第45話 暗根ヤミ、戦い方を再構築。
「この後も控えているから、簡潔にお前に足りないものを教えてやる」
ヤミがメモ帳を取り出した瞬間に、ガレンはスクリーンの映像を再生しながら、語り出す。
そこにはガレンの蹴りによって、頭を蹴り上げられるヤミの姿。
「ここと、もう一つ」
その画像を脇によけ、次に再生されたのは、最後の攻防。ガレンの拳に向かってナイフを振るうヤミの姿だ。
「どっちも何を考えて行動していた?」
「ガードです。後者の時は、攻撃も兼ねていました」
左手のナイフは盾であり
「そうだ。お前は戦いのセンスがある。相手の動きを誘導するのも悪くない。問題は、お前の固定観念だな」
「固定観念、ですか……?」
「あぁ、慢心と言い換えても良いぞ」
その言葉に、ヤミは激しく動揺した。
6種の魔法弾を使える【
「お前はレベルが爆速で上がってるし、スキルもあってステータスが基本的に高かったからな。必要に駆られなかったんだろうよ」
自分よりも身体能力に優れた相手との戦い方ってやつを。
そう言葉を続けたガレンは、唐突に蹴りを放ってくる。
その速度は加減されており、ヤミの目でも十分に捉えられる速度だ。
座った状態ではあるが、ヤミは難なく腕のガードを間に合わせる。
この速度なら問題ない。ダメージは殆どないだろう。むしろ、この行動の意味が何なのか?
もはや迫る足を意識から除外し、ガレンの伝えたい事を考えようとしていたヤミは──唐突に吹き飛ばされた。
「なっ!?」
否、唐突では一切ない。
その攻撃をしたのは、ヤミがガードしたガレンの蹴りだった。
目視出来たその蹴りは、途中から爆発的に速度を上げて、ヤミを吹き飛ばしたのだ。
「それだよ。お前の行動の選択肢に無いもの」
ガレンは目を白黒させるヤミに指を突きつける。
「お前が相手の攻撃に対して取る選択肢は、『避ける』、『防ぐ』。後は発展させて『カウンター』くらいか?
1つ、選択肢から抜けているんだよ。『逸らす』って選択肢がな」
それを聞いて、ヤミはガレンの行動を思い出す。
彼女はヤミが向けていた銃口を腕で逸らして、ナイフも逸らして、ヤミへと肘鉄を喰らわせていた。
「これまで、後ろに守る対象が多かったってのもあるが、本来なら『防ぐ』よりも先に『逸らす』が選択肢として上がるべきなんだよ」
モンスターは強い。適正の迷宮に潜るのなら、大抵が自分より強い力を持っている。
ガードをしても、それごと叩き潰される事が多くある。
「これだけ言えば、お前なら十分だろう。本来なら、もうちょっと戦うつもりだったが、お前の足りない点も、お手本も見せられたし。もう迷宮に行こう。実戦あるのみだ」
我ながら、良いゲームメイクの才だな!
ガレンは笑いながらそう言うと、ヤミの手を掴んで体を引き上げると、訓練室の退出手続きを取りに行った。
……まだまだ足りない部分がある。でも、それは悪いわけじゃない。
改善できる場所があるのは、成長する余地があると言う事だ。自分の欠点に気づかない、見当たらなくなると、成長するのは難しい。
──探索者としても、配信者としても、そして人としても。まだまだ未熟で、成長途中だ。
どんどんと失敗して、学んで、成長していこう。
ヤミは自分の中で炎が灯ったのが分かった。
◇◆◇◆◇
【不死者の巣窟】11階層。
鉱石を含み、青みがかった色をした岩で出来た空間。そこは夥しい闘争の名残により、どこかジメッとした空気が辺りに漂っている。
そんな、ミドルボスモンスターを超えた下層に、獣声と銃声が響き渡る。
【コンバットグール】。集団で行動し、獲物を見つけると包囲して襲いかかってくる難敵。
新鮮な
下層のモンスターは知性が高く、殺した探索者の装備を奪う。または生まれ落ちた時から装備を持っている事もある。
その脅威度は10層以前とは比べ物にならないが、ヤミは冷静に捌いてみせる。
【コンバットグール】の数は、残り7体。スムーズな連携によって、全方位から致命の攻撃が放たれてくる。
「ヴォワワワッ!」
「……シッ!」
ヤミの側面から迫る片刃の剣。振り下ろされるその剣先を、【
流れる様な動作で振り向き、背後から迫るグールの眼窩に、【白蝶】を突き入れる。
気迫のこもったその刺突は頭蓋を貫通させ、グールはブルリと身体を震わせた後、土塊へと変わる。
ヤミの視線は随分と前に別の地点へと移っており、ナイフから伝わる振動や気配だけで、自分の置かれた戦局の大部分を把握している。
ナイフで背後のグールを殺すのと同時、剣を振り下ろした最初の一体を、リボルバーで撃ち抜く。
2体のグール達に向けていた視線はごく僅かで、その目には頭上から迫るグールが映し出されている。
モンスターが消滅して出来たスペース。そこに身体をスルリと移動させて、グール達の同時攻撃を凌ぐ。
ヤミが先程まで居た箇所に、残る5体のグールが思い思いの攻撃を叩き込んだ。
ヤミへの威嚇か、勢い余って停止出来なかったのか、それとも密集する事で出来る作戦があるのか。
狙いは読み切れないけど、コッチとしても好都合だ。
ヤミは左手のナイフを放ると、ホルスターから片手銃を引き抜く。
携帯型ショットガン、【黒蜂】。
モンスターが密集しており、かつヤミとの距離が近い。そんな好条件で放たれた過剰威力は、5体のグールの肉体を穴だらけにしてみせる。
「アアアア゛ッ!」
しかし相手は下層のモンスター。ショットガンの弾が手前のグールで止まり、後方にいた2体のグール達はまだ土塊にはならなかった。
片足がかろうじてくっついている様な見た目のグールが、両手で装備した大斧を横薙ぎに振るってくる。
沈む身体、低くなる視線。
髪の毛を何本か巻き込まれながら、ヤミは回し蹴りによってグールの体勢を崩す。
その状況のヤミに、追撃として突き込まれる槍。それに対し、千切れかけていたグールの足を掴んで盾代わりにする。
正面から受け止める必要は無い。勝負の相手をしてやる必要も、無い。
柔軟に、冷静に、効率的に。
敵の攻撃を逸らす選択肢を得た事で、ヤミは防御の為に行動する頻度が減った。
それに伴い、敵の攻撃を喰らって体幹がブレることも、次の行動に遅れが出る事も少なくなった。
そうして焦りが消えた事で視界は広く、思考がクリアになっていくのを、ヤミは実感していた。
モンスターの攻撃が来る前に仕留める、だけじゃない。攻撃範囲に入っても、攻撃をくらわない動き。
そこに、更にプラスする。
グールの持つ槍。その穂先を、斧を持って倒れ込むグールの腹部へと向けた。
刺さっていた足を貫通し、更に落下の動きも相まって、腹部の深くにまで刺しこまれた槍は、持ち主のグールにも容易く動かせはしない。
ガラン、という音と共に地面に落ちた大斧。その下に足を滑り込ませ、掬い上げる。
上がる断頭刃。退こうとするグールの足を撃ち抜く。
さらに、着用している鎧と体の隙間にナイフを刺し込み、所定の位置へと引き寄せる。
重力に従い、振り下ろされる死の刃。──切り落とされ、宙を舞った頭部は、地面に着く頃には土塊になっていた。
『攻撃圏内に近寄らせない。攻撃をくらわない。そして敵の攻撃を利用する。シンプルだけど、強いわね』
銃原ガレンの教えを受けて、ついにヤミの戦闘基礎が完成した。
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