第4話 結果、それは呆然

「と意気込んだものの、アイツ相手に

 どうするか......」

 目の前には遠くからどんどんこちらへ

近づいてくるファイアドレイク。

 刻一刻とやって来る死という恐怖に、

私は焦っていた。

「あんたのスキルでどうにかならないの?」

「分からん。俺も冷酷な破壊者リミテッド・デリーターは相当力を

 調節して使った事しかない。

 だが、アレ相手にはそんな調節なんざ

 してたら一発でお陀仏だ。

 使わなくても、そんな気がしてくるぜ。

 ならフルパワーを出すしかねェ。

 それでこの身体がボロボロに

 なってもいいさ。」

「私も出来る限りの

 サポートは尽くすつもり。」

「そりゃ当然だろうよ。

 さて、もう話す暇なんか無さそうだぜ?」

 獲物を喰らえるという喜びからか、

あいつは洞窟が崩れんばかりの咆哮を

発する。

 その大きさは、3メートルくらいと

いったほどで、目の前にすると

本当に恐ろしい。

 「スキル! 冷酷な破壊者リミテッド・デリーター!」

 やつの咆哮と同時にマギが

スキルを発動させる。

マギの周りから、目に見えるくらいの

青いオーラが放たれて人が変わったように、

「フウゥゥゥ......」

 普通のマギや大剣使いブレードユーザーでは

しない構えを取る。

幾度となくこのスキルを見てきたが、

この構えは私でも見たことがない。

これがフルパワーの力なのかと、

積もる焦りの中で関心を覚えた。

 そのままマギはファイアドレイクに

剣を振るう。やはりAランク、スキルを

フルパワーで使っているはずなのに互角、

いやこちらの方が不利だった。

「頑張って! 俊足ブースト!」

負けじと私もマギに能力強化魔法バフを送る。

元々回復魔法が使えない私は、豊富な

能力強化魔法バフを売りに回復役ヒーラーをしている。

 掛けられる能力強化魔法バフにも

限界があるし、やりすぎるとマギにも

私にも相当な負担がかかる。

しかし、今はやれる事をやるしかない。

そう思った時、

「グッ、カハッ......」

「だ、大丈夫!?」

 早くも限界が来てしまった。

あの力をフルパワーで長いこと使うのは、

やっぱり難しかったんだろう。

そのまま前にマギが倒れ込む。

 もう、ダメだ。

私たちは、ここで死ぬんだ。

「マリ......カ......早く......逃げろ......!」

「は、はぁ!? 何言ってるの!?

 私が一人で逃げたら、

 あんたが死んじゃうじゃない!」

「力......使い果たしちまったんだわ......

 俺はもう、動けねぇ。

 足手まといに......なるだけだ。」

「だからってねぇ!」

 何を言っているんだ、こいつは。


どうしてそこまでして私を守ろうとする?


そんな、そんなこと、言われたら......


そう思った時には、もう脚が先に

動いていた。

「何を......!?」

「あんたを......傷ついてる人を見捨てる

 ってのが、癪なだけ。」

 人を守ることこそが回復役ヒーラーの務め。

 でも、守る方法は回復魔法だけじゃない。

 回復役ヒーラーだから回復魔法が得意ってだけで

攻撃魔法も使えないことはない。

 簡単な攻撃魔法なら、回復役ヒーラーでも放てる。

 その内の一つ、氷のつぶてを

生成して飛ばす魔法。

 あの魔法を回復役ヒーラーが放っても

焼け石に水だってことはわかっているし、

やった事があるはずないからそもそも

成功するかすらも分からない。

 じゃあ諦めるか?

 答えはとうに、私の中にある。

結氷爛漫リーズブート!」

 諦める訳、ないでしょう。

 唱えた瞬間、ファイアドレイクが

炎を吐こうとするのが見えた。

 私は、死んじゃうのかな。

 もし死ぬんだとしたら、お兄ちゃんの所に

行きたいな。

 頭の中に走馬灯が駆け巡る。

 実力不足。それで納得して、私は

死を覚悟した。


「..................あれ?」

 死の手前、走馬灯のクライマックスまで

鑑賞し終えた時に、違和感に気付いた。

「え、なんで......?」

 死んでいたのは、私でもマギでもない。

ファイアドレイクだった。

 どれだけの威力だったのだろうか。

 ファイアドレイクの体中に傷が

付いていて、その周辺はとても冷たい。

 あの炎を吐く魔物からは想像が

出来ないくらいに冷えきっている。

 あまりにも圧倒的すぎる。

 最初からこちら側が押していたようにすら

思えるほどに。

 辺りに他の冒険者はいないし、

マギはスキルの反動で戦闘不能。

あいつが自滅する要素でさえ、

一欠片も存在しなかった。

と、いうことは。


「私が、倒したの?」


 

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