第38話 この様子だと、俺は初日に騎士をクビになりそうだな!
各自の部屋で白い軍服(サイズが合っていないのでぶかぶか)に着替えさせられた俺たちは、大勢の人間が集まる大広間へと案内された。
先頭から縦一列に、俺、セルジュ、ドロテ、リーズの順で入場し、場に居たモブ貴族やモブ騎士どもの注目を一身に浴びる。どうやらこれから、騎士の叙任式とやらが始まるらしいのだ。
当然、主役は俺たち四人とテレーズ王女。だが、肝心のテレーズを含めた王族どもは、準備とやらが済んでいないためまだ来ていない。
この俺を待たせるとは……実にのんきな奴らだ。平和ボケか? 戯れにこの国を滅ぼしてくれよう。(小粋なジョーク)
……それにしても暇だぜ。とても暇なので、先に儀式の流れを説明しておこう。(自然な導入)
――といっても、やることは簡単だ。
テレーズの前に俺たち四人で並んで跪き、王家に対する忠誠を誓うことで、正式に主従関係を結ぶのである。
ちなみに、なぜ騎士が四人なのかというと、かつてこの地に居城を構えていた魔王を倒して建国した勇者が五人パーティだったからだ。
姫様を含めた五人という数字が、この国にとっては縁起が良いのである。要するにただの下らない迷信だな! ふざけた設定だぜ。
そもそも、原作だと一瞬だけ触れられる程度の撮るに足らない設定で、付き人の騎士四人も碌に名前すら明かされないモブキャラだったはずだが?
まったく、気まぐれも程々にして欲しいものだ。
「おい見ろ、全員まだ子供だぞ」
「彼らを騎士に任命するとは……テレーズ王女は一体何を考えておられるのだ……?」
……案の定、無理やり俺たちがねじ込まれたせいで騎士どもからは良く思われていないみたいだな。
モブ騎士という立場に甘んじている無能どもが人生二週目の若き天才であるこの俺に嫉妬するのは仕方のないことだが、せめてもっと小声で話して欲しいものだな。
声がデカ過ぎてひそひそ話が全部聞こえてくるぞ。
「成長して落ち着いたとはいえ、王女もまだまだ子供だからな。身の回りの騎士は同年代の者で固めたかったのだろう」
「アルベール、セルジュ、ドロテーヌに……リーズか。確かに、あの年齢にしては実力のある者たちだが……王女専属の騎士として適格かどうかと言われれば……」
……まずいな。このまま音量調整を派手にミスっている陰口が続けると、ドロテがキレ散らかして面倒なことになるやもしれん。
俺は、恐る恐る背後へ振り返った。
「…………ふん」
問題のドロテは両腕を組んで明らかに不機嫌そうな顔をしているが、今のところ大人しく立っている。
ふむ、どうにか怒りを抑え込めているようだな。
野蛮な猿だと思っていたが、なんだかんだでコイツも成長しているらしい。実に感動的だぜ。
……仕方がない。一応フォローしておいてやるか。
「ドロテ。僕たちは実力があるからこそ、王女様の騎士として選ばれたんだ。あんな奴らの言うことなんか、気にしちゃだめだよ」
俺は、周りに聞こえない模範的なヒソヒソ声で言う。
「だ、大丈夫。……式が終わるまでは……我慢できるわ……ッ!」
「………………」
……まぁ、本能の赴くままに暴れていた時と比べれば、だいぶマシになってるよな!
「まったく! 騎士として、あれらと肩を並べねばいけないのかと思うと……ため息が出る」
「くくくっ、よせ。子供騎士様ご一行に聞こえたら、泣き出してしまうかもしれないぞ?」
……というかコイツら、わざと聞こえるようにやっているな? 騎士のくせに陰湿な奴らだぜ。
もっとも、この程度の安い挑発に乗る俺ではないがな。
「あの中だとアルベールとかいうのが一番強いらしいが……実に貧弱な面構えをしているな! あれでは、剣どころかスプーンすらまともに持てないのではないかぁ?」
は? 死ね殺す。
「おまけに、ヴェルア家の出来損ないとラングレー家の死に損ないまで「ファイヤーボールッッ!」
「ぐああああああああああッ!」
気づくと、モブ騎士が俺の目の前で炎上していた。
「あ、アルっ?!」
ドロテの呼ぶ声で、ふと我にかえる。
「あっ」
どうやら、うっかり手が滑ってゴミを焼却してしまったらしい。
「ぐぅぅッ、貴様ァ……!」
黒焦げになりながらも立ち上がり、俺のことを睨みつけてくるモブ騎士。
とりあえず……謝っておくか(笑)
「も、申し訳ございません。うるさい虫が近くにいたので焼き払おうと思ったら……人間でした!」
俺はそこまで言ってはっとする。
まずい、いつもの癖で煽ってしまった!
「決闘だッ!」
俺があたふたしていると、さらに激怒した様子のモブ騎士が叫んだ。
「おい、どうするんだこれ……?」
「だ、誰か止めろよ……」
騒然とする大広間の有象無象ども。
あれ……もしかして俺、何かやらかしちゃいましたか?(現実逃避)
「そこまでじゃ」
目の前の現実から目を背けようとしたその時、広間に王の声が響いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます