第44話 暗根ヤミ、喰らい付きます。
銃原ガレンは銃使い。メイン武器は分からないが、武器種だけは確定している。銃だ。
得意戦闘距離は中距離。中・遠距離では、弾丸に弾丸を当てて落とす事ができる彼女が有利だ。
取れる選択肢は近距離インファイト。ナイフというアドバンテージを存分に使って、ガレンの格闘技またはハンドガンによる致命打よりも先に、削りきるッ!
大切なのは初動。ヤミにはまだ、弾丸を確実に弾くような技能はない。
出来る限り体を動かして、ガレンへと接近する必要がある。
リボルバーを2連射。弾くなり、躱すなり、掴み取るなり。ガレンがするであろう行動の時間で接近を試みるヤミの目に、ガレンの獰猛な笑みが映る。
弾丸を躱す。に留まらない。ガレンは長い長髪とコートをはためかし、前方に飛び込みながら身体を横に回転させる。
まるで弾丸が身体を避けるように、髪を掻き分けるだけに終わった弾丸に、ガレンは目もくれない。
「──ハッ、出来ることは全部やれと言っただろう!」
「くっ、う!?」
身体の回転そのままに、ガレンはヤミへと蹴りを放つ。
相手側からの積極的な格闘戦。その選択肢を頭から除外していたヤミは、ナイフでのガードをする暇もなく、前傾姿勢で駆け出していた頭を掬い上げるように蹴られた。
バク転の軌道で後ろに吹き飛ばされたヤミが着地をする瞬間には、ガレンは追撃に来ている。
ヤミの意識が変わる。
ガレンは2発じゃ止められない。彼女の行動を妨害するなら、全力で当たらなければ無理だ。
「【アポート】ッ!」
リボルバーの連射。弾倉に弾薬をフルで装填した6連射──に加える。
「【アポート】」
ガレンが接近するまでに、3発分を追加で撃ち込んだ合計9つの弾丸。
ほとんど時間の差は無く、意識して撃ち分けた事もあり、弾丸はガレンの身体に満遍なく放たれる。
「その意気だッ!!」
それを、全弾撃ち落とした。
思わず叫んでしまいそうになる。
しかし、これはまぁ……彼女であれば想定内ではある。そしてヤミが望んだのは、この攻撃による負傷ではない。
こちらの目を見ながらガレンが放った弾丸が、両足へと飛んでくる。それを反射的にしたバックステップで回避する。
一瞬とは言え空中に浮いて無防備なヤミに対して、さらなる弾丸を放てば終わる状況で、ガレンは接近を試みる。
「狙ったな!」
「もちろん!!」
11発。弾切れだ。
モンスター用に大口径の弾丸を装填しているハンドガンは、1マガジンに付き10発前後が入っている。
ヤミが放った弾を撃ち落とさせる事で、弾切れを狙った。
普段であれば魔法ならマジックアイテムなりでリロードが可能だが、今回ガレンは制限している。
「【アポート】」
先程までは、銃の技術で有利であったガレン。しかし今は、弾が残っているヤミが有利だ。
有利距離の逆転。
ヤミは距離をとってリボルバーで仕留めようとし、ガレンは距離を詰めて格闘技で仕留めようとする。
通常の距離感であれば、ヤミにガレンが追いつく前に、ガレンでも回避不可能なほどの弾幕で仕留められた。
しかし、ヤミが蹴りで吹き飛ばされた後に、ガレンが詰めてきた距離。射撃スキルで勝っている筈の彼女が取ったその行動が、ここで響く。
放たれた弾丸は4発。
最初の2発は歩法のみで躱され、続く2発は致命傷にならない末端部分にしか当たらない。
肩や耳から血を滴らせながら、ガレンは笑う。
銃口をガレンによって腕で跳ね上がられ、その拳が喉元に迫る。
「まだだッ!」
その拳に向かって、刃を振るう。
ナイフは拳を2つに割く軌道を描き、タイミング的にガレンが拳を引く事が不可能な状態で迫る。
ハンドガンはリボルバーを逸らした側の手にあり、ガレンにナイフを防ぐための道具は無い。ルール上、拳を二つに切り裂けば失血扱いでガレンの負けになる。
迷わず振り切れ!
ヤミの決死のカウンターが、ガレンの拳に触れる、その瞬間。
「ハッ!」
──ガレンの拳が、ブレた。
手首を使って一瞬だけ拳を下に向け、ナイフが甲に接触した瞬間に、手首のスナップで腕の上に乗せた。
そのまま腕を上げてナイフを逸らしながら、踏み込んだ勢いを活かした肘鉄を、ヤミの喉に喰らわせた。
「……は?」
訓練室で保護された身体。その視界の端にあるゲージが減少していき、ゼロになる。
「惜しかったな」
ガレンの肩や耳など、出血していた部分がブレた後、無傷の状態に戻る。
そして表示される結果。決め手は喉へのダメージによる呼吸困難。
ヤミの敗北だった。
「無茶苦茶すぎるでしょ……」
「当たり前だ。これでも偉いんだぞ、私は」
全力で狙いに行った勝ちを、直前で予想外の反撃で掻っ攫われた衝撃で、ヤミは茫然とする。
そんなヤミを見ながら気持ちよさそうにストレッチをしていたガレンは、訓練室につけられたカメラの録画映像を再生していく。
今行われた戦闘を倍速で見直した後、ガレンはヤミへと声をかけてきた。
「さて、終わったらすぐにフィードバックだ。メモを構えろ、お前に足りないものを教えてやろう」
その表情は弟子の成長を喜んでいるのか、気持ちよくボコボコに出来た快感からなのか、とても明るい素敵な笑顔だった。
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