第12話 初陣
「おはようございます」
「ええ、おはようございます」
週末になり、ドミナが待ち合わせ場所に着くと、既にスペルビアが待っていた。
普段と違いスペルビアは髪をポニーテールにしており、ドミナは後ろで一本にまとめている。装備について総括すれば、どちらもスタンダードで動きやすい格好だ。
両者共に似たような皮鎧を着用しているため、違いと言えば得物のみだった。
「ティアちゃんはまだみたいですね」
「そのようです」
あれだけやる気に満ちていたのだ。身分としては最後に登場するのが当然だが、真っ先に来て待機しているくらいだと思っていた。
そのため二人は意外に思っているが、ほどなくしてミリティアも姿を見せる。
「待たせたな。さあ、冒険に出発だ!」
「アウト」
真顔で否定したドミナを前にして、ミリティアは首を傾げた。
しかしスペルビアも絶句しているところを見て、ミリティアはどうしたことかと馬から降りる。
「アウトとは、何のことだろう?」
「どうして重騎兵装備なんですか」
ミリティアはフルプレートメイルにチャージランスという、戦争に向かうような格好で現れた。
騎乗するのも黒き巨体の名馬であり、戦闘用に調教された至高の
よく訓練された軍馬による騎乗突進であれば、オークなど一瞬で蹴散らせる。
その考えを基にしたミリティアとしては、ベストな選択をしたつもりだった。
「オークと言えば野戦だろうに」
「確かに、そうですけども」
彼女がその気になれば、集落の一つや二つは攻め落とすだろう。平野で接敵すれば、無傷で一方的に追い回せることも想像に難くない。
「さあ、オークどもを殲滅しに行くぞ!」
だが、ガチ過ぎるというのが他2人の率直な感想だ。
ドミナとスペルビアは、ミリティアの熱量を見誤っていた。
「あの……今回想定される戦場は、森林地帯なので」
「全力強化で突き進めば、枝葉など粉砕できるが?」
力で全て薙ぎ倒すので、山であろうと森であろうと騎馬でOK。
それがミリティアの認識だが、一般的にはあり得ない選択だ。
「私たちがついていけません」
「そうですね。すぐに脱落しそうです」
「仕方がないな……じゃあ、歩兵用の装備に着替えてくるか」
城に帰っていくミリティアを見送るドミナとスペルビアは、揃って疲れた顔をしていた。
「さて、支給品は従者から門衛に預けさせておきました。早速受領しましょう」
「そうですね、ただ待っているのも何ですし」
今回の任務ではオークの相手よりも、姫様を御する方が大変かもしれない。そんな共通見解を抱きつつ、彼女らはミリティアの到着を待った。
◇
「では、おさらいです」
西に延びる街道を歩きながら、ドミナは世間話がてらに切り出した。
内容は今回の標的に関する特徴だ。
「オークは20匹から30匹程度の集落を作ることが多く、基本的には団体行動をしています。狩りに出かける際も4匹1組ほどで行動しますが、そこが狙い目ですね」
基本的な内容だが、実戦経験が不足気味なことを勘案すれば大事な確認だ。
「狩りに出ている班を狙い打ちにして、数を減らしてから攻め入るのが常道か」
「ええ、だからサブウエポンの使い方が重要です」
ドミナは各自の槍に加えて、1人につき2本の投げ槍を事前に用意してある。これは通常の素槍よりも更に短く、ドミナが持つ片手槍と同程度の大きさをしたものだ。
「基本的には私とスペルビアさんが、後方から援護しますから」
「二人が投げている横を、私が突入する形か」
「そうです。その後はお好きに」
補助役の二人が不意打ちを仕掛けて、ミリティアが突っ込む布陣となる。お望み通りの接待狩猟が待っていると見て、姫は口の端を吊り上げた。
スペルビアとしても戦法に異議はないが、念のためにその後の動きも確認した。
「では我々は、初撃の後は討ち漏らしの処理をすればよろしいですか?」
「ええ、逃げる個体がいれば優先的に狙いましょう」
人里近くに集落を作るオークは、警戒心が強い傾向にある。そのため戦闘行動を取らず、即座に逃げ出す可能性も高かった。
この点で、逃げ帰った個体が増援を呼ぶか、守りを固められると厄介なことになるため、見敵必殺で確実に仕留めていくのが今回の目標だ。
「うむ、大体決まったな」
要するに自分は、目の前にいる敵を屠るだけでいい。行動をシンプルに捉えたミリティアは、前方に見えてきた森を見渡しながら肩を回した。
「まあ、肩慣らしにはちょうどいい任務だ。気楽にいこう」
「そうですね、油断だけはしないように」
「心得ました」
お目付け役なしでの実戦は、彼女らにとって初めてのことだ。
初陣だけあり、高い士気を維持したまま、森林地帯に入っていった。
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