第4話 自己紹介

教壇に立つと見えてきたCクラス普通科の連中の顔が。男子はパッとしない普通の連中ばかり。一部、オタクみたいな奴らも見える。女子は自己紹介の時に頭の先からつま先まで舐める様に見ていたから覚えている。恥ずかしがってハンカチで顔を抑えてる女子もいる。


「ぶふぅ…俺様の名前は御手洗 弾冴。平和を愛するスーパーヒーローだ!お前らは俺が守ってやるから安心しろよ!ぶひひひひひ」


飛び散る汗と脂。そんなこともお構ないなしに弾冴は、腰に装着してるカッコイイベルトを見せつける。


「このスーパーヒーローベルトで俺は、超カッコイイスーパーヒーローに変身する事が出来る!お前らには特別にこの力見せてやるからな!」


弾冴が手を高く突き出すと、龍虎先生がその手を掴み下に降ろす。


「今は自己紹介の場だから、その力は見せなくて大丈夫」


弾冴はその手を振り払いギロリと教師を睨みつけた。しかし本当なのか戦闘のエキスパートと言うのは。手を掴まれるまでそんな気配は無かったのに。


「ふんっ!まぁいいだろう。それと、お前ら俺に逆らったらどうなるか分かるだろ?ちゃんと俺の言うこと聞くんだぞ?」


弾冴は座っている普通科の男子達に呼びかけた。同じクラスにこの俺が居てやるのだから、男子は敬意を払うべきなのだ。そうすれば気が向いた時だけ助けてやるという事も無きにしも非ずってやつだ。


「いや…ホウキマンなんてなぁ…」


静まった教室にポツリと呟いた男子の声が響く。


「ホ…!ホ…!ホウキマンじゃねぇぞ!!」


頭に血が登るのが分かる。そう言えばアイツは、俺が教室に入ってきた時にも俺の事をホウキマンなんて呼んだバカガキじゃねぇか!俺がお前をバカにするのは分かるが、なんも力を持ってない普通科の奴が俺をバカにするのは許せない!


「てめぇ!ぶっころし……」


弾冴がその男子に飛びかかろうとした瞬間だった。何とも言えないとても気持ち悪くなる。視界が歪み蛇が身体に巻き付く様なそんな感じがする。


「な…んだコレ…」

「おい!武術科の生徒が普通科の生徒に手を出す事は、学校のルールで禁止されてる事だ!直ちに戦闘態勢を解くのだ!」


教師が弾冴の目の前を片手で塞ぐ様に手を伸ばす。あぁ…コレはこの先公の殺気かよ。コイツ本当に先公かよ。こんな気持ち悪い殺気を放つ奴…教師なんてやってんじゃねぇよ。

弾冴は頭に血が上るのを抑え冷静になる。にしてもさっきのはヤバかったな。俺でなければ小便ちびらせて気絶する奴だって居るだろう。

震える足を1歩また1歩と動かし自分の席に戻る。席に戻る際にあの先公が、命拾いしたなって呟いてた。強者としての余裕か?マジでくだらねぇ!


「えー…じゃあ、最後だ」


教師に促されあのイケメンのすっとぼけ野郎が前に出る。クラスの女子達が小さな声で騒ぎ始めた。


「えと…ランドです」


ぺこりと軽く頭を下げるとそのまま席に戻ろうとする。


「いやいやいや待って。ランド君。今日キミはちゃんと武器持ってきてるよね?」


席に戻ろうとするランドを慌てて止める龍虎先生。ランドは、あっ…と小さな声を出し欠伸をすると再び教壇に上がる。


「あ…えと、魔けんしです」


おいおいおい。本当にふざけてんのかアイツはさぁ!魔剣士?おい鏡で見てみろよお前。黒いTシャツに黒いズボンに動きづらそうなブーツ履いて、剣士の命とも言われる剣を帯剣してないじゃねぇか!


「武器は今日は持ってるよ。コレ…」


ズボンにかかっていた鎖がジャラジャラ付いた手のひらサイズの水晶玉を手に取りみんなに見せる。

おいおいおい。アイツは何度俺を笑わせれば気が済むんだよ。武器だぞ?お前剣士だよな?なんだよその玉は!あの玉を相手に当てて倒すって言うのか?もう剣士でも何でも無いじゃねぇか!


「あぁ…君が、魔けんしのランド君だったのか。君のお兄さんやお姉さん達がいつも自慢気に話していた末っ子の…」


ランドは無言でうなづいた。

はぁ?アイツ兄姉(きょうだい)いんの?しかもこの学校に居るっぽいな。さては、アイツの兄や姉が優秀だから、それのコネで入学したって奴か!本当に汚ぇ野郎だな!


「精霊は、火属性、水属性、風属性、土属性を持ってます」


ガタンと音を立てて、イラつく女と地味女が立ち上がった。アイツら何してやがんだ?ついに頭までイカレちまったか?


「どうしたのかね?2人とも。席に着いて」


普通科の生徒達も何も理解してないようでクレイ達に視線を移した。


「待ってください先生!1人の人間が、元素精霊を4種類宿してるんですか!?そんなこと…有り得ないです!」

「うん。そうだね。有り得ないよね。この世には、高い魔力を持った人の中で更に選ばれし人が精霊を宿す事が出来る。少しでも魔力が足りなければ精霊の魔力に負けて身体が砕け散ってしまう。だから、1人1精霊って言うのが人間の限界なんだよね。でもね…その有り得ない事が今目の前で有り得てるんだよ」


教師がチラッとランドを見た。

この学校には能力が特出した武術科の生徒達がいる。この学校の生徒会長でもあり武術科最強と言われている赤龍(せきりゅう)。2本の龍の牙と言われる刀を武器とし、高い戦闘能力で常にトップの座を築き上げているそんな生徒が、この春入学してくる弟の事をいつも話していた。


~回想~


「龍先生。魔けんしって知ってます?」

「魔剣士?ああ、魔剣を使う戦士の事だよね」


赤龍はふふっと笑うと真面目な顔で先生に向き直す。とても特徴のある赤い眼をしており蛇の様な瞳をしている。


「魔けんしって聞くと、みんな剣士だと思いますよね?違うんですよ」

「ん?ならば、己の肉体のみで使う拳士って奴かな?」


赤龍はまたふふっと笑う。


「剣士であって剣士でない。拳士であって、拳士でない。俺の弟がまたこの春入学してくるんですよね。そいつがちょっとデタラメな奴でして、一番世話がかかるというかなんと言うか…あ。それとは別に妹2人も一緒に入学してきますので、2人とも普通科で入りますので特に問題は起きませんよ」


~回想終了~


確かに、コイツはデタラメな奴だ。1人で4精霊との契約。剣士かと思えば剣を持っておらず、拳士かと思えば武器なのか?を持っている。とてもじゃないが魔法使いには見えない…

ランドはまた大きく欠伸をした。眠そうに目に薄く涙まで浮かべている。


「ふぁ~…よろしくお願いします」


ぺこりと頭を下げた。それと同時にチャイムも鳴る。1限目の授業が終わった合図だ。また、女子生徒がキャアキャアと騒ぎ始めた。



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