第30話 俺は争いを好まない心優しき少年なんだが?


「な、なんだこの戦いは……!」

「次元が違いすぎる……!」


 俺とセルジュの魔法が派手にぶつかり合うことによって、コロシアムは大歓声に包まれる。


 この俺を相手に互角とはな。まあまあの実力であることを認めてやろう。


 しかし、ただ強いだけではいけない。弱者を思いやる心を備えてこそ、真の強者であるということができる。


 この俺のようにな!


「本当に少年少女の部の戦いなのか……?!」

「まるで達人の部の決勝戦だな!」


 その時、観客席からうるさい話し声が聞こえてきた。とても気が散る。雑魚は黙ってろ。


「アルーッ! がんばってーッ!」


 おまけに、背後の席からドロテの声援まで聞こえてきやがる。


 ……やれやれ、俺は静かな方が集中できるんだがな? 


 もっとも、俺だけを応援するのであれば、いくらでもしてくれて構わないが!


「ファイヤーボール!」


 俺はニヤニヤしながらセルジュに向かって渾身の火炎魔法を放ち、出方を伺う。


「アイスウォール!」


 すると、やつは氷の壁を発生させて攻撃を防いできた。……ふむ、どうやら持っている魔力の量は俺より多そうだな。おまけに、魔法を扱う技量も俺より少しだけ上のようだ。


 生半可な努力と才能では、この領域まで至れないだろうな。見直したぞ、セルジュ・プレヴァンス。それなりの実力であることを認めてやろう。


 しかし、ただ強いだけではいけない。弱者を思いやる心を以下略。


「なかなかやるねセルジュ君! もしかしたら僕、負けちゃうかも!」


 少しだけ本気になった俺は、魔法を防いだセルジュに向かって思ってもいないことを言う。


 こうすることで相手の油断を誘い、隙を突いて全力で叩き潰すためだ。


「……僕も」

「うん?」

「僕も、君と戦えて嬉しい」

「…………うん?」


 するとセルジュは、争いを好まない心優しき平和主義者である俺にとって理解し難いことを言い始めた。


 は? お前と戦えて嬉しいとか一切思ってないし、言ってないんだが? 何を勘違いしているんだ? 自惚れるなよ? 不愉快だぞ?


「君が相手ならきっと……僕も本気を出せる」


 俺が笑顔を崩さないようにしつつ心の中で悪態をついていると、セルジュはとんでもないことをほざく。


 なんだこいつ……自信過剰過ぎないか……? うぬぼれるなよガキが……!


「――次で最後だ。僕の全身全霊をもって、君にアイシクルランスを撃ちこむ。……まともに食らったらきっと死ぬから……アルベール君も全力で来て欲しい」


 しかも手の内まで明かして来やがった。正気の沙汰ではない。


 俺など大した相手ではないということか? ムカつくぜ……!


「……分かった。それなら、僕も全力で応えるよ!」


 俺がにっこりと微笑んでそう言うと、セルジュも嬉しそうに微笑んだ。そして、すぐに魔力を高め始める。


「おいおい、あそこまで魔力を込めるなんて……まともにくらったら死んじまうぞ?」

「だ、誰か止めた方がいいんじゃないか……?」


 騒然とする観客席。


「よ、よけてっ! アルっ!」


 その危険性を感じ取ったのか、人前で滅多に喋らないリーズが珍しく、俺に届くほどの大きな声でそう忠告してきた。


 ――ちなみに、この世界の人間は本気を出すと馬鹿みたいに大きい声を出せるので、誰でもコロシアム中に声を響き渡らせることができる。


 遠く離れた敵将と会話することがあるシュミレーションRPGならではの特殊技能だな! 鼓膜が破れないのが不思議だぜ。


「も、もう見てられないわっ! 誰かセルジュ君を止めてっ!」

「……いいや、違うな。セルジュはアルベールの実力を信頼しているからこそ、本気で攻撃するつもりなんだ。彼らは今、二人きりの世界で通じ合っている。そこに水を差すだなんて、それこそ野暮というものだろう?」


 いや、俺としては止めて欲しいんだが? ふざけてるのか貴様ら? どうして審判まで頷いているんだ? この国の人間は狂った奴しかいないのか? 俺じゃなければ死ぬぞ? おい!


「アイシクルランスッ!」


 刹那、セルジュは巨大な氷柱を俺に向かって飛ばしてきた。


 ……こうなってしまったら仕方がない。


 俺は全力で――


「くらえええええええええッ!」

「――――――――っ?!」

「ファイヤーボールッッ!」


 その攻撃をかわし、反撃の火炎魔法をセルジュに向かって撃ち込んだ。


「わああああああああああッ!」


 セルジュの身体は勢いよく吹き飛び、闘技場の壁に激突する。多少は手加減してやったから、この程度では死なないはずだ。


「しょ、勝者……アルベール選手!」


 かくして、俺は一回戦目を突破したのだった。


「やったー!」


 わざわざ予告してきたんだから普通かわすよな! 俺の判断が圧倒的に正しい!


「何が……起こったんだ……?」

「うおおおおおおおおっ! 分かんねえけどすげええええええ!」


 あまりにも一瞬の出来事であったため、客席の奴らも俺が何をしたのか理解できなかったようだ。 


 やれやれ、俺という大天才の存在が下民にも知れ渡ってしまうな!

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