第24話 感動の再会
座敷牢から解き放たれたエドワールお兄さまは、一度誰にも見つからないよう屋敷の外へ出て、俺と別れた。
外から三年ぶりに何食わぬ顔で帰って来たお兄さまを、屋敷の使用人に発見してもらうためだ。
俺は自室へ戻り、魔導書を読みながらエドワールお兄さま発見の知らせがくるのを待つ。
「え、エドワールお兄さまが見つかった……? それは本当ですか?!」
この台詞を何度も練習したので、驚く演技もばっちりだ。
さあ、いつでも来い!
俺が悠然と構えていると、突如として部屋の扉が勢いよくノックされる。
「た、大変ですアルベール様っ!」
そしてメイドの声がした。どうやら時がきたらしい。俺は椅子を引いて立ち上がり、ゆっくりと扉を開ける。
「何があったの……?」
そして、立っていたメイドに上目遣いで問いかけた。
「うっ……!」
メイドは俺のあまりの愛くるしさにのけぞる。
「エドワール様が……見つかりました……っ!」
しかし、そのまま用件を伝えて来た。どうやら耐性がついてきたらしい。
まあいい、そろそろだと思っていたところだ。準備は万全。
完璧に驚いてやる! 刮目せよッ!
「え、エドワールお兄しゃ、お兄さまが見つかった……? そ、それは本当ですか?!」
肝心なところで噛んだんだが?
「はい! 至急、居間まで来るようにと……」
「わ、分かったよ! ありがとうメイドさん」
俺はそう言ってメイドの脇をすり抜け、急いで居間まで走った。途中で何も知らないリーズと遭遇してしまったので、事情を説明してついでに連れて行くことにした。
*
居間には、お父さまとお母さまとジルベールお兄さま、そして発見されたエドワールお兄さまが集まっていた。 ちなみに、天井裏にはガストンが潜んでいる。
この屋敷の屋根裏には、奴が勝手に作った秘密の部屋がいくつか存在しているのだ。まったく、ただでさえ色々とおかしい屋敷だというのに、困ったものだぜ。
俺が頭を悩ませていると、感動の再開シーンが始まった。
「エド! 今までどこにいたんだ!」
「そうよエド! これまでのことを話して!」
「え、エドワールお兄さま……そ、その、無事で……良かったです」
うん、実に感動的だ! 俺は複雑な表情をして黙っておこう。エドワールお兄さまのことを良く思っていない設定だからな。
「………………」
「アル……」
「うん、大丈夫だよ。リーズ……」
俺が小声でそう言うと、リーズは俺の手をぎゅっと握ってきた。リーズも、エドワールお兄さまのことはそれほど良く思っていないのだろう。危うく鞭でしばかれる寸前だったんだから当然だが。
「……みんな、落ち着いて聞いてほしい」
すると、エドワールお兄さまはそう言った。
「お、落ち着いていられるわけないでしょう! どこへ行っていたのエド!」
「俺は妖精さんの国へ行っていたんだ!(爽やかボイス)」
その発言によって、居間は静まり返る。
「手遅れだったか……!」
「うぅっ……うううううううううううううううッ!」
お父さまは頭を抱え込み、お母さまは涙を流して膝から崩れ落ちた。かわいそうに。
「妖精さんの国ではね、ご馳走が無限に湧き出てきてお腹いっぱいになるまで沢山食べられるんだ! すごいだろう?!」
目も当てられない様子のお父さまとお母さまには目もくれず、目を輝かせて語るエドワールお兄さま。
そんな設定を教えた覚えはないが……まさか、自分でついた嘘を信じ込んでしまったのか……?! こわ。
「と、とにかく……今日はエドワールお兄さまをお休みさせてあげた方が良いのではないでしょうか……? す、すごく疲れているみたいですし……」
すると、ジルベールお兄さまが肩を落とす二人に向かってそう提案する。
「――ああ、そうだな。お前の言うことにしては名案だなジル」
「アルの誘拐の件と言い、最近は大変なことばかりで……心臓がもたないわ……っ!」
「……………………」
現状、ジルベールお兄さまが三兄弟の仲では一番頼りにされていない。かわいそうに。
「あれ、妖精さんの国のお話はもういいのかい? これから面白くなるんだけどな」
「……もうやめろエド。何も話すな」
お父さまの言う通り、あまり長いこと話をさせるとボロが出そうだ。
「今日はもう休んでください、エドワールお兄さま……」
俺は、さり気なくそう指示を出す。
「ああ、分かった! そうするよアル! 俺の部屋は変わらず残っているのかい?」
「……ええ。あなたがいつ帰ってきてもいいように、メイドに毎日掃除をさせているわ」
そう答えたのはお母さまだ。ずっと、エドワールお兄さまの帰還を信じて待っていたからな!
「なるほど! ではお休みさせてもらうとしよう!」
エドワールお兄さまはそう言って立ち上がると、高速で退室した。そういえば、監禁中はいつもこの時間にお昼寝をしていたな。もしかしたら眠かったのかもしれない。
とにかく、俺が犯人のエドワールお兄さま失踪事件はこれにて一件落着だぜ!
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