第46話 暗根ヤミは再開する。
『これまでの動きでも、探索者初めて数日とは思えなかったが、今はもっと凄いな』
「ありがとうございます。それも全部、師匠のお陰ではありますけどね」
ヤミはガレンが画角に映る様にしながら、笑顔でコメントに返信した。
ヤミは現在、配信中であった。先日までのヤミであれば、他の人が一緒にいる時はカメラをオフにしていたが、今回は違う。
銃原ガレンという有名人のネームバリューを存分に使って配信をしていた。
その理由は、迷宮に潜る前まで遡る。
◇◆◇◆◇
「──あぁ、そうだ。迷宮に行く前に配信をつけておけよ」
「えっ、なんでですか?」
迷宮へと向かう途中、ガレンが言ってきた言葉に、ヤミは疑問を呈した。
迷惑をかけるかもしれないから、出来ればソロ以外ではやりたくないんだけど。
そんなヤミの考えを見抜いているのか、ガレンは指をこちらに向けた。
「使えるものは何でも使え。お前の夢を叶えるためなら、客寄せパンダくらいにはなってやる。師匠なんだからな」
顔出しと簡単な戦闘シーンくらいなら、大した苦労はないからな。
そう言葉を続けるガレンに、ヤミがそれでも悪いと続けようとすると、優しく退路を閉ざされた。
「それに、かっこいい銃のバトルシーンを見せれば、銃使いが増えるかもしれないからな。それは私の為にもなるから、やらせて欲しい」
「……」
そこまで言ってもらって、なお固辞するのは逆に失礼になるよね。
ヤミは感謝の気持ちを込めて、ガレンの提案を受け入れたのだった。
◇◆◇◆◇
「なんと師匠、ダイヤモンドクラスの探索者なんですよ!」
『へー』『確かにヤミに比べたら強そう』『マジックアイテムの気配が凄いねぇ』
しかしリスナーが人間ではない存在であったため、ヤミやガレンが思うほど食いつきは良くなかった。
彼らがヤミに注目しているのは、その戦闘スタイルでも戦闘能力でもない。彼らが気になっているのは、人間の持つ『想いの力』であり、その点で言えばガレンはヤミに遠く及ばない。
本来なら実現しない動きを無理やり成立させるヤミと、人智を超えたような動きをしてみせるガレン。
その2人であれば、ヤミの方が神々としては興味を持つ存在なのであった。
◇◆◇◆◇
「ん?あれは……」
ガレンとヤミが、2人とも見えているカメラの前で対話しながら迷宮を進んでいると、ヤミの目に気になるものが映った。
恐らくは探索者であろう風体。激戦の後なのか生き残りなのか、その装備はボロボロで、出口付近では無いことから危険な状態であると伺える。
それだけで声をかける必要性があるのだが、ヤミの目についたのはそこではない。
その探索者の赤い髪と、背中にある大剣に見覚えがあったからだ。
「赤武……さん?」
先日行方不明になったとされる、赤武ツルギに似た人物だったからである。
「師匠、ちょっと先行ってます!」
「どうした〜?」
ガレンがウキウキ顔でリスナーに対して銃の良さを語っていたので、ヤミはカメラを押し付けて赤武を見かけた通路へと向かう。
「行方不明の知り合いに似てる人がいたので、声をかけてきます!無理はしませんから〜!」
ここら辺のモンスターであれば、もしも赤武が戦えなくてもガレンの下まで逃げてくることは可能だ。問題ない。
ヤミは赤武を見失わないように、ガレンの返事を待たずに走り出した。
◇◆◇◆◇
「意外と速いっ」
赤武を大声で呼び止めるのは危険だと考え、追いつくまでの追跡を開始したヤミは、思ったよりも遠くまで走ってきていた。
ヤミが赤武を視認する時には、赤武は曲がり角に消える直前な事が多く、あちら側はヤミに気付いた様子がないので、いつ見失うか分からない。
幸いなことにモンスターと接敵しなかったため今のところ危険は無い。
しかし闇雲に走り回っているであろう赤武に、モンスターと戦う備えがあるとも思えない。
「仕方ないか!」
あまり大きな音を立てたくなかったが、仕方がない。足音や銃声はモンスターと誤認される可能性がある。ここは大声で呼び止めるしか無いだろう。
これまではモンスターと合わなかったが、ここからはそうは行かないだろう。
ヤミは赤武を守りながら戦闘をし、ガレンと合流するプランに移行する決心をした。
「──、赤武ツルギさーんッ!待ってくださーい!」
息を大きく吸い込んで、通路の先へ変えようとしている赤武目掛けて大声で呼びかけた。
赤武さんどころか、周囲のモンスター全てに聞こえる声量だろうな。
ここから先は道が広がり経路も複数に増える。モンスターが大量に押し寄せてくる前に、早く合流しないと。
曲がった先には大量のモンスター。そんな最悪の事態すら想定して武器を構えていたヤミが目にしたのは、予想としていなかった光景であった。
「お、やっと追いついてくれたか。まぁ予定通りなんだが」
それは大量のモンスター達──その残骸。一瞬にして土塊へと変わったモンスター達が舞い散る空間に1人立つ、赤武ツルギの姿だった。
「赤武……さん?」
「おう。久しぶりだな、神々のオモチャさん」
その青年は、落ち窪んだ瞳にギラギラとした狂気を輝かせていた。
そして以前の面影をほとんど失っているセキタケツルギは、ヤミをそう嘲笑った。
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