでふんどし一丁の男が描かれている


「え?なに?土木えもんよ?知らないの?今、子供達に大人気のアニメ!近未来から来た犬型汎用ロボットの土木えもん。ふんどしの中からいつも素敵なアイテムを出して居候させてもらってるノビオ君を助けたり窮地きゅうちに追い込んだりするのよ」

「窮地に追い込むって…それもう子供が観る物じゃないだろ」

「次回の土木えもんは、ノビオがシズミちゃんのお風呂を覗いたから、土木えもんがシズミちゃん側の弁護士になって慰謝料800万請求したら弁護士費用いくら取れるかな?っていうお話なのよ!」

「だからそれ、子供が観るもんじゃねぇだろって!!」

「他にも人気の話は、ノビオの学校の給食費をギャンブルで10倍にしてみた。とか、ノビオ常に給食はパンの耳とかあるのよね」

「窮地にしか追い込んでねぇじゃねぇかよ!なんなんだよそれ!」

「フフッ…」


ランドは楽しくて笑いだした。その表情に2人は顔を見合わせてポカンと見ていた。


「ランドが笑った!おいカメラ!俺の携帯どこだ!!」

「ちょっと!私の携帯が先でしょ!ランド成長期フォルダに収めるのよ!」


バタバタと騒ぐ2人を見ながらランドは吹っ切れた様に笑い続ける。今まで感じて来れなかった溜まった分を一気に吐き出すかのように。

その音を聞いてかぞろぞろと他の部屋に待機していた兄妹達も部屋に入ってくるなり慌てふためき騒ぎだした。

日も落ちて静かな夜にこの家から声が漏れる。近所の人は慣れているのかこの騒がしい声を聞きながら騒がしい夜を過ごしていく____







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