第5話 備品


「どういう事なのかキチンと説明するんだ!!」


バンッ!と叩く音がした。

おいおいおい。なんだ?うるせぇなぁ。またアイツかよ。やっと休憩時間になったと思ったらなんだ?上級生か?赤い髪に赤い瞳…うわ気持ち悪ぃ~なんか蛇みたいな眼をしてやがるぜ。


「なんでランドがCクラスに居るんだ!」


その隣に居た黒髪の男子生徒も机をバンッと叩く。

アイツなんか見たことあるな…。さっき小便しに便所に行ったら生徒会のポスターがあったけど、確かそこに映ってた奴だ。にしてもアイツも気持ち悪い眼をしてやがる。蛇みたいな…なんなんだ?アイツしかも普通科の生徒じゃねぇか。


「ねぇねぇほら、赤兄ぃ(あかにぃ)も黒兄ぃ(くろにぃ)も落ち着いて。周りから見られてるからさ」


茶色の髪のショートカットの普通科の女の子。ほぉなかなかいい女じゃねぇか。弾冴は頭の先からつま先まで舐めるように見る。少し屈めばパンツが見えそうなくらい短いスカートも履いている。スタイルも悪くない。


「黙れ睦月(むつき)。このバカがなんでCクラスに居るのかを説明させなければ気が済まないんだ」


睦月と呼ばれた茶髪の女子生徒は、すごすごと引き下がる。


「赤兄ぃのその眼…睨まれると怖いんだよなぁ…」

「赤龍に、黒龍(こくりゅう)よ。主らこのクラスで浮いておるぞ。暫し声の音量を下げるべきじゃ」


うおっ!?全然気づかなかった!なんだアイツ!?全身に包帯の様な物を巻いていてランドの奴の後ろ側に立っていやがった。不気味な奴…。ていうか本当にコイツらなんなんだ?休憩時間になるや否やこんなに集まって来て…


「うぅぅ…如月(きさらぎ)兄ぃ。赤兄ぃが怖いよぉ…」


如月と呼ばれた包帯男は、ギロリと赤龍を睨む。


「赤龍兄さんも如月も今はそれどころじゃ無いでしょう」


黒龍と呼ばれた黒髪の男子生徒が2人を止めに入る。


「そうじゃのぉ。まずは、こやつの処遇について語るべきじゃ」


如月はそう言うとランドの頭をポンと叩いた。


「我ら兄弟は、代々この学校では常にSクラスに入って来たんだ。普通科で入った弥生(やよい)や黒龍、睦月や雪音(ゆきね)までSクラスで入学してきたって言うのに、お前はなんでCクラスにいるんだ」


赤龍がぷるぷると振るえ顔が真っ赤になっていく。口から小さな火が出てるようにも見える。


「そうだよお兄ちゃん!私、お兄ちゃんと同じクラスになりたくて凄い頑張って普通科のSクラス目指したのに…まさかお兄ちゃんがCクラスに居るなんて信じられないよ!」


ん?小さくて気づかなかったぜ。背は俺と同じくらいか?…ていうか妹!?双子…って言う訳じゃ無さそうだな。全然似てないし…でも、なんだ普通に可愛いじゃねぇか。いや待てよ。ランドは今後俺の舎弟にするから…妹も自由に使っていいって事だよな!ぶひひ


「そうだよなぁ雪音は良い子だよなぁ。お兄ちゃんと違って偉いぞぉ雪音~」


赤龍の顔が一瞬にしてデレる。顔もとろ~んとなりまるでさっきまでの怖い顔なんてどこへやら


「うわ。赤兄ぃの妹デレが出た…私には絶対にデレ無いのに、雪ちゃんには絶対にデレる謎仕様…」


て言うか、なんなんだ。アイツ何人兄妹なんだよ。全員ランドとは似ても似つかずだし、唯一似てると言えば全員が美男美女ばかり…顔も性格も似てない不思議な兄妹ばかりだしな。


「ところで黒龍。白龍(はくりゅう)と弥生と皐月(さつき)はどうした!この大事な兄妹会議に出席してないとはどういう事だ!」


おいおい。まだアイツの兄妹いんのかよ。どんだけいんだよ。アイツの親は毎年のように子供産んでたのかよ…ヤバいな。


「白は、どうせ赤龍兄さんの説教が長くなるしランドもどうせ聞いてないだろうし俺はパスだなぁって言ってどこかに行ってしまいました」

「弥生は、赤兄ぃの説教が長くなるし、どうせランドもくだらない理由でCクラスにいるんだし興味無いわって…皐月姉ぇは、別にランドならすぐSクラスまで上がってくるっしょって言って、白兄ぃとどこか行っちゃった」


黒龍と睦月が各々と説明をする。説明を聞いてる度に再度、赤龍の顔が真っ赤になりぷるぷると震える。赤龍の手がついていたランドの机にも力が籠る。そしてついには…ミシッ!と大きな音がなり机の表面に大きなヒビが入る。


「ランド…いいか?放課後、また来るからその時までにちゃんと説明をするんだ。それと、学校の備品を壊したら罰を受けないといけない。お前の机なんだからしっかりと修復しておくように」


おいおいおい。かなり横暴な兄ちゃんだな。机壊したのお前だろ。性格の悪いヤツだぜ。人のせいとかにするやつは最悪だな。

ランドは無言で立ち上がるとスタスタと歩きクレイの席までやって来た。


「悪い…粘土を少し分けてくれないか?」

「ふぇ!?粘土を?…でも、粘土で机を直すって事?でも、私の能力(ちから)じゃ机の修復なんて出来ないよ?」

「大丈夫…」


ランドは右手をクレイの肩に乗せた。クレイは机の中から粘土をひと塊取り出すとランドに渡す。

ぶふぉぉぶひひひぶふぅ…幼稚園生かよ!粘土で机作ってよく出来ました!ってか?コイツ馬鹿だと思ってたら、超のつく大馬鹿野郎だな!


ランドは渡された粘土を受け取ると、そのまま自分の壊れた机に投げつけた。するとどういう事なのか、次第に机は元の綺麗な状態に戻ったのである。


「え?なんで…?」


驚いたのはクレイだけでは無い。遠巻きに見ていた普通科の生徒達も壊れた机が一瞬にして戻るその技に驚きを隠せないでいた。


「ほう…粘土使いじゃな。なかなかレアな能力を持っておるようじゃ」

「なかなか素晴らしい能力だ。しかし、何故この能力を持った者がCクラスなんだ…?今年は龍先生が担当したはずだったが…ふむ」


黒龍が首を傾げる。


「あの…私、模擬戦が1回だけと思って家に帰っちゃって、残りの模擬戦も全部不戦敗しちゃったんです。隣にいる愛花ちゃんや、皆さんの弟のランド君も…」

「"ランド君も"?」


赤龍の瞳がギロリとランドを睨みつけた。


「いや…ほら、俺 武器を家に忘れてたし、なんかまぁいいやって思って」

「"武器を家に忘れた"だと?」


ジリジリと赤龍が近づいてくる。


「俺は、字が読めないお前の為に前日の夜までにキチンと用意する物を準備したし、模擬戦は勝ち進めていくこともちゃんと説明したよなぁ!」

「いや…ちょっと待って赤龍。ほら…ここ学校だろ?手を出す事は禁止ってさっき先生言ってたから」


ランドは後ずさりをしながら教室の出口に向かう。


「ラァンドォォ…それは普通科の生徒に手を出すのが禁止なだけだ。武術科同士だったら何も問題は無い。それもちゃんと兄ちゃんは説明しただろ」


赤龍は腰にぶら下がっている2本の刀に手をかけた。


「赤龍!本当に…ほら次の授業始まるって!先生が来るぞ」


教室の出口まであともう少し。

ランドはゴクッと唾を飲み込んだ。とにかくキレた赤龍は手に負えないことは分かっている。捕まれば長時間の説教が待っている。それだけはどんな手を使おうが避けたい所であった。


「関係ないぞランドよ。普通科の授業は武術科は受けようが受けまいがどちらでも構わない。むしろお前の事だ。休憩時間の前の授業はほぼほぼ寝ていただろうが」


それは先程 赤龍が言った字が読めないと言うのと関係があった。ランドは、幼少期から戦闘訓練や実戦などに駆り出され、普通の子供が行くような小学校・中学校共に行っておらず、教養が無いのは流石にマズイという事で今回初めて学校というものを体験していたのである。しかし、字が読めない書けないランドにとって授業というものは何をしてるのかサッパリ分からず寝ているだけであった。


「赤龍…ほら待てってば…ほら」


ランドはすかさず鎖の付いた玉を手に持ち赤龍の前に翳(かざ)した。


「十二支剣奥…」


ガキィィィンと金属がぶつかり合う音が響いた。

ランドが持っている玉に、赤龍の刀がぶつかる音であった。それも上手く指の間を通っている。


「ランド…俺に幻術は効かないぞ」


少し膠着(こうちゃく)状態が続く。自分の手が封じられた今、次にどう動けばいいかを考える。しかし、武器を抜いた赤龍を前に少しでも動けば簡単に逃げ場を失うであろう。その時だった…

ガラッと教室のドアが開いた。次の授業を始める為に先生が中に入ってきたのだ。赤龍の意識が一瞬だが先生の方に向いたのをランドは見逃さなかった。


「愛花!悪い借りる!」


近くに座っていた愛花の髪が一瞬ふわっと舞い上がる。愛花の暗器だ。こんな長い槍をどうやって隠していたのかは分からないが、ランドは一瞬で見抜き右手に持つとその槍を赤龍に投げつけた。

赤龍はランドに向けていた刀を持っていた手を離し向かってくる槍を受け止める。その隙にランドは刀を少し上に蹴りあげ半回転させると回し蹴りで刀の柄の部分を蹴り赤龍に突き返す。

赤龍は受け止めた槍をくるっと回し飛んできた刀を軽く弾き更に半回転させ柄の部分をパシッと受け止め刀をまた向かせたのだが、そこにもう相手はいなかった。出口から逃げたのであろう。

赤龍はふぅっとため息をついた。


「ほらほらそこ。普通科の生徒は自分のクラスに戻りなさい。授業始まってますよ」


黒龍や睦月達がパタパタと小走りに自分のクラスに走って行く。赤龍は槍を持ったまま愛花の元へと歩いていく。


「すまないね。うちの愚弟が、女の子の身体に触れるなんて、大変失礼な事をした」


そう言って槍を愛花に返す。愛花は少し俯き槍を受け取った。やはり間近で見る赤龍の眼は少し怖い…


「暗器使いか…その軽装で10…いや24の武器を隠し持っているのか」

「……っ!!」


一目で見破られた事に愛花は驚いた。


「今年の新入生はなかなか良い素質を持った子が多いな。粘土使いに暗器使い、愚弟の魔けんし…面白くなりそうだ」


そう言い残し赤龍と如月が教室から出ていった。

いやちょっと待て!アイツ俺の事気づいてすらねぇの!?あ…さては、このスーパーヒーローの力に慄(おのの)いて、気づかないフリでもしたか?いやそうに決まってるな。いや困るよな。ここにスーパーヒーローが居るってことをちゃんと認識してもらわなきゃ。先が思いやられるぜ…



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