第39話 ……待てよ、騎士を失格になれば帰れるぞ!


 広間の奥から姿を現したのは、金色の王冠を被った、いかにも『王』といった感じの人物だった。ついでに立派な髭まで蓄えている。


 ……説明するまでもないと思うが、たった今俺たちの前に姿を表したこの人物こそが、この国の王であるベルナール・フランベルだ。


 つまりテレーズの父親である。どうやら、ようやく王族どもの準備が済んだらしいな。


 偉そうに佇むベルナールの隣には、やたらと豪華なドレスを着たテレーズが立っていた。


「…………あ!」


 テレーズは、モブ騎士と揉めている最中の俺に向かって笑顔で手を振ってくる。


 まったく……完全に友達感覚だな。貴様には人の上に立つ者としての自覚がないのか? 呆れた奴だ。


 俺はニコニコの笑顔で王女に手を振り返しながら、腹の底ではそんなことを考えていた。下手に説教をして打ち首になるのは嫌だからな! 


 初日から決闘騒ぎを起こした時点で、俺の打首ポイント(※三ポイント貯まると打ち首。俺が今考えただけで原作に登場する概念ではない)はとんでもないことになっているはずだ。これからは、出来るだけ大人しく過ごすぜ!


「………………?」


 すると今度は、不思議そうな顔でこちらを見つめてくるテレーズ。


 「ところで、その方と何のお話をしていたのですか、アルベール? 楽しそうですね!」とでも思っていそうな間抜けな顔だ。


 のんきにしやがって……貴様の両頬をねじり上げてやろうか?


「べ、ベルナール王!」


 俺が一人でテレーズのぽやぽや具合に苛つき、拳を握りしめていると、ファイヤーボールの燃えカスが叫んだ。


 俺に焼かれ、先ほどまで真っ赤な顔で激昂していた燃えカスだったが、王が現れた瞬間このザマだ。その顔は真っ青。実にせわしない奴である。


「余は初めから見ておったぞ? これから共に国を守ってゆく新たな騎士たちに向かって無礼を働いた上で、決闘をしようなどと言い出すとは……恥を知るが良い」

「もっ、申し訳ございませんッ!」


 泣きそうな顔で謝る燃えカス。いい気味だ。


「謝るべき相手は余ではないのじゃが……一先ずは置いておこう。…………次はお主じゃ、アルベール」


 王は鋭い目で俺の方を見てくる。


 クソッ! 両成敗の流れだったか……ッ!


「はい……」


 俺は短く返事をする。とりあえず反省しているフリをして、なるべく受ける罰を軽くするしかない!


「何を言われようと、仲間に向かって魔法を放つのは良くない。時には肩を並べて戦うこともある騎士同士……大切なのは信頼関係じゃろう?」


 偉そうに正論ばっかり言ってきやがって……! 嫌いなタイプだぜ……!


「はい」

「テレーズには悪いが、お主を騎士として認めることはできない」

「…………はい」


 なるほど、俺だけ騎士失格というわけか。思ったより処分が重かった。


「そ、そんなっ!? お、お父様っ!」


 ようやく状況を理解し始めたらしく、慌てふためくテレーズ。


「…………」


 一方、俺は黙って俯きながらこう思っていた。


 あれ? じゃあお家に帰れるじゃん! やったーーー! 怒りに任せて行動して良かったーーー! よっしゃああああああッ!


「あ、アルは悪くないもんっ!」


 その時、リーズが広間に響き渡るほどの大声で叫んだ。


 ……いや、今回ばかりは俺が全面的に悪いぞリーズ! 俺は騎士失格だからこの場所にいる資格はないな! 実に残念だ!


「そ、そうよっ! アルは……あたしとその子――リーズのために怒ってくれたのっ」


 今度はドロテが声を上げる。


 いや、俺がバカにされたからキレただけなんだが? お前は何を言っているんだ?


「アルはそいつをぶっ飛ばそうとしたあたしのことを止めてくれたの、気にすることなんかないって。その優しいアルが怒ったの! 分かるでしょ!?」

「私たちに酷いこと言ったのはその人だもん! だから、アルが騎士失格なんて絶対におかしいっ!」

「…………王。僕からもお願いします。……仲間思いの彼が騎士として認められないのであれば……僕もこの式を辞退する」


 激しく抗議するドロテ、リーズ、セルジュの三人。……おい待てふざけるな。もう少しで俺は帰って平和に暮らせるんだッ! 余計なことをするなッ!


「わ、私からもお願いしますお父さまっ! どうか、アルベールにもう一度チャンスを……っ!」

「ふむぅ…………」


 四人から集中砲火され、考え込んでしまうベルナール。


 王よ! あなたの考えは全面的に正しい! 不正な糾弾に屈してはならない! 頑張れベルナール! 負けるなベルナール! ファイトおおおおおッ!


「……まったく。お主は余程皆から信頼されているようじゃな、アルベール」

「いえ、悪いのは僕です。責任を取らせて下さいッ!」

「もう良い、余の負けじゃ。……お互いに、この件に関しては不問じゃ。以後、気を引き締めて騎士として相応しい行動を心がけるように」

「そんなぁ……!」

「それでは、叙任式を始めよう」


 ああああああああああああああああああッ! お家に帰れる最後のチャンスがあああああああああッ!



 

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