第3話 邂逅、それは絶望

「着いたな。何度目かの

 グリーストの洞窟だ。」

「今日はどこまで行くの?」

「うーん、無難に第四階層くらいまでか?」

「了解」

 もう慣れたもので、どんどんと目的の

階層まで歩を進める。

 当然、道中にも魔物はいるのだが、

「おぅるるるぁ!」

「気持ちいいくらいに真っ二つにするわね。

 巨大ネズミたちに同情するわ。」

「そんなこと言うなよ。

 お、折れてる。ルリカ、ほらっ。」

「うえぇ汚い......これだけは慣れない

 のよねぇ......」

「巨大ネズミの牙は貴重な換金アイテム

 だからな。気味悪がっても

 仕方ないだろ? ここで使う必要は

 ないが、俺のスキルで効率良く魔物共を

 ぶっ飛ばせるんだ。それでいっぱい

 こんなのが出たら、どうするんだ?」

「うぅぅ......その時はあんたの

 存在を恨むわ......」

「なんでだよ!?」

 人は生まれながらにして

スキルと呼ばれる不思議な力を持っている。

 マギの持つスキルは『冷酷な破壊者リミテッド・デリーター』。

 一時的に強大な力を得ることが出来る

スキルで、普段滅多に使っていない。

 仮に使っても力は相当抑えていると思う。

使ったあとはしばらく動けなくなる。

だから、その動けない彼を守る人が必要。

まぁ、こことかに限っては使う必要無いし

要らないけどね。

 普通、スキルは一人一つある。

稀に二つ持つ人もいるらしい。

 スキルを二つ持つ、たったそれだけで

この世界で評価される。

 スキルだけじゃなく、魔法も併せ持って

こそランクの高い冒険者と認められる。

 魔法はともかく、スキルは先天的なもの。

 半分運で強さが決まるなんて、理不尽だと

思う。

 私のスキルは「祝福の願いワンダー・チュート」。

 願った対象を癒す、ってだけのスキル。

 それ、治癒ヒールで良くない? と言われる

位には酷いスキルだった。

 スキルだから連発は出来ないし、

そもそも癒せる範囲にも限界がある。

 ただ、私はまだこのスキルに感謝を

している方だと思う。

 いけないいけない、今はダンジョン探索に

集中しないと。

「それより、ここってこんなに静かで

 過疎ってたか?」

「......言われてみれば、そうね。

 いつもはもっと冒険者が

 いるはずなんだけど。」

 グリーストの洞窟はギルドの街、

プリメラタウンからとても近く、

ある程度の冒険者で埋まる。

 だから、魔物の取り合いも始まるし

注目ヘイトを集めないと一瞬で

獲物が奪われることがたまにあるくらいには

治安が悪かったのだが、確かに妙だ。

 冒険者が私たち以外には見当たらず、

その量に比べ魔物も少ない。

 何か、嫌な予感がする。

その時だった。

 洞窟の奥の奥の方、ここからでは暗くて

何も見えないはずのところが紅く光った。

と同時に、何かを燃やしたかのような臭いが私の鼻を突いた。 

 逃げなきゃ。

 咄嗟にそう判断したはずなのに、

脚はそれに反して動こうとしなかった。

「な、何が起きてるんだ......!?」

 先に口を開いたマギが、悲鳴と驚きが

混じったような声でそう叫ぶ。

「分からない、だけど今すぐここを

 離れなきゃ危ないってことは

 嫌でも分かる......分かるけど......」

 脚が、動かない。

 まるで生まれたての小鹿のように

脚がプルプルと震えているだけだ。

 早くここを離れたい。そう思ってるはず

なのに、それに反して脚は動こうとしない。

「なんで......なんでッッッ......!」

 なんで動かないの。

そう嘆こうとした瞬間だった。

 「それ」が現れてしまったのは。

 紅く輝く牙を持ち、洞窟の中を

一人で埋め尽くすような容貌。

口からは、全てを溶かさんと

言わんばかりに溢れ出る炎。

 前に本で見たことがある。

アイツは、その凶暴性や凶悪性から

別名「地獄の番犬の統率者ケルベロス・ルーラー」と

呼ばれている――

「ファイアドレイクか!?

 普通Aランクくらいのダンジョンにいる

 魔物じゃなかったのかよ......!?」

 こんな低ランクのダンジョンに、

あんな高ランクの魔物が現れるはずがない。

そう信じたかったが、現実は残酷だった。

 私たちを視界に捉えたのだろう、

一直線にこちらへ向かって来ている。

 もう、逃げる時間など、無い。

「戦うしか......ないの?

 あんな......あんな化け物と......?」

 普通の回復役ヒーラーなら味方を

回復しつつ戦うのだが、

私には、回復魔法が使えない。

 私があんなスキルに感謝してる理由。

 それが、回復魔法を使えないという事だ。

 しかし、いくらスキルで癒せるとはいえ

回復魔法無しにあれに立ち向かうのは、

あまりにも愚かで、無謀。

 でも、もう選択の時間はない。

「......死ぬ気で行くぞ。」

 マギも同じ考えのようだった。

ならば――やるしかない。

「分かった。行くよ!」




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