第7話 特殊な授業と特殊な体質

「なぁマンジュウ?おーい!マンジュウ!聞いてるか?マンジュウ!」

「だぁぁぁ!うるせぇ!ランドてめぇは!いい加減俺の名前覚えろよ!ダンゴだよ!ダンゴ!!」


教室中に弾冴の声が響き渡る。

今日は朝から「呪いの装備品や物を受け取らない・装備しない講座」が開かれる為、Sクラス~Cクラスまで1つの部屋に集められ講義が開かれていた。

龍虎先生は軽く咳払いをして騒ぐ2人に注意をする。他の生徒達がクスクスと笑っている。


「なぁマン…ダンゴ。呪いってなんだ?」

「てめぇ…字が読めないからって何でもかんでも隣にいる俺の所に聞いてくんじゃねぇぞ。今それを龍先生が説明してんだから静かにしとけや!」


また龍虎先生は咳払いをするとコチラをギロリと睨みつけた。その目つきに怖気付いた弾冴はサッと教科書に顔を隠した。


「…であるからして、こういった呪いがかかっているものに関して手に入れてしまった場合は、すぐに帝国騎士団の詰所に持っていき処分をしてもらって下さい」

「せんせー!その呪われた物って知らずに手に入れたり装備しちゃったらどうしたらいいですかー?」


Sクラスの真面目そうな普通科の男子生徒が手を挙げて質問をする。


「うん。いい質問だね。私達は、そういった物を事前に回避する術を身につけないといけない。そこで今回皆さんにお渡しするのがコレ!呪い探知水晶です!」


龍虎先生が手のひらサイズより一回り小さめな水晶玉を取り出し高々と持ち上げた。青い光が薄く輝いている。

複数の教師が最前列の生徒に箱のような物を渡す。中には水晶玉が沢山入っており生徒は1個取り出し後ろへ回す。

最後列に座っていたランド達への元にもそれが届いた。


「うわぁ綺麗!普通にアクセサリーなんかにしても可愛いよねー!」


クレイは、教室の明かりに水晶玉を照らしキラキラ光る玉を眺める。


「むしろCクラスの武術科で、みんなでお揃いのアクセサリーに…」


と言葉が途中で止まる。ただ1点を見つめ動きも止まる。不思議に思った愛花がクレイの見ている方向を覗き込みそして動きを止めた。


「ん?みんなどうしたんだ?」


ランドの持っていた玉だけが、ドス黒く変色している。幸い普通科の生徒は、この特殊な授業になれていないのかみんな前を向いていてこの玉の色には気づいていない。


「なにそれ…ラン君その色ヤバいよ…ドス黒k…」

【待って!!】


急にクレイの頭の中に睦月の声が響いた。その不思議な現象にまたもやクレイは言葉を止めた。


(え?あれ?睦月さんの声?え??なになになに??)


あまりにも情報がありすぎて処理しきれない状況に、軽くパニック状態になる。愛花が不思議そうにクレイの顔を覗き込んだ。


【ごめんねクレイちゃん!急に。あ。これ、私の能力で[同調]っていう力なの。故意の相手の意識に同調して、声を届けたりする事が出来るの!範囲はちょっと狭いんだけどね。えへへ】


前の方でチラチラと睦月がコチラを見ていた。


(同調…?そんな能力聞いた事無い…。ていうか、睦月さん普通科なのになんでそんな力を…)

【私ほら、戦闘向きな能力じゃないから普通科でいっかなって思って】


相手の声が届くだけと思っていたクレイは更に驚いた。頭の中で思った事で更に会話ができるなんて思わなかったからだ。


【あ。それでね。ランドの水晶玉に関しては、言わないであげて欲しいの。彼、"色が見えてない"から…多分、みんなと同じだと思ってるから、そっとしておいて欲しいかなって】

(色が見えてないって…色盲ってやつ?)

【んー…半分正解で半分間違いかなぁ。ランドは、目が見えてないの…いや、見えてるんだけど見えてないの】


見えてるのに見えてない。そして、色が分からないとは一体どういう状態なのか。睦月の話を聞いてもサッパリ分からない。


【ごめんね!とにかくランドにその事はランドには黙って…痛ったー!】

「睦月さん。先生の話はつまらないかね?あまりお話に夢中にならないように」


いつの間にか、睦月の隣に龍虎先生が立っていた。主席簿の角の部分が睦月の頭上に振り下ろされている。


「はい…すびばせん……え?なんで私が能力使ってるって…」


龍虎先生はニヤリと笑うと教壇に戻っていく。他の生徒には何があったのかは分からない。話もしてない女子生徒の頭をいきなり主席簿の角の部分を容赦なく振り下ろす暴力教師というレッテルが軽く貼られた。


次に先生は鍵のついたアタッシュケースからボールペンを1本取り出した。そのペンは見たところ普通のボールペンだ。変哲もないただのボールペンなのだが、そのペンを水晶玉に近づけると、水晶玉はたちまち赤く光り出した。


「はい。この様に水晶玉を持っていれば、こういった呪われた物を手にしたりする事を事前に防ぐ事が出来ます」


生徒達から歓声が上がり拍手が起こる。


「ちなみにこのボールペンですが、呪いのボールペンでして、このボールペンで字を書きますと…、いつもより多くインクが出てきます」


いや、それ壊れてるだけじゃねーの!?とほぼ全員が心の中でツッコミを入れる。


「しかしその代わりと言ってはなんですが、インクはほぼ無限にあります。これが呪いなんです。呪いとは、何か1つ得る代わりに何かを失うんです」


クレイはチラリとランドを見る。ランドは目を輝かせながらドス黒く光っている水晶玉を何度も見ていた。


(ラン君は、呪いで何かを得た代償に、視力を失ってるの?いや、でも…目は見えてるのは間違い無いし…授業と授業の合間の少しの休憩時間に、何度も雪音さんの所に遊びに行ってるのも見かけたし…どういう事?)


「はい。えー…ちなみにですが、この水晶玉が薄い黒色。自身に呪いが降りかかった時に、灰色っぽくなります。皆さんの見た感じですと、青く輝いてますので呪いにかかってる人は居ないと思います。何度も何度も呪いにかかりますと、この水晶玉がどんどん黒くなっていきますので、身近のねお友達やご家族の方でそういう色が出た場合も、速やかに帝国騎士団に通報をしてください」


「クレイ。クレイ!」

ランドは水晶玉をポンっとクレイに軽く投げる。急に飛んできた水晶玉を慌てて落としそうになるが、何とか上手くキャッチする。

水晶玉はクレイに触れたことでドス黒い色から綺麗な青に色が変わる。


「え?なに?どうしたの?」

「いや、なんか睦月がクレイに渡してって言ってきてさぁ…」


ランドが頭を人差し指でコンコンと叩いた。あぁ、睦月さんの能力『同調』かと思った。そして、何故睦月がクレイに渡すように指示したのかもすぐに分かった。

授業が終わりに近づいている。このまま終われば何人もの生徒がランドのドス黒い水晶玉を見てパニックを起こすかもしれないと踏んだ睦月が、直接ランドに手放す様に言ったのだ。


「睦月が、クレイならそれオシャレな感じにしてくれるから渡してって言われたんだよ」

「は?」


オシャレな感じって…。まさか粘土で何か作れという事なの!?ちょっと待って!私、芸術とか美術とか、万年オール1の不器用粘土使いなんだけど…。


そんなやり取りの中、いつの間にか授業は終わっていた。各クラスの生徒達も散り散りと教室から出ていく。


「ごめんねクレイちゃん!なんかあの玉を他の人に見られたくなくて適当なこと言って手放してもらったの」


授業が終わり次第、最後列に並んでいたCクラス武術科の元に睦月が慌ててやってきた。


「え?あ…いや、良いんだけど…。これ、ラン君に返した方がいい?」


クレイは2つある玉(※下ネタではない)の1つを手に取りランドに向ける。青く光っている玉はランドに近づく度に、その光が失われていく。


「え?あ。いいよ。本当は、この授業があるって分かった時にハラハラしてたんだけど、こんな物渡されちゃったからさ…ランドは別にこれ以上は無いと思うし、必要も無いからクレイちゃんが持ってて欲しいかな」


そんな2人のやり取りしてる後ろからひょこっと愛花が顔を出した。


「て言うか、全然話が見えないんだけど…ランド君のあの水晶の色と睦月ちゃんがどーのって何の話?」


あぁーそうか。あの時話しかけられたの私だけだったから愛花ちゃん何も分かんないのか。でも、どう説明していいのかな…。


【愛花ちゃんごめんね。ランドに水晶玉の色について話されたく無かったから、授業中にこうやって話しかけたの】

「え!?何これ!!睦月ちゃんの声が頭の中からする!」


クレイがどう説明するか悩んでるうちに、睦月はサッと愛花に説明をしてくれている様だ。愛花は頭を抱えて辺りをキョロキョロとしている。どこから声が聞こえてくるなんて一目瞭然なのだが、初めての経験らしくパニックになっていた。


「なぁ!君たちいい加減にしてくれないか!!」


鎧の音をガシャガシャと鳴り響かせ1人の男子生徒が近づいてきた。金髪で真面目そうな雰囲気の生徒。白い甲冑を着ており腰には身に余る大剣をぶら下げている。白い鎧の胸の辺りには、どこかの国の貴族みたいな紋章が入っていた。


「私は、授業を真面目に受けたいんだ!なのに君たちは後ろの方でキャーキャー騒いで何度も授業を中断させ、周りのみんなも迷惑そうにしていたの気づいてないのか!」


もし、白馬の王子様とやらが存在するのならばこういう人を言うのかなと言うのは感じた。生真面目で硬そうな性格。多分、好きな人には好きだろうけども、こう冗談が通じない人を嫌いな人の方が多い気がした。

それに、そこまで授業を中断させた気はない。なるべく小さい声で話していたし、何だったら睦月の同調で会話をしていたはずであった。


「あ。この人、Sクラスの武術科のククル君。海を超えた先にある大陸の何とかっていう帝国の騎士なんだって。入学初日に私に告白してきたけど、弱い人に興味無いのって振っちゃった」


ニコニコと説明をする睦月。最後のセリフが気になったが、その説明を聞いて分かりやすくショックを受けている騎士様が顔を強ばらせていた。


「睦月君。君は、そんな事を軽々しく言うのはレディとして良くないんでは無いのかな?それに私は、かの有名な花の女王に仕えしインペルド王国女王直轄薔薇の庭園所属インペルドナイトのククルである。この胸の紋章は、勇気と勝利の剣(つるぎ)に誓いインペルド王国だけでは無く全ての世界の平和を守るためにここ私立武装学園に入学し、教養と学問を学びに来ているのだ」


胸に記された薔薇の花に2本の剣が交差されて描かれている。その紋章に手を置き天を仰ぐ。何か見えているのだろうか…その目は希望に満ち溢れていた。


「ぶひひ…世界の平和を守るやつが、初日に女に告って振られてんのかよ…ダセェ騎士様だな…ぶひひひ」


弾冴のその言葉にククルは眉間にシワを寄せ顔が真っ赤になる。


「貴様!我が騎士団を侮辱するのか!」


ククルの手が大剣に差し掛かる。


「ふぁぁぁ~…ダメだ。眠い…話長くなるなら俺もう帰って良いかな?」


椅子の背もたれにぐっと体を伸びさせランドは大きな欠伸をする。


「君もだよランド君!君は、Sクラスの睦月君や雪音君のご兄妹でありながら、Cクラスなんかにいて恥ずかしくないのか!君みたいな落ちこぼれが居ると睦月君の周りからの評価が落ちてしまう事の恥を知るがいい!」


熱く力説をするククルを尻目に、ランドは話を聞いてるのか聞いてないのか分からないが、また大きく欠伸をする。


「いいか?私の攻撃範囲に君が居るんだ。その気になれば君を斬ることだって出来るんだ」

「そっか。でもお前も俺の攻撃範囲の中に居るって事だからな」


その言葉にククルの中で何かが切れる音がする。いつ剣を抜いたのか他の者には見えなかったのだが、その剣の刃先はランドの首元で止まっていた。


「ふっ…コレが私の能力『神速(しんそく)』だ。君に私の攻撃が見えていたかね?早すぎて君は避ける事も出来なかったみたいだがね」


ニヤリとククルが笑う。


「いや…当てないって分かってたから別に避けなくて良いかなって」


ランドはもう1回欠伸を挟んでから答えた。ククルの剣を持っている手がぷるぷると震え出した。このナメた態度といい、本当は神速が早すぎて見えずに避けれなかったクセに強気に挑発してくるこの男にククルの怒りが頂点に達する。

ククルは静かに目を閉じるとカッと見開き対象の者を視界にいれた。


「神速2連撃!」


椅子が×に斬れる。バランスを崩した椅子はそのまま両脇に倒れた。

その椅子が倒れた音にククルは気づいた。斬る直前までは、その対象は確かにそこにいた。だが、斬ったという手応えは無かった。


「まだまだ、遅いなぁ…」


背後から声がする。ククルは小さく息を漏らし大剣を持ち上げると背後に一気に振り下ろした。だが、剣は空をきり教室の床を砕いただけであった。


「残念だな。俺、お前の攻撃範囲の外にいたみたいだ」


ちょうどククルの剣が当たらないすぐ傍に、ランドは立っていた。


「後1歩近づけばお前の攻撃範囲とやらに俺は入るぜ」


そう後1歩前に進み剣を突き出せば攻撃が当たるであろう。ククルは小さく舌打ちをし、足をあと1歩前に進……もうとしたが足が動かない。


「ほら、後1歩だよ頑張れよ」


ククルの全身から冷や汗が流れる。とても気持ちの悪い空気を感じる。全身を蛇が纏う感じがして身体が重く感じた。


(なんだこれは…)


あと1歩なのに、身体が動かず顔だけをランドに向ける。そこでククルは何かに気づく。この嫌な空気、動かない身体、全身からの冷や汗の正体は"恐怖"であった。

ランドから発せられる"殺気"に身体が拒否反応を起こしていたのだった。


「どうしたんだ?早く来いよ」


ランドが1歩前に歩こうとするのに合わせてククルは自然に足が1歩後ろに下がるのと同時にバランスを崩し尻もちをつき倒れた。


睦月以外の周りの者達は何が起こったのかは分からなかった。勝手に椅子が壊れ、ククルが剣を振り回して尻もちをついて倒れる。

ランドはスタスタとククルに近づいた。座り込み顔を覗かせる。


「学校の物を壊したら赤龍に怒られるぞ」


ランドは立ち上がると教室から出ていった。睦月もパタパタとククルの顔を覗き込む。


「ね?弱い人には興味無いの。ランドに勝てるくらいになったら少しは気にしてあげるから」


睦月はニヤリと笑ってランドの後を追い教室を出ていく。

ククルの体は未だに震えが治まらなかった。足も震えており立ち上がる事も出来ない。

自分は、女王直轄薔薇の庭園所属の騎士で怖いもの知らずの勇敢なる騎士だと思っていた。だが、こんなに身近な所に今まで感じたことの無い恐怖が存在していた事に精神が崩壊していきそうになる。

Cクラスという事を舐めていた上に、相手の力量も測らずに喧嘩を売ってしまった事にひどく後悔をした。

ククルは胸の紋章に手を置いた。


置いたハズだったのだが、何かがおかしい。紋章の部分がゴツゴツとした感触に変わっている。ククルは嫌な予感がし、顔を胸に向かせると、胸の紋章が半分に割れていた。

いつの間に…というか、いつからであったのかも分からない。その紋章はククルの生きがいとも言える物であったのだろう。ククルは泡を吹きながらそのまま気絶した。












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