第32話 まったく、モテモテで嫌になるぜ!


「――それでは皆さん、優勝したアルベール選手に大きな拍手を!」


 司会が言うと、観客席の奴らが、闘技場の中心に立っている俺に向かって、惜しみない拍手と賞賛の声を送ってくる。


「すごい決勝戦だったぜ……!」

「あまりにも動きが早すぎて、止まって抱きしめあっているようにしか見えなかったぞ……?!」

「理解に苦しむ」


 一般庶民どもは、俺とドロテの戦いがあまりにも常識外れすぎたせいで困惑気味の様子だ。気持ちは分かる。


 俺も未だに奴の奇行については心の整理がついていないからな!


「くッ……! これが貴族どもの……しかも子供の時点での実力か……。革命は中止だな……」

「クソッ……! 俺たちのやってきたことは……全部無駄だったっていうのかよッ!」


 ……革命だと? ちょっと待て。今、堂々とふざけた会話をしている奴らの声が聞こえて来たぞ? 


「この国の貴族どもは……あんな化け物の集まりなのか……!」


 ……なるほど。どうやら、俺があまりにも強かったせいで王国内で起こるはずだった革命が事前に阻止されたようだ。


 そういえば、原作だとアレクが仲間と協力して王国の革命を阻止していた気がするな。完全に忘れていた。


 まあ、結果オーライだな!


「続けて、アルベール選手と戦い、惜しくも敗れてしまったドロテーヌ選手にも拍手をお願いします!」


 司会が言うと、ドロテには俺の時よりも控えめな拍手が送られる。あんなふざけた戦いをしたんだから当然だな。


「見て……アル。国中があたしたちのことを祝福してくれているわ……っ!」


 すると、顔を赤らめながら小さな声で俺に耳打ちしてくるドロテ。


「うん、そうだね。(貴様の頭が)おめでたいね」

「も、もうっ! アルったら……!」


 ドロテは、照れた様子でもじもじする。実に不気味な奴だ。思考が読めない猿ほど恐ろしいものはない。


「では、少年少女の部はこれにて終了です! 皆さん、もう一度大きな拍手を!」


 かくして、俺は武闘会の優勝者として王国の歴史に名を刻んだのだった。


 本当は踊りに来ただけだった気がするが、過ぎたことである。


 *


 無事に試合を終えた俺は、最初に訪れた宮殿へと帰還した。


 現在は、俺のために用意された広めの客室で寛いでいるところだ。


 明日はお父さまが武闘会に参加するらしいので、今日はこの場所に泊まらなければならないのである。


 下級貴族から忖度されまくるであろうお父さまの試合とかクソどうでも良いんだが? 早く俺をお家に帰らせろ。


「ふざけやがって……! 優勝者であるこの俺をもっと労われ……!」

「でも、いい部屋でゲスよ? あっしの所とは大違いで、羨ましいでゲス!」


 俺が苛ついていると、いつの間にか部屋へ侵入していたガストンがそんなことを言ってきた。


「俺は優勝者だからな。他の有象無象どもよりも良い部屋が用意されているのは当然だろう?」

「不公平でゲス!」


 ガストンは、豪華な椅子に座って俺以上にくつろぎながら抗議してくる。


「……………………」

「な、なんでゲスか? や、やめ、ああああああああッ!」


 俺は何も言わずにふてぶてしい豚を部屋の外へ蹴り出すのだった。


「まったく、油断するとすぐにつけ上がるな」


 いい加減、俺を見習って高潔な精神を身につけて欲しいものだ。一応あいつも貴族だからな。


「やれやれ……手のかかる下僕だ」


 俺が一人でやれやれしていると、突然部屋の扉がノックされた。


「…………うん?」


 一瞬、追い出されて反省した豚が舞い戻って来たのかと思ったが、その割にはノックの仕方が上品だ。おそらく別の誰かが訪ねてきたのだろう。


「はーい! 今出ます!」


 俺はそう呼びかけた後、鏡を見て可愛らしい笑顔を作り、部屋の扉を開ける。


 するとそこに立っていたのは、初戦で俺に負けた氷の貴公子(笑)のセルジュ君だった。


「あ! セルジュ君! 僕に何か用?」


 俺は部屋に外に出て、無言で突っ立ってるそいつにニコニコの笑顔で問いかける。


「…………試合」

「ん? しあい?」

「……楽しかった」


 なんだこいつ。昔のリーズ並みに意志の疎通が面倒だぞ。


「魔法の撃ち合いで僕に勝てたのは……アルベール君が初めてだ」

「…………………………?」


 というか。どうやら俺の誤魔化しスキルが高すぎて、こいつは未だに真剣勝負で負けたのだと勘違いしているらしい。哀れな奴だ。


 ……まあとりあえず、適当に話を合わせておくか。


「うん、僕も楽しかっ――」


 ドン!  


 発言しようとしたその瞬間、俺は壁際に追い込まれた。


「えっ……?」

「君が欲しい。アルベール君」

「………………は?」


 そして、そのまま訳の分からないことを言い始めるセルジュ。


「ずっと……側に居て欲しいんだ」

「あ?」


 きも。


 思わず作り笑いが崩れてしまったその時、近くでどさりと誰かが尻もちをつく音がした。


「う……そ……」


 おそらく俺の部屋を訪ねて来たであろうリーズが、たまたまセルジュと俺のやり取りを目撃してしまったのである。


「ど、どろぼうねこっ!」


 リーズは、セルジュのことを指さして叫ぶリーズ。


「えええええええええっ!? 何よこれッ! どういうことなのッ!?」


 おまけに、反対側からドロテまで来やがった。


 正面にはセルジュ、左手にはリーズ、右手にはドロテ。まったく、モテモテで嫌になるぜ。


 もう滅茶苦茶だよ。

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