第42話 暗根ヤミ、方針を定め直します。
暗根ヤミを知った時に思ったことは、『自分も同じのが欲しい』、だった。
アレは、自分たちの物じゃない。
神々の頂点である3柱が見張っている。どんな手段を使っても、暗根ヤミへの干渉は不可能だ。
──だから、新しいのを作る事にした。
神側から通信チャンネルを常に開いておき、人間が通信してくるのを待っていた。
本来ほかのモンスターが侵入する事のない、ミドルボスモンスターの空間。
そこに他のモンスターを追いやるといった小細工を使って、暗根ヤミと他者との関わりを作り、暗根ヤミという存在に憧れる人間を生み出した。
神々と交信しているヤミ。そんな人間に対する願望は、人間の『想いの力』は、オートで目標を叶えるために動く。
そうして生まれた2人目の交信者。
その存在に気づいているのは、3柱の邪神のみだった。
◇◆◇◆◇
都内某所、暗根家にて。
「……」
ゴロゴロとキャリーケースを転がして、自宅のドアを開いたヤミは、帰宅の挨拶もせずに自室に向かう。
様々な武装が収納されているとは思えないほど軽々とキャリーケースを持ち上げ、軽く拭いてから2階に上がった。
「あら、おかえり〜」
「うーん」
ヤミの無事を祈ってくれていたのか、線香の匂いが残るリビングから、母の声が聞こえる。
しかし返事をする元気は無く、適当に声を出しながら自室に入った。
「……」
迷宮からの帰り道、ヤミはずっと迷っていた。
「今回の交流は、喜ぶべきか、悲しむべきか……」
迷宮内では朗らかに会話をして、外に出た瞬間に塩対応。そして帰ろうとしたらフォローされた。
ヤミの感情はぐちゃぐちゃだった。心の扉を開けたり閉じたりしたせいで、何が何だか分からない。
──何だか分からない時は、自分が悪いと思ってしまう。
もっと楽しい会話が出来たのではないか。
何で最後調子こいて冗談なんて言ったのか。
もしかしてカメラで撮られていたのが不快だったのか?
そんな考えがグルグルと頭の中で回っているのを自覚して、ヤミは頭を振った。
「僕は人と関わってこなかった。失敗は当たり前。ここで失敗しておくべきだ」
恐れちゃダメだ。避けちゃダメだ。
人は人と関わらないと生きていけない。大人になってからでは遅い。
ここで頑張らなくちゃダメだ。
ヤミは自分を鼓舞し、閉じようとしていた扉を再び開け放つ。
『関わる勇気』、そしてさっき教わった『知る勇気』。
この2つを無くさず行こう。
自分の方針を定め直したヤミは、リフレッシュのためにお風呂に向かった。
「……ガボゴボゴボゴボッ!!」
それはそれとして、自分の会話の反省点を見つけては、沈んだ湯船の中で叫んだ。
◇◆◇◆◇
「よし、やるか」
ヤミは先日届いており、封をされたままであった荷物を開いた。
それはデスクトップパソコン。それもゲームなどにも使える高性能なものだった。
昨今の配信者は、配信上で起きた見せ場。面白かった部分を切り抜いて編集し、動画として作成するのが主流となっている。
配信者も探索者も、なってから1週間と経ってはいない。しかしヤミは運と人に恵まれ、視聴者は2000人を超えた。
ワンさんとトゥさんの紹介で見に来ただけで、今後も見てくれるとは限らない。
見やすいコンテンツを提供することで、そういう人たちが見てくれるようにする。
こういう地道な積み重ねが、人との出会いを生むと信じよう。
「頑張ろう」
編集経験も技術も無いが、やっていくうちに慣れていく筈だ。疑問に思った事は逐一調べて、見やすい動画の工夫を学んで上達していこう。
初めての経験におっかなびっくり、しかしワクワクもしながら、ヤミはキーボードに手を置いた。
「あ、アホみたいに疲れた……」
1分のショート動画。そしてその本編動画。
自分の戦闘シーンでかっこいい部分を切り取った映像だ。
カメラが自動で画角を決めてくれていたため、カットが作業の8割ほどであったにもかかわらず、2時間はパソコンに齧り付いていた。
投稿した動画が見てもらえるのか、コメントは来るのかが気になるが、多分期待したようにはならないのも分かっている。
「反応は気になるけど、もう寝よう」
明日は赤武さん達のチームからの入金を確認した後、ガレン師匠との修行だ。
寝不足ではもったいない。
もう一回、赤武さん達とお話し出来たら良いな。
そんな事を思いながら、ヤミは手早く投稿だけ済ませて、眠りについた。
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