第33話 暗根ヤミ、共同戦線です。

 10層最奥、11階層へと向かう為の階段前。

 ミドルボスモンスターのいる広間には、5人パーティの探索者達がいた。


「はぁ、はぁ……」


 彼らの身体には未だ血の止まらぬ新しい傷が多く、本来の活動場所が15層であるパーティとは思えない程に、表情は焦燥に満ちていた。


「ちくしょう、何だってこんな事に……」


 重騎士タンク剣士アタッカー、狩人、魔法使い、僧侶のバランスの良い構成の彼らは、その陣形を崩し、後方へと気を配る。


「なんでモンスターどもが、この広間に入ってきてんだよ!?」


 本来であれば、ミドルボスのいる広間に通常のモンスターは近づかない。しかし今回のモンスター達はその常識から外れ、赤髪の探索者含む5人のパーティを完全に挟み撃ちする形になっていた。


 正面にはミドルボスモンスター、【ヴァンパイア】。後方にはヘルハウンドやゴースト、マミーの群れ。

 どちらか一方であれば問題なく撃破できる実力のあるパーティは、挟まれた事でどちらにもリソースを割く必要が生じ、ジリジリと追い詰められていた。


「……このままじゃジリ貧だ。どっちかを無理やり突破する必要がある」


 剣士である赤髪の男がそう言えば、ローブに身を包んだ黒髪の女が賛同する。


「ボスを倒し切るのは時間がかかるから……行くなら後ろね」


 広間から出るための狭い通路。そこを埋め尽くすモンスターの群れを見て、震えを隠しながら出された言葉。

 その言葉に、僧侶である灰色の髪の少女は苦笑する。


「ヴァンパイアが、モンスターの群れで私達を見失うのを祈りましょう」


 僧侶というのは分かりやすい役職名であり、本人は無宗教だというのを知っている仲間達は、思わず笑ってしまう。

 それが最後の談笑になるかもと、精一杯の笑顔を見せて。


「はははっ。──よし、俺が時間を稼ぐ。その間に後ろを任せた」


 全身を金属鎧で覆った男は、大盾を握り直して気合いを入れる。

 援護なしでミドルボスの攻撃に耐える。もって数分。運が良ければ生き残れるが、おそらく自分は助からないだろうと覚悟を決めて、男は前に出た。


 全員が覚悟を決めた。望みの薄い希望を掴むため、全力で抗う覚悟を。


「ギィィイイ!」


 青白い肌に赤い瞳、人型でありながら腕がコウモリの翼となったミドルボスモンスター。ヴァンパイアは、探索者達の変化に気づき、甲高い声を上げ、空中からパーティへと突撃する。


 それに乗じて襲いかかってくるモンスター達へと、重騎士を除く4人は固まって突撃し返す。

 最善とは言えないが、割り切った戦術。可能性に賭けた行い。

 しかし現実は非情で、探索者達に絶望を突きつける。


「グッ!?」


 援護のない盾役が、ミドルボスモンスターを抑え込める筈がなく。


「きゃあッ!?」


 盾役のいない後衛が、戦い続けられる筈がなく。


「ぐわぁッ!?」


 サポートのない前衛が、大軍のモンスターで出来た壁を貫ける筈がなかった。


「【ホーリーライト】ッ!」


 アンデットの嫌う光属性を持つ僧侶が、致命的な攻撃を防いだところで、現状を打破できる力は無かった。


 探索者パーティとモンスターに隙間が空いた事で、彼らは自分達の1度目の挑戦の結果を目の当たりにする。

 焼け石に水と言ってもいい戦果に、身体から力が抜けた。


「うわぁぁぁっ!?」


 ヴァンパイアを1人で押し留めていた重騎士が、放たれた火球によって自分達の方へと吹き飛んできた。纏う鎧は所々が大きく凹み、左腕はあらぬ方向へと折れ曲がっている。


 ……ここまでか。


 赤髪の男は、手に持った剣を落としてしまう。その音をきっかけに、全員が視線を落とし、自分達の結末を理解した。


 ──まぁ、全員が一緒に終われるのだけは、救いかな。


 自分達を囲うモンスターの群れ。抵抗をやめた自分達を見ながら、満足そうに頭上を飛んでいるヴァンパイア。


 そのあぎとが、そのかいなが、自分達へと振り下ろされる寸前に、一つの言葉が聞こえた。


「──【ホーリーレイ】ッ!!!」


 瞬間、自分達に突き立てられる筈だった顎が、腕が。6本の光によって消しとばされる。

 自分達を避ける様に放たれた極光は、それに触れたモンスターを悉く土塊へとへんじさせる。


「間に合った……ッ!」


 状況の変化に驚愕する探索者とヴァンパイアの前に、1人の青年が降り立った。手に持つのは、白煙を上げるリボルバーとショットガン。


 そして──天井を走って現れたその男は、ヴァンパイアと探索者達の間に立った。


「みなさん、立てますか!後ろのモンスターは、任せても良いですかっ!」


 一緒に戦うべきだ。なんて言葉は無駄だろう。腕につけた端末によって眼前の青年が制限のあるスキル持ちなのは分かっている。

 探索者達は、落とした武器を握り直し、立ち上がる。


「すまない、前は頼んだっ!」


 今度こそは、希望を掴んでみせる。

 活力を取り戻した探索者達は、生き残るために武器を構える。

 後方でなる銃声が止まぬうちに、勇敢な1人の青年が死ぬ前に活路を開くため、探索者達は雄叫びを上げた。

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