第10話 許嫁が勝手に決められたらしい
エドワールお兄さまが俺の手によって行方不明となり、愉快な座敷牢暮らしを始めてから三年が経った。
つまり、俺とリーズが十歳になったのである。これで、堂々と魔法を使用できるな!
他の有象無象どもよりも三年早く魔法の訓練を開始している俺は、『鑑定の儀』でもめちゃくちゃ無双した。
天才と持て囃され、魔法学院へ飛び級で入学させようだとかいう話がお父さまに持ちかけられているほどだ。ズルをしてちやほやされるのは気分が良いぜ。
ちなみに、リーズは注目されるのが嫌らしく、わざと手を抜いたのでぜんぜんちやほやされなかった。おかしな奴だ。クローズ家に引き取られた養女というだけで、嫌でも目立つのに。
それと、十歳になってからは限界まで魔法を使っても、思考力が物凄く落ちてバカになるだけで気絶しなくなった。
第二次性徴期を迎えていない子供の体には、魔法の負担が大き過ぎるのだろう。早期に魔法の訓練を開始するのは、結構危ないのだと学んだ。
お互い無事で良かったな。リーズ。
「ふわぁー……むにゃ、むにゃ……」
そんなこんなで、鑑定の儀で沢山ちやほやされた俺は、上機嫌で日々を過ごしていた。
しかし――
「あ、あああアルっ! 起きてっ、アルっ!」
早朝、俺は部屋に飛び込んできたリーズに叩き起こされて目を覚ます。
まったく、騒々しいぜ。
「うん…………?」
眠い目を擦ってリーズの方を見ると、かなり慌てている様子だった。
「どうしたの……?」
俺はベッドから起き上がりながら、リーズに問いかける。
「い、いいなづけってなに?! どういうことっ?!」
――ああ。
そういえば、今日は俺の許嫁とやらが会いに来る日だったな。
鑑定の儀で無双し過ぎたせいで、俺は結婚を申し込まれまくったらしい。
その中で、お父さまとお母さまが良さそうな血統の相手を勝手にチョイスし、勝手に俺の許嫁が決定されたのである。勝手に。
要するに、望まぬ結婚というヤツだな。知らんけど。
「あれ、なんで知ってるの?」
「さ、さっきメイドさんが話してたのっ! アルの許嫁がどうのこうのってっ!」
「盗み聞きは良くないな、リーズ」
「で、でもっ!」
「……僕に聞かれても分からないよ。許嫁が居たことだって、
そもそも、原作の俺に許嫁など居ない。
既にゲーム本編とはだいぶ展開がズレてしまっているが、その方が確定で死亡する俺の生存率が上がりそうなので、良しとしよう。どう足掻いても死ぬのであれば、新しいルートを強引に開拓すれば良いのだ。
俺がそんなことを考えていると、リーズが悲しそうな顔をしながら問いかけてきた。
「知らない人と結婚するなんて……アルはそれで良いの……?」
「それは……」
俺は下を向く。
――もちろん、どうでもいい! 相手がどんな化け物であろうと、最終的には従順な下僕に仕立て上げるだけだからな! いつでも
俺はそう答えたい気持ちを抑え込み、言った。
「……仕方のないことだよ、リーズ。僕が我儘を言ったって、どうにもならないんだ」
「わ、我儘なんかじゃないもん……! アルは何も我慢しなくたって良いんだよ!」
「でも、会ってみたら良い人かもしれないし。……どうするか考えるのは、それからでも遅くないと思う……よ」
「…………うぅ」
リーズは、俺の言葉にどこか納得していない様子だ。
しかし、この件に関しては貴様が首を突っ込むことではない。
「僕も、できる事ならリーズみたいに
「あ、あるぅ……!」
「でも、僕たちはもう家族なんだから、結婚する必要なんてどこにもないか! あはは!」
「…………」
俺の言葉に対し、リーズは黙り込んで俯く。
「どうかしたの?」
「う、ううん。なんでもない。そう……だよね。アルとわたしはもう家族だもんね!」
まるで自分へそう言い聞かせるように、リーズは言った。
「もし、嫌な子だったらちゃんと断らないとだめだよ! よく考えてねアルっ!」
それから、おかしなことを言い残して高速で部屋を後にするのだった。
……やれやれ。どうやら、お兄ちゃんがとられるんじゃないかと心配で、許嫁に嫉妬しているようだな。こわー。
だがまあ、事情は理解してくれたようだし、放置しておいても問題ないだろう。
「……ガストン」
一人になった俺は、誰もいない自室に向かってそう呼びかける。
「はい、何でゲスか?」
すると、窓から音もなくガストンが入ってきて、俺の前で着地する。
「おそらく俺は今日一日、手が離せない。リーズが暴走して余計なことをしないよう、見張っていろ」
「任せるでゲス!」
「何事もなければ、貴様が日夜お母様やメイド達の下着を盗み出して、何やらコソコソとやっていることは黙っておいてやる」
「が、ががが俄然やる気が湧いたでゲス!」
「社会的に死にたくなければ死ぬ気で働け」
「はいでゲスううううう!」
ガストンはそう返事をすると、高速で窓から退室した。
下僕の趣味嗜好にとやかく言うつもりはないが、危ない奴だ。やはり、近いうちに始末しておくべきかもしれない。
そう思っていると、不意に部屋の扉がノックされる。
「どうしたの?」
「アルベール様。ご主人様がお呼びです」
メイドの声がした。どうやら、時間が来たらしい。
「うん分かった、すぐ行くよ。――いつもありがとう! 素敵なメイドさん!(すごく可愛いキメ声)」
「い、いえ! そんな、もったいないお言葉ですぅっ!」
メイドに媚を売る日課をこなした俺は、悠々と自室を後にし、お父様の待つ応接間へと向かうのだった。
――関係のない話だが、そういえば今年は絶賛監禁中のエドワールお兄様が、暗殺される年だ。何事も無ければいいのだが。
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