【悲しい、たった1人のミイラ】

それから、また歩き出しました。


何時間も、あるいはたったの数分だったのかも、知れません。


アスカが、また止まりました。


その部屋も、何もありません。ただ、無限の空気だけが、ありました。


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アスカは、部屋のずっと先まで、歩いていきます。


そして、止まりました。


「京太郎、サングラスの皆さんも、こちらに来てください」


何だろう?

京太郎は、思いました。


「皆さん、ここにあるのが、本当の私です。何万回も、何十億回も、あるいはそれ以上の回数、転生を繰り返す前。この超超巨大宇宙船の王女だったのが、このミイラです」


「ミイラ・・」


「回復不可能な伝染病で、この超超巨大宇宙船の99.9999999%の人口が失われ、普段は優しく、穏やかだった科学者たちは、正気を失い、この透明なピラミッド型の永久個体に、私の身体を封印しました。その結果が、これです」


一見、ガラス張りにも見える、その透明な物質には、本当にアスカが、封じ込められています。


目の前にいる本物のアスカと、とても似ています。ですが、とても儚く、とても悲しく、億千万の輪廻の恩讐を受け継いだ、たった1人の女の子です。

同時に、限りなく純粋な、女神のようにも見えました。


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また、歩いています。ずっと、歩いています。


「皆さん、トイレ行きたくないですか?」


そう言うとアスカは、さっさと女性用らしい部屋に、入っていきました。


サングラスたちも、男性用トイレに入りました。


「おわ・・」


京太郎も、急いで続きます。


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トイレの中は、とても広くて、暖かい間接照明で照らされています。


京太郎は、コンパートメントに入りました。


すると何かが、股間の前の壁で小さく光り、何かと思っていると、尿意がスッキリ爽やかに解消されています。


「今の地球の人類とか、何万年科学が進歩しても、同じことやれそうにないなあ」


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トイレから出ました。


もう皆んなは終わって、京太郎を待っていました。


「やぁ、済まない」


「あれ?」


アスカが、向こうを向いて、立っています。


サングラスたちは・・


「ワカ、ズボンを膝上まで落ろしたままです!」


「ヒィーーーーー」


京太郎は、必死で服を直しました。


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それから、しばらく歩きました。


「皆さん、やっと目的地です。あのドクのディスク。あれを小さいスロットに挿入すれば、月の落下は止まります」


「やった!」


京太郎もサングラスも、そしてアスカも、大喜びで飛び上がっていました。


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