友達の欲しいコミュ障は、配信をしながら迷宮に潜る。

第35話 暗根ヤミ、手札で翻弄。

　薄暗い洞窟の広間。

　通路から迫るモンスターの群れを食い止める探索者達を視界の隅にすら入れず、2人の戦士は刃（やいば）を交える。

　ヴァンパイアは大きな翼をクルクルと纏めて腕の様な細さの筒へと変え、その先端に血液の刃を生成する。

　右肩から袈裟斬りに切り裂く軌道の刃に対して、ヤミは【白蝶】を持って弾く。

　弾いた刃が地面に当たれば、抵抗感なくスラリと斬れた。

【白蝶】なら打ち合えそうだけど、凄い鋭利だ……。

　続け様に振るわれるもう一本の刃を、ナイフを振り抜いた姿勢から肘鉄を放ち、刃の側面に当てる。

　恐怖を殺して放った打撃は、血の刃を真ん中から砕き、ヴァンパイアの攻撃に隙を生じさた。

「ギッ！？」

「ぐっ！」

　カウンターとして放たれた蹴りを回避する手立ては無く、左足を上げてガードをしながら飛ばされる。不安定な体勢から放たれた為に、致命打にはなり得ない。しかし鋭い爪は防具越しにヤミの肉を抉る。

　後ろへと飛びながら、ヤミは右手の【獣王】のトリガーを引く。

　その弾丸の脅威は理解できているのか、ヴァンパイアはヤミの銃口が向く方向を蝙蝠化させ、攻撃を躱そうとする。

　しかしヤミは、未だ魔法効果を付与する言葉を告げていない。

　相手に択を取らせた後の後出し魔法。

「【ウィンド】」

　バラけようとした身体の部分に暴風を当てれば、ヴァンパイアは慌てて蝙蝠化を解除する。しかし魔法部分はダメージにならずとも、中心に残る弾丸はヴァンパイアの身体を貫く。

　その一瞬の焦りを、怯みをついて接近し、【白蝶】を振るう。

「フッ！」

　狙いはもう一本の血刃。翼の半ばごと【白蝶】でもって斬りつければ、流石に連続での蝙蝠化は不可能なのか、ヴァンパイアは回避することが出来ず断ち切られた。

「ギィッ！」

　しかしそこで絶叫をあげず、ヴァンパイアは悲鳴を噛み殺して牙を剥く。ヤミが攻撃に対処する間に、血液のブレードを再生成しようと試みてくる。

　それは高い知性からもたらされた判断するであり、低ランクのモンスターであれば有り得ない行動。

　言語を解することこそ無いものの、その知性は人と同様のものだと分かる。

──だからこそ、取れる手段がある。

　左手の【白蝶】を空中に、【黒蜂】を引き抜き放つ。蝶のように舞い、蜂のように刺す。

　曲芸によって放たれた、顔面へ向かう散弾に反応し、ヴァンパイアは蝙蝠化。そこへリボルバーの追撃を加える。

「【ライトニング】」

　放たれたのはヴァンパイアにとって初出の魔法。その弾丸が宿す雷撃は、散らばる蝙蝠達へと伝播し、痙攣（スタン）させる。

　続けて、【黒蜂】を手放し【獣王】の撃鉄を叩く。

「【ブリザード】」

　雷撃によって停止した蝙蝠達は十分に散らばる事ができず、光の弾丸の時とは異なり何匹かの蝙蝠を弾丸で削られながら、その魔法を喰らってしまう。

　ヴァンパイアは腕に使用していた血液操作をキャンセルし、氷漬けにされた蝙蝠達を内側から血液で打ち破らせようとする。

　続けて撃鉄を叩き、3射目。

「【ウィンド】」

　蝙蝠化は、身体の一部分だけでの使用は出来ない。胴体を狙って放たれた弾丸は、このままいけばヴァンパイアの身体を上下で分断される。

　暴風による蝙蝠化の解除。それによって氷漬けにされたままの蝙蝠がどうなってしまうのか。

　知性があるが故に、ヤミが立て続けに切る手札（カード）の種類が、判断すべき状況が、ヴァンパイアを翻弄する。

　ヴァンパイアが覚悟を決めて蝙蝠化を解除すれば、頭は所々に氷が突き刺さったまま元に戻る。

　そして胴体に向かって放たれた弾丸は蝙蝠を散らさず、その肉体を貫く。

「ギャアァ゛ッ！」

　胸や翼から溢れる血、頭を貫く無数の氷柱。

　そんな惨状でありながら、ヴァンパイアの目には未だ光が宿り、ヤミへと衰えぬ殺意を向けてくる。

　少ない血液を口内に集約し、矢の形状にして撃ち出そうとしてくる。

　叩く撃鉄、続く4射目。

「【ホーリーレイ】」

　蝙蝠化は連続使用出来ない。不死者特効の光属性は、ヴァンパイアを倒すに足る威力でもって放たれた。

　回避手段の無いヴァンパイアは光弾で胴体を貫かれ、身体から力が抜けていく。

　空中から落ちてきた【白蝶】を左手で受け止め、ヤミはヴァンパイアの身体が土塊へと変わるまで、油断せずに【獣王】を構え続ける。

　ミドルボス、ヴァンパイアとの戦闘は、新たな魔法と新たな武装。増えた選択肢によって相手を翻弄した、ヤミの勝利だった。