第3話 兄妹

「なんでお前がCクラスに居るんだよ!」


仮にもこの弾冴様を倒した程の実力を持ったコイツが、何故か初日からCクラスに転落している。


「あの後、模擬戦続くって知らなくて、眠かったから家帰ったらその後全部不戦敗になっちゃった」


はぁぁぁぁ!?なっちゃったじゃねぇぞ!ここまですっとぼけた奴だったのか!

この大事なクラス決めの対決が1回で終わる訳無いだろうが!こんなバカに俺は負けたのか…


いやもう、こんな奴に負けた事の恥ずかしさと呆れで相手にするのも疲れてきた。しかし、あんなに汚い手を使ってまで俺に勝ったのだから、アイツの周りにいる普通科の連中に自慢したいのは分かる。

どんなヒーローでも、変身中、変身後のカッコイイポーズを決めてから決めゼリフを言う間は、絶対に敵は攻撃をしてこないという暗黙の了解があるのに対し、アイツはまさかの変身中に攻撃を仕掛けてきた。

そんな汚い手を使ってまで俺に勝ったのだから、まぁ少しくらいは自慢してもいいだろ。少ししたら、俺の舎弟としてこの3年間過ごさせてやるのも悪くない。


「ふっ…まぁ頑張れよ」


俺って優しいな。こんな奴でも労いの言葉をかけてやれるなんて。おいそこの女子達よ。そんなに遠くから見なくても、もっと近づいて俺の事を見てくれていいんだぞ!恥ずかしがらずに来いよ。


と、まぁこの天然すっとぼけ野郎は置いておいて、弾冴はクラスの中を見渡した。

Cクラスの武術科の生徒は他にもいた。


コイツ、模擬戦で土人形を作って戦わせてた奴か…。見た目はギャルっぽい感じの女の子。高校デビューか?見た目とは裏腹に静かに席に座って前を向いていた。

周りには誰もおらず友達も居なさそうに見える。


「ふん。お前のその地味な技じゃCクラスって言うのも当然だな」


弾冴はその席に近くと机に手を置き体重を傾ける。その反動で、机が小さな音を立てた。


「え?あ…えっと…あ。あのホウキの人?」


そう言えばさっきの男子学生も言っていたが、俺をスーパーヒーローと認識をせず【ホウキで負けた人 略してホウキの人】という認識している事に腹が立つ。


「あ?俺は、御手洗 弾冴(みたらし だんご)って言うカッコイイ名前のスーパーヒーローだ!おい女、お前の名前なんだ!」

「え?あ…その……私はクレイって言います」


ふん。土人形を使ってるからクレイ?安直な名前だな。コイツの親は、将来こいつが土人形使いにならなかった場合を考えて無いのか。それこそどこかの世界にいるムー〇ンパパとムーミ〇ママみたいにギャンブル性の高い名付けだな。

しかしこのクレイって女。よくよく見るとなかなか可愛い顔してるじゃねぇか。俺が近づいたら少し離れ両手を前にし、俺をこれ以上近かせないようにガードしてるな。照れやがって。このクラスに馴染んだら、俺の第5彼女候補にでも加えておいてやるか。

弾冴はニタァと含み笑いを見せた。


「ねぇ!ちょっと!アンタが喋る度に、そのくっさい汗が飛び散るんだけど!」


あ?なんだ?この女は?

弾冴がクレイに話しかけるその隣に、気の強そうな女子が仁王立ちしている。


「はぁぁ?何お前?まさか俺がコイツに気があると思って嫉妬でもしてんの?」


弾冴は机から手を離すと、ゆっくりとその女に振り返った。

やたらキツそうな顔をした女子生徒。性格もキツそうで嫌いなタイプの女だが、この女もなかなか綺麗な顔立ちをしている。服装は軽装で、普通科の女子ではない事が分かる。というかこんな奴模擬戦に居たっけ?…と言っても俺もまじまじと見てた訳じゃないからな。地味すぎて覚えてないだけだろう。


「はぁぁ!?アタシがアンタに嫉妬?な訳ないでしょ!アンタが話す度に、汗が飛び散って、目の前のクレイちゃんがすっごい迷惑そうにしてんの分かんないの!?」


弾冴が周りを見てみると小さくキラキラと光る水滴が周りに飛び散っている。さっきからクレイの両手だと思っていた物は、粘土で作られた手の形をした物で、そこもキラキラと光っていた。


「ごめんね。愛花(あいか)ちゃん。私は大丈夫だから」


愛花と呼ばれたその女子生徒は、ハンカチを取り出すとクレイの机を拭いてあげている。

チッ!なんだこの教室は!

武術科ってコレしか居ないのか!

天然すっとぼけ野郎に、ムカつく女に、粘土弄りの地味女。俺はこんな所でもっと強くなれるのか!?

くだらねぇなぁ!マジで!


弾冴は鼻から大きなため息をつくと予鈴が鳴り先生が教室に入ってきた。

あの時、模擬戦の審判をしていたあの教師だ。ごく一般的な男性教師だ。スーツを着用し、年の瀬50代ほどであろう。

私立武装学園の先生は、戦闘のエキスパートが多いと聞いていたが、まるでそんな雰囲気も感じられない。

あんなのが相手だったら俺でも楽勝に勝てるであろう。弾冴は、キッと教師を睨んだ。


「えー…ほらそこ席について」


教師は弾冴の方を見て話す。他の普通科の生徒達や武術科の生徒達は静かに自分の席に着いている。弾冴はやれやれと言った感じにため息をつくと、空いていた席に着いた。

席の並びは、左にすっとぼけランド右に地味クレイ。その奥に、イラつく愛花が座っている。


「えー…次に私に殺気を飛ばしたらすぐに停学します」


ほぉ。流石はエキスパートだな。この俺のスーパーインビジブル殺気を感じとる事が出来たなんて。脳ある爪は鷹を隠すと言ったやつか?


「えー…まぁ、初めに皆さん入学おめでとうございます。これから3年間、普通科も武術科も仲良く楽しく学校生活を楽しみましょう」


教師がペコッと軽く会釈をするくらいにお辞儀をすると、後ろを振り返りチョークで大きく自分の名前を書き始めた。


「えー…私の名前は龍虎(りゅうこ)と言います。みなさんの先輩達からは龍先生と親しく呼ばれてますので、よろしくお願いします」


ふん。名前負けしてそうな教師だな。あんな一見どこにでも居そうな姿で名前が龍虎だって?龍に虎に…全く何考えてんのか分からんね。


「えー…それでは、まずは皆さんの事を知りませんので、自己紹介をやって行きましょうかね」


Cクラス普通科の生徒達はざっと数えて30人強ほど、それに対して武術科は4人。自己紹介だけで1時間かかってしまいそうな量だが、教師に促された生徒が1人づつ前に出てきて自己紹介を始めていく。

65点…80点…72点…60点…

弾冴は、自己紹介して行く女子生徒を隅々まで見て彼女候補の点数を付けていく。俺と付き合うなら80点以上ならば全く問題は無いであろう。

ニヤニヤと笑いが止まらない。


「はい。えー…ありがとうね。じゃあ、次は武術科の面々行こうか。そっちから1人づつ前に出て」


あのムカつく女 愛花が前に出る。


「あ。愛花と言います。暗器使いです」


暗器使いだぁ?待て待て待て。あの女のどこにそんな武器をしまう場所があるんだよ。服装は、ぶかっとしたTシャツに、ジャージを履いておりオシャレと言うより動きやすさをメインな服装だ。暗器を隠す所なんてどこにも見当たらない。

ははぁさてはアイツもどうせ暗器を忘れたって言うレベルだな。だからCクラスに落とされるんだ。参っちゃうね。こんなレベルな奴らといたら俺まで低レベルに見られちまう。


「模擬戦…1回で終わりだと思って家に帰ったら不戦敗になりCクラスになりました」


いやー参ったという照れ笑いをする愛花。教師もやれやれと言った感じに頭を抱えている。


「全く同じ事してCクラス認定になったの、このクラスに3人いるからね。最初に説明したよね。本当に気をつけてよ」


3人?って事はこのクレイっていう地味女も同じ事してCクラスに来たってオチか。ったくよ。ちゃんとしてるの俺だけじゃねぇか。俺に迷惑だけはかけないでくれよな。

弾冴の大きなため息が鼻から吹き抜ける。机に置いてある点数表の紙がパタパタと音を立ててめくれていく。


「普通科の皆さんとも仲良くなりたいので、よろしくお願いします」


愛花がぺこりと頭を下げた。男子達から歓声が上がる。

次に指されたのは隣にいる地味女クレイだ。パタパタと小走りに前に出てきた。


「あ…えと…クレイです。粘土使いです」

「ぶふぉぉぶひひひぶふぅ」


弾冴の笑いを抑えきれず噴き出した。

粘土使いって!幼稚園生かよ!粘土でどうやって戦うんだ?そんなお遊戯会レベルでよくこの学校に入れたよな。


「精霊は土属性です。私も、皆さんと仲良くなりたいのでよろしくお願いします」


クレイが頭をぺこりと下げる。またもや男子生徒達から歓声が上がる。

かぁーーーっ!あの地味女、精霊を宿してるのか。だからこの学校も粘土使いなんて地味な技を持った奴でも入学を許したんだな。


「うん。ありがとう。武術科って女の子少ないからね。君たちみたいな子が居てくれて良かったよ」


教師がやっと自分に促す。

はぁー…めんどくさいけど仕方ないな。普通科の連中に、このスーパーヒーローであるこの弾冴様の素晴らしさを見せに行ってやるか。

弾冴は重い腰と腹を持ち上げ前にドスドスと足音を立てながら歩き始めた。





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