第2話 模擬戦

「ぶひぃ…ぶふぅ……ぶひぃ」


くそなんなんだ!この学校は!

普通、1年生って言うんだったら下の方にクラスがあるだろうが!それなのに、1年生が上で進級と同時に1階づつ下に降りてくシステムなんだよ!

エレベーターとかエスカレーターとか無いのか!ただでさえ、バカでかい敷地を歩かされ、その上に学校は上に登らされるなんてよ!


ようやく1年生のクラスがある会社にたどり着く。そこには教室が4つ並んでいる。

1番奥が、Sクラス。なにか神々しい雰囲気が漂っている。

弾冴はポケットから、汗でしわくちゃになった紙を取り出した。そこに書いてあるのは…


【1-C 御手洗 弾冴】


くそ!ここの教師達は馬鹿しか居ないのか。このスーパーヒーローの強くてカッコイイ弾冴様が、最低でもAクラスに居てやってもいいと思っていたのに、まさかのCクラスなんてよ。

弾冴は持っていた紙をまたぐちゃぐちゃに丸めると無造作にポケットに突っ込み、階段を登ってすぐ目の前にあるCクラスのドアをガラッと開けた。


クラスの中は、静かでも騒がしくもない感じの空気だ。

席順は、前の方が普通科の生徒達の席で後ろの方が武術科の生徒達の席が並んでいる。その武術科の席の1つに、男子女子が集まり誰かに話しかけている。

集まりの中の男子が1人コチラに振り返り声をかけてくる。


「おっ!ホウキマン来たか!今、ちょうどお前の話してたとこだったんだよ」


なんだコイツ!普通科のクセに、俺の事をホウキマンだと!?お前なんか俺の力で数秒で肉塊に出来るんだからな!

と怒りと同時に声を荒らげようとすると、集まりがふたつに割れ囲っていた席の生徒が目に入る。


顔の整ったイケメンタイプの男。男のくせに髪を腰の方まで伸ばし纏めている。ヒョロっとした体格の癖にその身体は筋肉質であり、前髪の隙間から青い瞳が見えている。ヘラヘラと笑顔を見せ、コチラにひらひらと手を振ってきた。その顔と仕草に大半の女子達がキャアキャアと騒いでいた。


「おま…!なんで同じクラスに居るんだよ!」


その男と弾冴には深い因縁があった。それは遡ること数日前。

この学校は入学式が終わると、クラスを決める模擬戦が行われた。

模擬戦は武術科に入った者だけが参加をし、勝ち残ったり能力が高いものから順にSクラスから振り分けられていく。

その時、弾冴の相手となったのはまさにあの男であった。


~回想~


「これよりクラス決め模擬戦を行う!名前を呼ばれた者は前に出てきなさい」


弾冴の名前はまだ呼ばれない。呼ばれるまでは、他の者が戦っているのをボーッと見てる事が出来たが、とてもじゃないがレベルが低すぎる。

どこかの騎士みたいな白い鎧を着けた大男が、大剣を振り回したり、魔法を使って相手を翻弄したり、土人形を作って相手と戦わせたり…

いやいやいや、なにこの地味な戦いは。もっと俺を見習って欲しいわけだよ。っていうか、まだ俺の番じゃないから見せてないけどさ。

いや本当に地味な力しか持ってない奴らばっかりで、もっと派手にバーンってやらなきゃ見てる普通科の子達もつまんないでしょ!

弾冴が欠伸をしながら見ていると、教師の声が聞こえた。


「では次、御手洗 弾冴!」


やっと来たよ俺の出番がさ。

弾冴は立ち上がり前に歩き始める。すると普通科の観客がザワザワと騒ぎ始めた。

おいおいおい。やっぱさ、正体隠してたわけじゃないんだけど、知ってる人は知ってる訳よ。おいそこの女子達さ、隠し撮りしてんの見えてるわけよ。後でたっぷり撮らせてあげるから、今は俺の戦いに集中してよ。


弾冴が男らしいウインクをかますが、女子達は恥ずかしいのか気づかない振りをする。


「相手は、ランド!前へ」


教室にいたあの男だ。大きな欠伸をしながらダルそうに歩いてきた。

なんだアイツは。ヤル気あるのか!?

それとも俺が相手だから、早々に負けを感じて降参でもするのか?


「では、まずお互いの武器をみせて」


教師が間に立ち両手を差し出した。


「俺の武器は、このカッコイイスーパーヒーローベルトで変身をして、そこからスーパーソードやスーパービームガンなど様々なカッコイイ武器を出して使うんです」


弾冴は、腰に着けたカッコイイベルトを自慢気に教師に見せる。


「うん。そうか、君は変身系の力を使うんだね。ならば、そのスーパービームガンは周りの観客に当たる可能性があるから使わないでくれるかな?」


いやいやいや、わかってねぇなぁこの教師は!俺のスーパービームガンが外れるわけ無いじゃん。

でも、それで下のクラスに落とされる訳にも行かないから、まぁここは使わないであげといてやるかな。コイツ命拾いしたな。


「じゃあ、ランド。君の武器を見せてくれるかな?」


ランドはまた大きく欠伸をすると、両手をポンポンとズボンのポケットらへん叩いて何かを探してる仕草をする。

そしてしばらくしてから…


「あ…武器忘れちゃった」


はぁぁぁぁ!?コイツ馬鹿なの!?武器を忘れたって!?武器ってのは自分の命を守る物でもあるのに、それを忘れた上にヘラヘラ笑って何がしたいんだよ。


「え?君…剣士だよね?武器忘れたって…」

「朝、ボーッとしてたらそのまま家に置いてきちゃいました」


本当に、こんな低レベルな奴らしかいないの?こんな奴らと一緒に3年間過ごさなきゃいけないの?マジかよ…


「え…じゃあどうしようかな」


おいー!教師!どうしようかなじゃないんだよ。もうそいつ不戦勝で構わないだろ。武器の無い剣士なんて、普通の一般人となんも変わんないんだからって。

弾冴が呆れ返っていると、ランドは何かを見つけた様で、周りで見ている普通科の女の子の所に歩き出した。


「ごめん。ちょっとそれ、借りていいかな?」

「ふぇ!?…コレですか?」


女子生徒から【それ】を借りるとランドは振り返りまたコチラに向かって歩き始める。

その手には1本の程よい長さのホウキが握られていた。


「先生。俺、これでいいよ」


………。。。


もう弾冴は言葉を失っていた。

武器を忘れた剣士は、廊下とか室内をはく様の程よい長さのホウキ。持ち手はプラスチックで攻撃力などほぼ無いに等しい物で自分と戦おうとしていたのだ。


「君…それ本気で言ってるのかい?正直、それを使うならコチラで木刀かなにか用意するけども」

「いや…そんな硬い物使ったら、このおチビちゃん怪我しちゃうし」


はぁぁぁぁ…もうため息しか出てきませんよ。なにこいつ。勝つ気でいるの?おかしくない?

しかも、おチビちゃんって…。俺と身長20cmくらいしか変わらないだろ?180無いくらいなのに、俺の事をチビとか言って本気で舐めてやがるな。


「先生、いいでしょそんな奴のこと放っておいて。そんなもので俺は手を抜いたりしねぇからな」


弾冴はヤル気に満ちている。満ちているというか、こんなふざけた奴の相手なんか本来はしないのだが。

コイツを華麗に倒してSクラスの切符が手に入るんだから、人生楽勝モードなんだわ。

弾冴はトコトコと歩きランドと一定の距離をとる。


「君…本当にそれでいいんだね?多分だけど、彼なかなか強いと思うよ?大丈夫?」

「あ。はい…。俺、手を抜いてあげるんで怪我とかさせないように気をつけます」


はいはい。もうお前の訳のわかんない余裕もういいから。俺のこのミタラシマンパワーで二度と戦場に立てない体にしてやるから。


「え?いや、君が手を抜くって…まぁいいか。それでは、模擬戦開始!」


やっと始まったか。まずは、このカッコイイ俺の変身を見せてやるから覚悟しろよ!


弾冴は振り向くとすぐさま手を上に突き立てる。


「へぇぇぇぇぇんしぃぃぃぃん」


呪文を唱えながら手を下に下ろしくるっと一回転回し身体も一回転回し始める。


「ミタラシマ……ぐほぉぉぉう」


身体を一回転回し終わる頃に、ランドの持っていたホウキの柄の部分が弾冴身体に突き刺さる。

くの字に曲がる弾冴。

ランドは、右手に持っていたホウキを弾冴の身体に突き立てたまま手を離し身体を半回転させ左手に持ちかえる動作のまま足払いを仕掛け弾冴の体制を崩すと、倒れた弾冴の顔のすぐ横にホウキの柄を地面に突き立てた。


「へへ…俺の勝ちかな?」


弾冴は何が起きたのか理解するのに時間がかかった。それは、周りの者も同じであった。


「そ…それまで!勝者ランド!」


周りから歓声が聞こえてくる。そこで初めて弾冴も自分が負けた事に気付かされた。


「な…なんなんだよ。そのホウキ」


柄の部分は柔らかいプラスチック。しかし腹に突き立てられたときは、鉄の棒かと思わされるような強度に感じた。

そして自分の顔の横に空いた丸い穴。いくら学校の校庭とはいえ、地面は硬くプラスチックで空くようなものでも無い。

ランドは模擬戦が終わり次第すぐに女子生徒にホウキ返しに行っていた。


「残念だけど、君はCクラスから始めてくれるかな」


教師に手を差し伸べられ身体を引き起こす。


~回想終わり~




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