第13話 くっ……殺せ!
「恐らく集落は、彼らの反対側ですねぇ」
彼女たちが森を進んでいくと、鬱蒼とした森の中に小隊を発見した。
標的は4体で一塊になっており、彼女らに背中を向けて山菜を採取している。
「では、私は向こう側に回ろうか。援護は頼んだぞ」
「風下を通るなら右回りです。ご武運を」
彼女たちは発見されないように姿を隠し、極力音を立てないように進むと、途中からはハンドサインを挟みながら奇襲の準備を始めた。
姿が見えなくなってからは、互いの行動を予測して連携することになる。
しかし今回は取り立てて急斜面ということはなく、遮蔽物にも困らなかったため、隠密行動を取りながら動きを合わせるのは難しくない。
ミリティアの配置が終わった頃を見計らって、ドミナとスペルビアは茂みから身を起こした。
「いきますよ、それっ!」
「えいやっ!」
後衛組が槍を放り投げると、まずは2匹のオークの腹部に命中したが、残る2匹は奇襲に気付くや否や、慌てて立ち上がり全速力で逃げ出した。
仲間が待つ集落に駆け込むことは予想通りのため、獣道の先にいたミリティアは、待っていましたとばかりに大身槍を構える。
「追い込み漁だな。さて、やるとするか」
ミリティアが魔力を充填しながら中段に構えると、進行方向上にいた彼女にターゲットが向いた。
先頭のオークが襲い掛かり、その間に後続を逃がすという連携を見せたが、それを読んだミリティアの行動はごく単純だ。
一突一殺で、即座に両方を仕留める。考えはこれだけだ。
一撃目は穂先で胸を突き、死に物狂いの敵が覆い被さってくる前に、ステップを踏んで横に移動。脇を抜けようとする後続にも突きをお見舞いする。
すぐさまその算段を終わらせると、彼女は槍を
「せいやっ、はぁっ!」
正確無比な槍は、駆け寄って来る個体の胸を一突きにして、致命傷を与えた。
素早く繰り出された二連撃目も、思い描いたイメージと寸分違わずに命中して、胸を串刺しにされた片割れは立ったまま絶命することになった。
ゆっくりと倒れる豚の怪物を前にして、ミリティアは事もなげに呟く。
「この程度の相手なら、どうということもないか」
オークは成人男性の倍はあろうかという体格なので、通常であればストッピングパワーが足りず、槍を突き刺しても敵の動きが止まらない。
そのため走り寄る巨体に跳ね飛ばされるか、刺さった槍が
巨体を相手にしても力負けすることはなく、刺さった得物が敵の身体から抜けないこともなく、ましてや槍が破損することもなく、あっさりと待ち伏せは成功した。
「そちらはどうだ?」
「トドメを刺しました」
「同じく、仕留めました」
「予定調和が過ぎてつまらないが、上出来だな」
手応えのなさに不満げな顔をしながらも、初戦が上手くいったことには違いない。
休憩して体力と魔力を回復させてから、彼女らは次の奇襲に移った。
その後も2つのグループを撃破したが、特段の問題はなく淡々と仕事をこなしただけだ。
いよいよミリティアが不満気になってきたと察したドミナは、機は熟したと見て彼女が好みそうな号令を掛ける。
「それなりに削れた頃なので、そろそろ討ち入りましょうか」
「いいぞ、そういうのを待っていた」
一転して爛々と目を輝かせたミリティアに呆れつつ、ドミナは続ける。
「集落を襲われた場合は、相手を見て対応を決める習性があるそうです」
「我々が少数かつ女なところを見ると、襲ってくる可能性が高いですね」
「ええ、ですから全員返り討ちにして、殲滅しましょう」
にっこりと笑いながら物騒なことを言うドミナだが、魔物と人間は不倶戴天の敵だ。
社会道徳的に正義とされる仕事なのだから、彼女に躊躇はなかった。
「さて、眼下に見えますのが敵の本拠地ですが、残るは20ほどですね」
窪地に竪穴住居のような簡易建築が立ち並んでいるが、この巣から追い散らすか、数体仕留めれば完了となる任務だ。
むしろ既に12体を仕留めているので、最低限は達成している。
3人がかりでは手が足りないため、完全に絶滅させることはできず、その気もないが、でき得る限りで倒していく方針となった。
「私は北側の討ち漏らしを担当するので、スペルビアさんは南側をお願いします」
「承知しました。ミリティア様はどうなされますか?」
「ティアちゃんは正面突破です」
「分かりやすくていいな」
姫様は東側の斜面を駆け下りて、単騎特攻。
それだけ決めて、彼女たちは行動を開始した。
「早速いくぞ――うぉらぁああああ!!」
配置が完了したと見るや、槍を掲げたミリティアは、姫らしからぬ雄叫びを上げながら突っ込んだ。
オークたちは散発的な迎撃に出てきたが、そこからはワンサイド・ゲームだ。
「弱いッ! どうした、もっと打ち掛かってこい!!」
集落のど真ん中に乱入した彼女は、大立ち回りをしながらも、二の槍要らずで一撃必殺の技を披露していた。
囲まれると槍は弱いため、連続した一対一を瞬時に終わらせていき、二対一以上の状況になる時間をごく短時間に収めながら彼女は駆ける。
「戦え! どうした外敵だぞ、ほら、闘え!」
味方を次々と薙ぎ倒す化け物が出てきた時、野生の生物はどうするか。当然逃げる。
オークにも社会性はあり、仲間同士で連携する知能もあるため、彼らは即座に捨て石になる人員と、逃げる人員を切り分けた。
「一丸となって
やってくるのは死兵だが、突然死の恐怖に晒されたのだから士気は非常に低い。
どのオークも腰が引けており、戦闘部隊に送られたはいいものの、本音を言えば逃げたいと思いながら、やけくそで突っ込んできていた。
「そらそらどうした、もっと腰を据えて掛かってこい! 敵はここだ!」
おっかなびっくり手を出して、ミリティアから反撃を食らいそうになれば
しかし集落の南北からも戦闘音が響いているのだ。囲まれたと察して、粗末な武器を投げ捨てた最初の1匹を皮切りに――総崩れが起こった。
「敵に背を向ける気か!? くっ……殺せ! 殺しに来い!!」
頑丈さで知られるオークの皮膚をバターのように突き裂いていく、こんな
対峙すれば一方的な虐殺が待っていると見て、彼らは散開して逃げ出していった。
「逃げるな、おい! 戻ってこないか!」
背水の陣で挑んできた敵との、血沸き肉躍る戦いを想像していたミリティアは、誰も相手にしてくれないところを見て地団太を踏んでいた。
状況が終了して駆け付けたスペルビアは、その様を茫然と見つめながら、遅れてやって来たドミナに恐る恐る聞く。
「あの、どうやら打ち止めのようですが、姫様は……」
「放っておきましょう。まずは集落を探して、捕らわれた人がいないか探してください」
「ええと、はい、分かりました」
肩透かしを食らったミリティアは、怒りと悲しみが入り混じった複雑な心境のまま、遠方に逃げた一部の個体を見送る。
集落の壊滅と、28体の討伐という大戦果を挙げたため、任務は十分過ぎるほど完了したものの――消化不良に終わったミリティアは、その後3日間を不機嫌なまま過ごすことになった。
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