第29話 どうせ勝つのは俺だがな!
抽選の結果、ガストンは一回戦目、俺は五回戦目に出場することとなった。
対戦相手は興味がなかったので見ていない。誰が相手だろうと、死なない程度にねじ伏せれば良いだけだからな。
いや、最悪殺してしまっても今なら事故だったということで許してくれるかもしれない。……アリだな!
「それでは皆さま、私に付いて来てください。会場へご案内いたします」
邪魔な相手を処分する算段を脳内で立てていると、使用人が俺たちに向かってそう言ってきたた。
どうやら、抽選会がこの宮殿だっただけで、試合が行われる場所はコロシアムのようだ。
そんなの詐欺だろ。
最初からコロシアムで武闘会をやると言ってくれれば、俺もこんな間違いはしなかったんだが?
……まあいい。
「行くぞ、ガストン」
「嫌でゲス……」
「始まる前からそんなことを言うな! 諦めるんじゃないガストン! 俺はお前がボコボコにされる所を見たいんだ!」
「シンプルにクズでゲス…………」
「元気を出してやられて来い!!!」
俺はすでに放心状態で死にかけのガストンを連れて、決戦の地へと向かうのだった。
*
「さあ、いよいよ第五十六回目の武闘会が始まりましたッ!」
司会の宣言と共に、観客席から歓声が上がる。
コロシアムの広大なバトルフィールドには、武闘会に出場する選手たちが集められていた。
おまけに、この国の王族達まで武闘会の見物をするらしい。
王族専用の特等席には、メインヒロインである第一王女の姿もある。
ヤツの名はテレーズ・フランベル。美しい銀髪に、紫色の瞳を持つ、お淑やかな少女だ。歳はアレクやジルベールお兄さまと同じだから……俺の二つ上だな。
テレーズは、原作で割と散々な目に遭っている愉快な奴だ。アレクが死んでしまったので、おそらくこの世界でも碌な末路は待っていないだろう。かわいそうに。
まあ、この国から逃亡する予定の俺には関係のない話だがな。不幸が移りそうだから、一切関わらないようにしたいぜ!
「うおおおおおおおお!」
「やっちまええええええええええ!」
それにしても、さっきからすごい歓声だな。まったく……この国には上から下まで血の気の多い奴しかいないのか? イカれてやがる。
――その後は、王による長い挨拶が行われ、いよいよ試合が始まった。
俺は現在、バトルフィールドに一番近い選手専用の席から震える下僕第一号の見物をしている。
「第一回戦! ガストン選手対ドロテーヌ選手!」
そういえば、一回戦目の相手はどうやらドロテらしい。知っている奴同士の殴り合いを見るのはなかなか面白そうだ。
「覚悟しなさいッ!」
「ひ、ひいいいいい!」
名前を呼ばれたガストンとドロテが互いに向き合い準備が整うと、司会が叫んだ。
「試合開始ッ!」
その合図とともに、ドロテは凄まじい魔力を放出する。
「はああああああああああああああッ!」
そして、目にも止まらぬ速さでの攻防が始まった。
「くらえッ!」
「ごふっ! あばばばばばばばっ! うぐっ! あああああああッ!」
というか、一方的にガストンが殴られている。
ドロテ……お前、思ったより強かったんだな。俺は少しだけ感心した。
「あっ! でもっ! 良いかもしれないでゲスっ! ぐふっ!」
そしてそれ以降、特に見せ場もなくガストンは敗退した。
「勝者、ドロテーヌ選手ッ!」
ちなみに試合のルールは簡単で、先に気絶するか降参した方が負けだ。いたいけな少年少女にこんなことをさせるなんて野蛮過ぎるぞ。
もはやこんな国は滅ぼされてしまった方が良いんじゃないだろうか? それに、虫も殺せないような美少年である俺は、誰かと争うなんてことしたくないんだが?
そんなことを思っている間に時は流れ――
「第五回戦ッ! アルベール選手対セルジュ選手!」
とうとう俺の番が回ってきた。
……というか、俺の初戦の相手はプレヴァンス家のいけすかないクール系モテモテ貴公子、セルジュ・プレヴァンスじゃないか!
「おいおい、一回戦目から優勝候補とあたっちまったのか。いくらアルベールが魔法の扱いに秀でているからといって、到底勝てるような相手じゃないぞ……!」
すると、観客席からそんな声が聞こえてきた。
「クローズ家の三男には期待してたんだがな……今回ばかりは運がなかった。また来年に期待だな」
……ふざけるな。平和主義者で争いを嫌うこの俺が、来年もこんなふざけた大会に参加するわけないだろう。
「試合開始ッ!」
俺が苛ついていると、司会が叫んだ。
「……………………」
ほぼ同時に、セルジュが無言で攻撃を仕掛けてくる。
「挨拶もなしかクソガキ……ッ!」
セルジュの放った氷結魔法と、俺の放った火炎魔法が、コロシアムの中心でぶつかり合うのだった。
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