第34話 あれ、俺以外乗り気っぽいな……?
俺達は、突然目の前に現れたルマナン王国の第一王女、テレーズによって、騎士として選ばれた。
「………………!」
あまりにも急な出来事だったため、その場にいた全員がテレーズを見つめたまま言葉を失う。その様子を見たお姫さまは、にこにことした笑顔を崩さずに言った。
「――色々と準備があるでしょうから、すぐにとは言いません。ひと月後、使いの馬車をあなた方の元へ送ります。…………また会えるのを楽しみにしていますね」
こちらに発言する隙を与えず一方的に話し終えたテレーズ。何やら少しだけ周囲を気にしている様子なので、おそらく付き人の目を盗んで俺達と話しに来たのだろう。
「それでは、ごきげんよう」
テレーズは、軽くお辞儀をして足早に俺達の元から立ち去る。
……お転婆なのは原作通りということか。大会で目立ち過ぎたせいで、超面倒な奴に目を付けられてしまった。俺は廊下の奥に消えるテレーズの後ろ姿を睨みつける。
「ね、ねえ、アル……」
するとその時、リーズが服の袖をちょんと引っ張ってきた。
「どうしたの?」
「えっと……王女さまから騎士に任命されると、どうなるの……?」
小声で不安そうに問いかけてくるリーズ。
そういえば、貴族社会についてリーズに教育してやるのを忘れていたな。お父さまもお母さまもリーズのことは放置気味だし、もしかしなくてもコイツはとんでもない世間知らずに育ってしまったようだ。実に哀れである。
半分くらいは俺のせいだが。
……それによく考えると、こいつは自分自身の魔法の才能をよく理解していない節がある。
ここまで世間知らずだと、そのうち「回復魔法で傷を完治させることくらい、誰でも簡単にできるでしょ……?」などと異世界に転生した主人公のようなことを言い始めるかもしれない。
……手遅れにならないうちにある程度の常識は教えてやった方が良いな。
リーズの将来のため、ひとまずは質問に優しく答えてやるとするか。
「テレーズ様の騎士になるっていうことはつまり、王宮に住み込みでお姫様を護る役に就くってことだよ。……大変なことになっちゃったね」
我ながら惚れ惚れするほどの分かりやすい説明だな。まず間違いなく、将来は優秀な教師になれるだろう。
「じゃあ……アルと私はお屋敷から出ていくことになるの……?」
リーズは首を傾げる。
「うん。……このままだと、そうなっちゃうね……」
俺は俯きながら言った。今回ばかりは本心から悲しいと思っている。快適な我が家での暮らしが脅かされているからだ。
せっかく裏切り者が潜んでいる疑惑も晴れつつあり、再びぬくぬくと過ごせそうなこのタイミングで、お姫さまのお守りをさせられるだと……?
そんなの絶対に嫌だぞ!
「アルと一緒……しかも邪魔されない…………!」
リーズも思い詰めた感じでぶつぶつ言ってるし、おそらくお家を離れたくないのだろう。
「ふん! ちょっと偉いからって、一方的すぎるんじゃない?」
「…………僕はどうでもいい。邪魔をされたのは不愉快だけど」
ドロテとセルジュも、良くは思っていない様子である。
「そ、そうだよね……! いくらなんでも急すぎるよね!」
俺は皆に同調した。
そう。いくら俺たち四人が優秀で、お姫さまとそれほど歳が離れていないからとはいえ、このような暴挙が許されるはずがないのだ!
王族の騎士になることは、一般的にこの上ない名誉であるとされているが、俺は自分以外の人間の身を護るなどというクソ面倒で何の得にもならないことなどやりたくない!
「残念だけど……この話は断ろう」
四人で力を合わせて反対すれば、少しは考え直してもらえるはずだ!
「………………」
「………………」
「………………」
「あ、あれ? みんな?」
しかし、俺の言葉に返事をする者はいなかった。
「でも、お姫サマの騎士になれば……アルと毎日一緒に暮らせるってことよね……! しかも王宮で!」
「王宮なら、魔術の探求も好きなだけできる……。それに、騎士として強くならないといけないから……アルベール君と毎日魔法で模擬戦しないと……!」
「騎士としてお姫さまのお側にずっといないといけないから……つまり、アルとずっとずっと一緒にいられる……!」
というか、俺以外乗り気っぽいな……?
「断るだなんてとんでもないわ! 一緒に騎士になりましょ、アル!」
「……今回ばかりは、彼女の言うことに従った方がいいと思う。……考え直すんだ、アルベール君」
「そ、そうだよアル! 私も頑張るから、一緒に頑張ろっ! アルのお父さまとお母さまだって、絶対に喜んでくれるよ!」
あれ……? なんか俺、すごい説得されてる……。
「……………………」
「何も言わないってことは、納得してくれたのね!」
「嬉しいよ、アルベール君。……騎士として、これから共に高め合おう」
「私、アルの力になれるようにいっぱい頑張るねっ!」
かくして、俺の平和な日々は完全に奪われたのだった。
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