第6話 妹

おっす!

私の名前は、雪音!

私立武装学園に今年から入学した新入生!しかも今年からお兄ちゃんも一緒の学校に入学する事になったから、もー!めっちゃ楽しみ!!

…だったんだけど、お兄ちゃんの実力は知ってたから、絶対にSクラスに入ると思って血反吐を吐く勢いで猛勉強して、見事に普通科でSクラスに決まったのに…まさかのお兄ちゃんがCクラスに居るって言うなんとも味気ない結果になっちゃったの。

まぁ、同じクラスで同じ普通科で睦月お姉ちゃんが居るから良いんだけど…せっかくだからお兄ちゃんも同じクラスが良かったよ!!


よく私がお兄ちゃんの事をお兄ちゃんって呼ぶからみんな双子のお兄ちゃん?似てないよね…って。うんまぁ…お兄ちゃんと私は双子でも無いし、なんなら血が繋がってない兄妹なんだけどね。

お兄ちゃんは私が産まれる少し前に産まれたんだよね。でも、お兄ちゃんを産んだ人は、産んだ直後に死んじゃったんだって。親も身寄りも無い産まれたばかりのお兄ちゃんを、ちょうど病院に来ていたうちのパパとママが引き取ったんだって。

お兄ちゃんのお母さんの事は私もよく知らないけど、どこか遠い所で戦争があって、そこから逃げてきたみたい。その人はお腹にお兄ちゃんが居ながら他の数人の子供達と一緒にこの帝国までやってきたの。その子供達もみんな散り散りに里親に引き取られたけど、そこで誓い合ったみたい。


「俺らはみんな兄弟だ!命を守ってくれたあの人の子供を、絶対に守っていくぞ」


ってね。

言葉に出すっていい事なんだね。本当にみんな本当の兄妹みたいになっちゃったもん。

うちのパパとママの子は、私とお兄ちゃんしか居ないけど、お兄ちゃんは兄妹が沢山居るっていう不思議な家族。

雪音は身支度を終えると家の階段をパタパタと降りる。この家は両親と兄、そして雪音の4人家族しか住んでいないのだが、今日も騒がしくリビングから声が聞こえてきた。


「ランド!いいか!このパンを2つに割れば2個になる!じゃあこの2個のパンを更に割ればどうなるかって聞いているんだ!」

「俺の食う分が増える…?」

「違げぇぇぇよ!!!」


雪音はリビングのドアを開けた。食卓にはランドの他にも、赤龍、黒龍の他に暴走族の特攻服みたいな物を着た女が朝ごはんをがっついていた。


「飾音(かざりね)母さん。悪いんだけどご飯お代わりちょうだい」


女は空になった器をうちの母に差し出す。母は嬉しそうに器を受け取ると、大盛りにご飯をよそいだした。


「オラァ!皐月!お前ちょっとは遠慮ってもんをしろよな!他人の家で食いすぎだろ!」


学校ではなんか大人しく真面目そうに見えた赤龍だが、学校から出た赤龍はとてもヤンチャな感じの性格になる。

その隣で静かに珈琲を飲みながら大人しくしている黒龍。黒龍に関しては学校に居てもずっと冷静沈着な人という印象なのだが、赤龍お兄ちゃんいわく俺たちの中で1番ぶっ飛んでる男だよって言われた事がある。て言うか、赤龍お兄ちゃんや、お兄ちゃん以上にぶっ飛んでたら、それもう人間じゃないんじゃない?って感じちゃう。


「良いの良いの沢山食べてね♪うちの食べ盛り1人しか居ないから一杯食べてくれる子がいると助かるわ」


母は嬉しそうにご飯を皐月に渡すとまた料理を作り始めた。もうなんか朝ごはんってレベルじゃない量の料理が机一杯に広げられている。


「雪音~助けてくれ。赤が朝から訳わかんないこと言って来るんだ」


半分涙目になりながら急に話を振られた雪音は体をビクッと震わせた。


「ランド!何が訳わかんねぇんだ!簡単な計算だろうが!何でもかんでも困ったら雪音に助けを…ん?雪音」


赤龍はくるっと首だけをリビングのドアの方に向ける。


「ゆきね~聞いてくれよぉ~!このバカがな、すっごく分かりやすく俺が説明してるのに全然分かってくれないんだ」


……。


いや本当、最初はなんか気持ち悪い人だなって感じた。今ではもう慣れちゃったけど…けど、なんなんだろこの人ホントに…。

学校では真面目な生徒会長。家に帰れば言葉遣いも荒くまるで不真面目そうな感じになり、私の前ではデレて甘ったるい声を使ってくる。

どれが本当の赤龍お兄ちゃんなんだろう…。


「ねぇ赤兄ぃ…雪音ちゃん困ってるじゃん。その妹デレ本当に気持ち悪いんだけど」


いつの間にか後ろに睦月お姉ちゃんが立っていた。この騒ぎの中、玄関から入ってきたんだろうが本当に何も気づかなかった。というかこの兄妹達はそれぞれの里親に引き取られたはずなのに、こんなに自由にひとの家を出入り出来るのか…と言うと、里親達がこの子達が兄妹になるのならば、私たちは誰がどの家にも自由に出入り出来て我が子のように扱おうという約束がされたのだとか。

それでもやっぱり赤龍お兄ちゃんや黒龍お兄ちゃん達は、"他人の家"として見てるみたい…。


「あらあら睦月ちゃん♪おはよう!睦月ちゃんも朝ごはん食べてって」


母が促す。まるで、軽食だから食べてってと言わんばかりに軽食と言えない量の料理を。


「あ。私、家で食べてきちゃった…だけど、パン1ついただきますね」


スタスタとリビングに入ってきて食卓の上に山盛りになっているパンを1つ手に取る。


「睦月。兄からひとつ忠告を言わせてもらうぞ。皐月とこのバカは武術科だ。朝も昼も常に動いて鍛錬をしている。しかし、睦月は普通科だ。他の一般の生徒と混じってごく普通の授業を受けるだろ?」

「何が言いたいのよ?」

「睦月は家で飯を食べてきたのに、ここでもまた食べる。太るぞ?これは、もう睦月では無くて豚月(ぶたつき)って呼ぶしかなくなるな」


パンを片手に睦月がぷるぷると震えている。鬼の形相になり腕を大きく振りかぶる。


「誰が豚月よ!この馬鹿アニキが!!」


睦月の拳が赤龍の顔面にめり込む。有り得ないくらい回転をし赤龍が吹き飛んでいく。


「いいかランドよく聞けよ。女の子に対して、太るとかデブとか言ったら絶対ダメだからな」


飯を掻き込みながら皐月はランドに忠告をする。その言葉にランドは大きく頷いた。


「ランド、皐月、そろそろ学校に行かないと遅刻するぞ」


今まで静かであった黒龍が珈琲を飲み干し立ち上がる。


「飾音さん。ご馳走様でした。うちの愚兄と愚妹が大変騒がしく失礼致しました」


ペコッと深めにお辞儀をするとそそくさと玄関へと向かう。途中、肉塊と化している赤龍を掴むと引きづりながら玄関から外へ出ていく。


「母さんありがとう!ごちそうさま!」


ランドは子供っぽい笑顔で母に礼をいう。いつの間にか、朝ごはんとは言えない料理の数々が塵一つなく消えていた。

毎回思うけど…お兄ちゃんの体積とあの料理の量でどこに入ってるのかな。お兄ちゃんはガリガリって言う訳じゃないし、太ってる訳でもない。しかも完璧な程の体型を維持してる。なんかズルい!


「ほら、雪音行くぞ!遅刻ってやつすると、赤龍もうるさいし、龍先生も怒るんだよな」



兄がするりと横をすり抜けていく。その後ろを睦月お姉ちゃん、皐月お姉ちゃんと続けてすり抜ける。

あーーー!!!っていうか待って!私、朝ごはん食べれてないじゃん!このドア開けたままずっとマネキンの様に突っ立ってただけだし!

はぁ…まぁいっか。ダイエットダイエット…。毎日山のようにご飯食べて全く太らない人達が周りにいるから、自然と私も体型気にしちゃうんだよね。

もぅ!私は普通の一般人なんだぞ!お兄ちゃん達みたいな奇人変人の集まりじゃ無いんだから少しは気にしろって言うの!


玄関から外に出ると睦月が待ってくれていた。


「雪音ちゃん早く行こう」


そう言って睦月は、手に取っていたパンを渡してきた。

もぅ!睦月お姉ちゃん完璧すぎでしょ!あのバタバタの中、私がご飯食べれてないって気づいてたなんて…。私が男だったら将来は睦月お姉ちゃんと結婚したいレベル!このお気遣い美女め!

雪音はパンを受け取り歩き出した。

あれから1週間が経ったけど、何事もなくお兄ちゃんは未だに女子達からキャーキャー言われてるけど、無事に平穏な学生生活が続いてます。


はぁぁ~私、早くお兄ちゃん目当てじゃない友達出来ないかなぁ…

雪音は空を見上げた。







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