第43話 暗根ヤミ、VS師匠です。
朝起きた。チャンネルを確認した。
「……」
本編動画、再生数32回。ショート動画、207回。
「──まぁ、そんなもんだろうと思ってたし!!」
ヤミは大声を出しながら、情報をより詳しく見ていく。
今の流行である迷宮探索動画にしては、想像よりも伸びていない。
──まだ投稿してから8時間。深夜の視聴数は低めだろう。
そんな言い訳が頭の中に浮かんでくるが、期待は早々に自分で潰した。
これが今の自分。人の伝手で配信の人がいっとき増えたところで、その人たちが常に見に来てくれるわけではない。
「それはそれとして、なんか悔しい」
悲しみよりも、やってやるという反骨精神が強いのは良い事だ。と自分を分析しながら、ヤミはベッドから身体を起こした。
◇◆◇◆◇
「新しい銃は!?」
「ありません。今日はよろしくお願いします」
「そうか……。うん、よろしく」
……自分から訓練つけてやるって言ったのに、そんなにやる気無くさなくても。
『もしかしたら新しい銃を見れるかもしれない!』という期待でガレンが声をかけてきたと思うと、師匠らしいとは思うが弟子としては悲しいものがある。
「──まぁ、今日のドロップで出るかもしれないしな!頑張っていこう」
自分で自分の機嫌を取ってる……。いや、探索者としては必要な技能だろう。
ヤミは何処からでも学んでいく思考に切り替えた。
「今日は迷宮に行く前に、協会の施設に行っても良いですか?この前に色々あったので」
他のチームと合同で戦ったため、報酬関連が複雑だったのだ。
もしかしたら振り込まれている可能性があるので、確認しておきたい。
「何もなくても、迷宮に潜る前に協会の施設に行くのはすべきだぞ」
「そうなんですか?」
「教えたはずだが……。いや、私の事だから楽しい話をしてて頭からすっぽ抜けたか。まぁいい。簡単に言ってしまえば、儲かる可能性がある」
ガレンは頭を掻きながら、説明する。
「モンスターは魔石以外の素材も落とす。それを定価以上の額で買い取りたい者がいるんだ。そういう奴は協会を通して依頼してくる」
「それを見ておけば、儲けになる事があるって事ですか?」
「そうだ。ついでに、探索者は報酬を早く支払う。または支払わせる事が大切だ。それは人としての信用に繋がる。
──私たちはすぐに死ぬからな」
報酬支払いが遅いというのは、探索者が死ぬ事で、支払いを有耶無耶にしようとしてると邪推をされかねない。
気をつけておけよ。というガレンの忠告に、ヤミは頷いた。
◇◆◇◆◇
「報酬は振り込まれていたか?」
「はい!ちょっと多めな気がしますけど」
「少なくなければ、文句を言わずに受け取っておけ。感謝代ってやつだ。着いてこい、歩きながら話そう」
探索者同士が迷宮で偶然協力した時に得た報酬。元々詳細な契約があったわけではないので、片方がもう片方に感謝の気持ちを込めて多めに渡すことはよくある事らしい。
返そうにも連絡先を知らず、名前に関してもツルギ以外は知らないヤミは受け取っておくことにした。
今度会った時に、お礼を言っておこう。
次に会えた時の事を考えながら、ヤミはガレンに渡された依頼リストを、歩きながら確認していく。
「8cm以上の魔石が1個当たり7万円!?」
定価で言えば、5万円を切るのに!!
衝撃でつい大きな声を出してしまい、ヤミは慌てて周囲を確認した。
「おおかた新しい機器の開発とかで大量に必要なんだろう。協会を通して買うよりは、アッチとしても少しはお安めなんだろうさ」
驚くヤミを尻目に、ざっと依頼リストに目を通していたガレンが、ヤミにタブレット端末を差し出してくる。
そこには、探索者が探索者へする依頼やパーティ募集の掲示板が載っていた。
「なぁ、ヤミ。さっきの話で出てきた探索者ってのは、コイツじゃないか?」
「え?──『パーティの1人が帰ってこない』……ですか?」
見てみると、『不死者の巣窟から帰還した翌日、単身で低ランクの迷宮に向かってから音沙汰が無い』という内容であり、その探索者の特徴として、赤い髪に大型の剣が記されていた。
「何かあったんでしょうか?」
「さぁな。低ランク迷宮で事故る探索者は意外に多い。無いとは思うが、不死者の巣窟でそのパーティがいたら、話を聞いてみるといい」
お前の話を聞く限り、そんな慢心するタイプとは思えなかったがな。
と言葉を続けた後に、ガレンは切り替えるように手を叩いた。
「──よしっ!それは置いておいて、まずは私と軽く戦おう。本当にボスに挑むだけの実力があるのか、見せてみろ」
会話をしながらガレンに連れられてやってきたのは、協会の施設である訓練室。
ここで、現在のヤミの実力を測るというのが、本日の修行の8割だ。
それは次の探索時、ヤミが【不死者の巣窟】のボスに挑むための準備である。
「ほら、リボルバーにショットガンにナイフにアサルト。これで全部だな?」
「はい。……これホントに危険は無いんですよね?」
ガレンが施設から借りてきたのは、特に変哲のない武装達。しかしその見た目からは分からないが、この武装たちに殺傷性能はないのだと言う。
このナイフなんて、こんなに鋭いのに。
「実物と同じであることに拘っているから、見た目は武器そのものだが、問題ない。なんなら実物を使ってくれても構わないが、流石に施設の人に悪いからな」
お前も人に実銃はビビるだろ。なんて事を言いながら、ガレンは軽くストレッチをして、ハンドガンを手に取る。
「私はこれ一本でいく。お前は私に一度でも致命傷判定を与えたら勝ちだ。出来ることは全部やれ。フィードバックは逐一行う」
「フゥー……わかりました」
ヤミはリボルバーとナイフの基本構成を構え、ガレンに向き合った。
人類の頂点が1人、ダイヤの領域。探索者の最上級の存在と相対した。
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