第11話 活動開始
交流戦から2週間が経ち、週に5回の稽古がルーティーンとなった頃。
当然のように新規が来ないところを見て、ミリティアは溜息を零した。
「宣伝効果は無かったか……」
「知名度が上がることと、入りたいと思う人が増えることは別ですから」
「さりとて維持のためには、あと一人ですね」
放課後にお茶をする習慣も変わらずだが、スペルビアが加入してからもドミナが淹れている。
公爵令嬢が淹れた美味しい紅茶を飲みながら、夕日を見送るのも日常になりつつあった。
「ああ、リーチであることは違いない。焦らず地道にいこう」
「そうですねぇ。では、そろそろ課外活動でもしましょうか」
スペルビアも馴染んできた頃であり、部としての活動は順調だ。
そろそろかと思い、ドミナの方でも用意は整えていた。
部員を集めることばかり考えずに、実績を残す方向でも動かねばならないと、彼女は備え付けの黒板に書類を貼り付ける。
「我々が実家から出された課題には、自立と社会貢献も入っていますからね。どうですこの辺りで、魔物の討伐にでも」
魔物の被害を減らすために、都市部の近くでは頻繁に間引きが行われている。
魔物が増加傾向にある時期は、注意喚起がてらに討伐依頼が回り、それは学内の掲示板にも一部掲載されていた。
「最近ではゴブリンとオークが増えているそうなので、このどちらかですね」
「オークかな。流石にゴブリンを狩って功績稼ぎはどうかと思う」
「姫様に同じです」
ゴブリンとは低身の魔物ありで、緑色の身体をした、群れで行動する人型の敵だ。一定以上の実力を持つ者であれば無傷で蹴散らせるため、移動と索敵の方が疲れる程度の相手となる。
一方でオークとは、豚を巨大化させて二足歩行にしたような魔物だ。成人男性でも力負けするパワーがあり、それなりの危険度を持つため、こちらは中級者が好んで狙う対象となる。
「難度としては手頃ですし、これにしましょうか」
「そうしよう。│
「姫様に、そのような汚れ仕事をさせるわけには……」
「騎士になれば嫌でもやることさ」
屠畜は身分が低い者がやること。という風潮はあるが、ミリティアにとっては必修科目だった。
オークには可食部が多く、野外行軍をする騎士団が食料の現地調達をする際に、捌いて食べることが多い。
解体作業は従軍する際に必須なので、当然のこと彼女も履修済みだ。
「こうした練習も後々に生きるはずだからな。任せてくれ」
「承知しました」
課外活動でオークを狩り、実家から課された貢献という指示をクリアする。ミリティアとドミナはその目的で動くが、この点ではスペルビアにも利益があることだった。
「ビアちゃんは一人暮らしをしたいのだったな。今のうちに貯めておくといい」
「その呼び方は……まあいいとして、そうですね。稼がせていただきます」
討伐すれば当然のこと、報酬が出る。姫君からすると微々たる額だが、中堅貴族の令嬢であるスペルビアからすると、お小遣いには助かる程度の額だ。
その辺りを考慮しても、身の危険がそれほど無く、そこそこの稼ぎになるオークは、彼女たちからすると格好の獲物だった。
「では土曜は正門前に、朝一番の鐘が鳴る頃に集合しようか」
暫くお預けを食らっていたミリティアは、実戦を前にして目を輝かせていた。
その様を見たドミナは、手綱を握るために釘を刺しておく。
「楽しみで寝られないとか、そういうのはやめてくださいね」
「もう子どもじゃないんだが……」
ドミナからの小言に苦笑しながらも、ミリティアは週末の予定をまとめた。今回は日帰りで、王都近くの森を探索するコースだ。
主な目標はオークの討伐で、敵影が見当たらなければ他の目標に切り替えていくという、軽めの散策に近い予定となった。
「なら今週の残り時間は、実戦向きの訓練でもするか」
「いいですね。基礎鍛錬ばかりだったので、少し身体を動かしておきましょう」
「役割分担はどういたしますか?」
通常であれば前衛や後衛の役割を決めるが、彼女たちは槍士兼、魔法使いが3人という構成だ。
全員が一通りの技能を習得済みであり、どのポジションでも問題ないという集団だった。
「メインアタッカーは私が担当しよう」
「では、私は補助で」
「それでしたら私は……サブアタッカーでしょうか?」
破壊力に自信のあるミリティアが最前線を担い、器用なスペルビアが脇を固める。そして一歩下がった位置にドミナを置き、全体を補助する役割となった。
何事も無く分担が決まると、ミリティアは満足そうに頷く。
「姫プレイというやつだな。楽しませてもらおう」
お姫様の如く一人を守り、他の面子が下僕のように、最前線で戦うような陣形を取ること。
後ろで見ていたお姫様役が、分け前を多めに持っていくこと。
このようなスタイルは姫プレイと呼ばれる、言わば接待だ。しかしミリティアにとっては言葉の意味が異なる。
要は自由で快適な戦闘ができるように、他の2人がサポートをしてくれるというのだ。
自分が最前線で、接敵する回数が一番になろうとも、彼女にとっては姫プレイとなる。
「さて、ではその隊列で合わせてみよう。明日から特訓だ」
「ほどほどにしましょうね」
「何を言う。実戦の前なのだから、激し目にやるぞ」
騎士を志しているのだから、ミリティアとしては常在戦場の心構えでいた。
しかし入学して以降、模擬戦以上のことは何もしていない。
久方ぶりにやってきた実戦を前にして、彼女は燃えていた。
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