第53話 暗根ヤミは、甘く見る。

「状況はどうですか?」


 ヤミはガレンへとポーションを投げ渡し、ツルギのいるであろう箇所に【獣王】で攻撃を加えながら、ツルギに対する発見があったかを聞く。

 魔力を回復させるポーションをキャッチしたガレンは、流し込みながら情報を伝えてくる。


「ぷはっ、再生能力の上限は不明。魔力を見る目と、マジックアイテムの効果がバレる。そんくらいかな?」


「分かりました」


 迷宮から逃げる前と後で、明確に『領域』に至ったヤミに対して、ガレンは事情を聞かずに、覚悟を問うてくる。


「何とか出来る?」

「します」


 その、ヤミの迷いない答えに満足したのか、ガレンは笑って膝を叩いた。


「よし!弟子の挑戦は応援してやる。……作戦あるよね?」

「一応は。だけど、僕たちの頑張りにかかってます」


 土煙の先、絶え間なく撃ち込まれていた弾丸の音が変わる。煙の先に見えていた人影が大きな物に遮られ、その煙は切り払われた。

 炎の魔剣。セキタケツルギの所有するマジックアイテム。ガレンによって吹き飛ばされたはずのソレが、ツルギの手には収まっていた。


 その事実に驚くことはせず、ヤミはガレンの横に立つ。


「僕の攻撃は、彼に。戦う時は──」

「ヤミごと巻き込む気持ちでいくよ?」

「ふふっ、お願いします」


 打てば響く。スキル単独戦闘の弊害も、ヤミのプランも全て理解してくれる。

 以心伝心とも言える仲間がいるという事が、ヤミにはとても頼もしい。


 隣に立つガレンと対になるように、右手【獣王】を後ろに。左手【黒蜂】を前に。


「ツルギさん、僕はあなたを助けたい」

「俺は救ってほしくない」


 互いの静かな宣言の後、3人の姿は掻き消えた。


 魔剣の横なぎ。両手持ちの大剣を片手で扱うツルギの一撃は、必殺の威力を秘めている。

 以前は予測で反応するしかなかった攻撃。ヤミは下を潜り抜け、ガレンは上へと転がるように避ける。

 髪を焦がすように避けたガレンのフルオートは、既に始まっており。ガレンの横回転に合わせて弾丸が斬り下ろすようにばら撒かれる。


 威力の上がりきっていない弾丸をツルギは無視し、下から跳ね上がるように迫るヤミの排除にかかる。

 大剣の間合いよりも近い空間。近距離からの打撃銃撃によるラッシュを狙うヤミに、ツルギは笑う。

 大剣に超近距離の適性が無いのは、取り回しの悪さと自身への危険性ゆえ。

 その不死性から、自分ごと巻き込む攻撃を躊躇なく行えるツルギには、その常識が通じない。


「ヤミ!」


 ガレンの警告を他所に、ヤミはツルギへ【黒蜂】を叩き込む。胴体をほとんど消し飛ばしたが、ツルギの身体は傾く前に再生を終える。


 迫る大剣。ツルギの胴体ごと分断する勢いで戻ってくる大剣に、ヤミは一瞥もくれず反応する。

 背後に向かって【獣王】を構え、厚さ1cmすらない刃に向けて弾丸を放つ。


「【ライトニング】」


 真芯を捉えた一撃は、雷光を纏って大剣を押し戻す。

 一瞬の感電。


「腕!」

「フッ!」


 それを逃すわけはなく。ガレンはナイフを引き抜き、ツルギの腕を斬り飛ばす。

 切り離された腕が癒着する前。コンマ数秒のタイミングを合わせたヤミの蹴りが、大剣を持つツルギの腕を蹴り上げた。


「【獣王】」「【岩穿】」


 向けられる銃口。次の瞬間吹き飛んだツルギの身体は、放たれ続ける弾丸に削がれてゆく。

 後ろに下がり続けるツルギの身体へと、接近し続ける両名ヤミ・ガレンは、互いの隙を突くように、打撃の隙間から打撃を挟み込んで、ツルギへ攻撃を加える。

 肘打ちの隙間に拳を差し込み。その腕を利用して、転がる様に上から下へと蹴り落とす。


 それは共闘とは言えない。互いが互いの体を足場として、時には遮蔽として利用し合って攻めたてる。

 ヤミとガレンの猛攻を、再生能力と体術で防いでいたツルギが、わざと攻撃を喰らって距離を離した。


 逃がさないッ!


 その距離を潰すべく飛び込んでいくヤミに対して、ツルギは冷徹な目を向けた。


「……そろそろだな」

「──ッ!」


 その言葉と共に、ツルギが攻めに転じる。

 誘い込まれていた。ヤミとガレンのタイミングが乱れる瞬間を待って、片方を先に仕留めにきた。


 読みと身体で一撃を凌ぐ!そうすれば、師匠の横槍が間に合うはずだ。


 停止し、迎撃の体勢を取るヤミを、嘲笑うかの様に。

 ツルギはヤミの脇をすり抜けた。


「なっ!?」


 ──その標的は、銃原ガレン。


 自身へ迫る攻撃を警戒していたヤミは、反応が遅れた。ヤミの脇を通り抜け、後方に立ち尽くすガレンへと、ツルギの矛先が向いた。


「流石の最高位も、魔力切れはキツいものがあるだろ」

「師匠!」


 距離を詰める際、ヤミとは異なりガレンは走り出せていなかった。その瞳は虚空を見つめ、意識がハッキリとしていないのが見て取れる。


「俺との初接敵から、常に魔道具を使用していたんだ。むしろここまで持った事に、敬意を表する!」


 項垂れる様な体勢で固まったガレンへと、ツルギの手刀が牙を剥く。

 止められない。ヤミが、訪れる最悪の結果に恐怖したその時。

 ──呆れる様な、怒っている様な声が聞こえた気がした。


 その声に従って、ヤミは動いた。

 ポーチに入れていた魔石をリボルバーに装填し、強力な魔弾を装填。


「【ダークネス】」 


 ──属性は、闇。


 背後でリボルバーを構えるヤミに、

 間に合うわけがないと、ツルギは笑う。最早ツルギの手刀はガレンの首に触れる直前。

 そこで、ツルギは気づく。


 気絶しているはずのガレン、その左腕が持ち上げられている事に。


「──君も、ヤミも。最高位探索者を舐めすぎだよ」


 彼女の目に、光が灯っている事に。


「アンタは完全に気絶していた!魔力切れのダウンが、そんなに早く回復するわけない!」


「そこは秘密道具でカバーだよ」


 ツルギの手刀を左腕で逸らしたガレンのコート内で、小さなブローチがキラリと光った。


「マジックアイテムか」

「大・当た・りッ!!」


 体力を消費して、魔力を生成するマジックアイテムを使用したガレンは、ツルギの顔に一撃を叩き込み、折れ曲がった身体に回し蹴りを叩き込む。


 横に吹き飛ばされたツルギの身体に、構えていたヤミの弾丸が突き刺さった。


お前ヤミも、私を甘く見たな?」

「はい……」

「後でお説教だ」


 探索者の頂点、最高位の探索者であるガレンは、ヤミを指差しながら笑った。










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