第11話 貴様はマイナス100アルベールポイントだ
応接間に到着すると、無駄に身だしなみを整えさせられ、無駄に待たされた。
どうやら、許嫁の到着が遅れているらしい。
この俺から貴重な時間を奪うとは……許せんな。
マイナス100アルベールポイント。死んで詫びろ。
「何かあったのかなぁ……? 心配だね」
暇を持て余した俺は、近くに控えていたメイドにそう話しかける。
「お優しいアルベール様が素敵過ぎてそれどころではございません!」
「あはは……そっか」
しかし、まるで会話にならなかった。
最近、メイドどもの挙動がおかしい。俺の可愛さに当てられて狂ったか……?
そんなことを考えつつ、いつまで経っても来ない許嫁とやらに対する憎悪を膨らませていると、突如として部屋の扉が開かれた。
「フン!」
「は…………?」
何事かと扉の方へ目をやると、そこには俺と同い年くらいの少女が立っていた。
真っ赤な瞳に、奇抜な赤紫色の髪を二つに結んだ少女である。
いかにもゲームキャラっぽい、ふざけたカラーリングのガキだ。
認めたくない事実だが、こいつこそが俺の許嫁である。
名前はドロテーヌ・ヴェルア。血気盛んで剣術が得意な、高飛車クソお嬢様だ。
ヴェルア家は優秀な騎士や剣士を数多く輩出している、武人の家系である。
そこの次女であるドロテーヌは、原作だと王国側に付いた際の味方キャラとして登場するキャラだ。
見ての通り傲慢で、腐り切ったゴミを更に十年ほど熟成させたかのような性格(※言い過ぎ)をしているが、主人公のアレクに一目惚れしてデレデレになるので、プレイヤーからの人気はそこそこあったと記憶している。よく分からんがムカつくので死刑。
そんなドロテーヌが、応接間に飛び込んで来て俺の姿を見るなりこう言った。
「あんたがアルベール・クローズ?」
「ええと、どちら様ですか?」
「先にあたしの質問に答えなさいよ!」
「……そうですよね。失礼しました。――貴女の言う通り、僕がアルベール・クローズです」
「ふぅん」
クソガキ――もといドロテーヌは俺の側へと歩み寄り、じろじろと顔を眺め回して来る。
一応断っておくが、俺は見せ物ではない。
不愉快な気持ちになったその時。
「あたし、あんたみたいな奴との結婚なんて認めないわ! だって弱そうだし!」
ドロテーヌが俺に向かって、きっぱりとそう言い放った。
「……あはは、やっと分かったよ。君がドロテーヌだね? 来るのが遅かったから心配してたんだ」
対して、俺は微笑みながら答える。
――この人格破綻者が。貴様の処遇はたった今決定した。
「無事に着いたみたいで良かった」
俺が心にもない事を言いながらドロテーヌへにじり寄ったその時、彼女の父親と思しき男が部屋の中へ駆け込んでくる。かなり慌てた様子だ。
「こら、ドロテ! 勝手にうろつくのは辞めなさい!」
男は、ドロテーヌの姿を見るなり威厳の無い声で叱りつけた。
「話が長いから飽きたの!」
対して、少しも反省していない様子のガキ。
なるほど、こんな叱り方をされているから、このメスザル――もといドロテーヌはつけ上がるんだな。
では、後ほど俺が正しい教育を施してやろう。
「すまないねアルベール君。娘がいきなりとんでもない事を……」
「いいえ、元気なのは良いことだと思います。素敵なお嬢さんですね」
「君を見ていると、ドロテと同い年だなんてとても思えないなぁ……」
人間としてのレベルが違うからな。
「なんなら、ドロテの方が君より早く生まれているというのに……」
「ところであなたは……」
分かり切っている事だが、一応まだ自己紹介をされていないので、そう問いかけた。
「ああ、そうだったね。まだ私の事を話していなかった」
ひと息置いて、そいつは続ける。
「私はエリゼ――ドロテーヌの母親だよ」
「え」
父親ではなく母親だと? こいつは何を言っているんだ? 娘に振り回され過ぎておかしくなったのか?
俺のそんな疑問に答えるように、エリゼは言った。
「ヴェルア家のしきたりでね、家を継ぐ者は、誰であろうとこういう格好をする決まりになっているんだ」
「なるほど」
そういえば、そんな設定があったかもしれない。
ドロテーヌの姉は確か、男装の麗人キャラだったな。
納得である。
「ちょっとママ! 何で勝手に二人で仲良くなってんのよ! あたしの事は無視するわけ?!」
「ドロテ。お前がそんな風だからだろう? アルベール君はとても良い子じゃないか。どこに不満があるって言うんだい?」
「弱そう!」
「彼は魔術の天才だ。弱いわけがないだろう」
「あと、なんか目が笑ってなくて不気味!」
「こら! おかしなことを言うんじゃない!」
「やだやだやだやだ絶対にやだッ!」
この期に及んで駄々を捏ねまくるドロテーヌ。
あれでは躾けられていない野生の猿だな。お嬢さまなのに。
全くもって笑えるぜ。バナナとか好きそう。
「も、申し訳ございません、グレゴワール殿。娘がとんだ失礼を……!」
その時、エリゼがいつの間にか部屋に入って来ていたお父さまに向かって謝罪する。
「いいえ、お気になさらずに。とても元気で素敵なご息女ではありませんか」
驚いた。お父様は外面だけは良いんだな。原作にはキャラとして出てこないから初めて知ったぜ。
「アルベール君すまないね……」
この流れに乗じて、俺もいい子ぶっておこう。
「いいえ。僕がまだまだ未熟者であることは事実ですから。これから、ドロテーヌに相応しい婚約者になれるよう、精進したいと思います」
「アルベール君……! 君はなんて立派なんだ……っ!」
人間としてのレベルが違うからな(二回目)。
「どうだろう。いっそ私と婚約を――」
エリゼが何か言いかけたその時、部屋の隅に控えていたメイドが小さく咳払いをする。
「何か言いましたかね? エリゼ殿」
「い、いいえ、グレゴワール殿。何でもございません……」
しかし、この様子だと婚約の話は無かった事になりそうだな。
時間を無駄に浪費した気分だぜ。誰かに八つ当たりしないと気が済まない。
そう思っていると、ドロテーヌがいつの間にか俺の目の前に立っていた。
何やら激怒しているらしく、今にも憤死しそうである。もう少し煽れば面白いものが見れそうだ。
「どうしたのドロテーヌ? お顔が真っ赤だよw?」
「あ、あんたとは結婚しないって言ってんでしょッ! バカッ!」
「ごふっ!」
刹那、ドロテーヌは俺を突き飛ばして走り去った。
「何てことするんだッ! ま、待ちなさいッ!」
真っ青な顔で叫ぶエリゼ。
「…………あはは」
笑いながらゆっくりと起き上がる俺。
「僕……ドロテーヌを探してきます」
「い、いいんだアルベール君。悪いのはあの子なんだから」
「いいえ。何か気に障るようなことをしちゃったのなら、謝らないといけません!」
俺はそう言って、応接間を飛び出した。
――良かったなガストン。下僕仲間が増えるぞ。
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