第32話 暗根ヤミ、疾走。
「……周囲にはモンスターは、いなさそうです」
ヤミは視聴者の為に口に出してから、倒したモンスターの魔石を回収する。
モンスターが稀に落とす素材も落ちていた為、背中のバックパックに詰めていく。
『だいぶ、強くなったみたいね。取れる行動が増えたようだし』
「そうですね。リボルバーに宿ってる魔法と、僕自身の攻撃手段も増えて、かなり対応能力が上がった気がします」
雷による範囲遅延攻撃、炎による殺傷能力の強化。風による
ソロ故の取れる行動の少なさを、かなりカバー出来る様になったとヤミは感じていた。
『何よりあの魔法便利だな』『銃って弾切れたらどうすんのって思ってたけど、あれあるなら撃ち放題じゃん』
他の視聴者が注目しているのは、ヤミの使用した魔法。引き寄せの効果を持つ【アポート】であった。
本来は周囲にある物を自身の手元に呼び寄せる魔法である【アポート】を、『片手に収まる大きさの物』、かつ『呼び寄せるものが身体が触れていること』を条件に加えることで、魔力消費を抑えた代物である。
「とは言っても、あんまり連発はしたくないんです。僕の今の攻撃手段って、魔力の量が勝負みたいな所があるので」
ヤミの所有するポーチ、【キャットフィッシュ】が、ヤミの注ぐ魔力量によって威力を調整した弾丸を生成する事が出来るのは当然として。【
そこに身体強化の魔力も併せて考えると、あまり【アポート】頼りの戦闘にしてしまうと、いざという時に困る可能性があった。
「だからあくまで保険として、さっきみたいに戦闘終了時とかは、手作業で弾を装填する様にしてます」
『なるほどね〜』『色々考える点があるって大変だ』
視聴者たちとの交流をしつつ、ヤミは現在時刻を確認する。
時刻は昼過ぎ。前回の【氾濫】の事件でのヤミの功績で、何だか家族間ルールも有耶無耶になってしまってはいるが、別に態々破る必要もない。
3時間という時間の縛りのうち、迷宮に入ってから未だ30分。残り2時間半。帰り道の分を考えても、──行ける。
「慣れてきたので、少し速度を上げます」
腕時計に記されたヤミの現在のレベルは、12。前日の修行と今日の戦闘を併せて、【氾濫】から2レベル上昇し、スキル適用時にはステータスは36にまでなった。チームであればこの迷宮の攻略が可能な数値。ソロであっても、ミドルボスなら討伐可能だろう。
ヤミはゆったりとした進軍ペースを、無理のない程度にあげる。常人であれば全速力程度の速度を出してはいるが、ヤミのステータスであれば索敵を問題なく行える。
先程までに比べ、劇的なまでに上昇した速度で、ヤミは攻略を開始した。
◇◆◇◆◇
索敵構え。接敵速射。壊滅後進行再開。
傍目から見るとばら撒く様に、ヤミからすると必要な分を必要な場所に、
足に1発、腕に1発、頭に1発。
流れる様に撃ち抜いた後、両手を使用するリロードの隙を、足技による近接戦で埋め、【獣王】で埋め、【黒蜂】で埋める。
それは見ているもの達が、爽快感を覚えるほどの瞬殺であった。
『さっきまでの速度が嘘みたいじゃん』
「前のはアップというか、新しい武装への慣れもあったので」
しかしそんな速攻を行いながらも、ヤミにはコメントに反応する余裕があった。
だがそれは、武装に対する慣れという他にも、2000人という視聴者のいる状況への慣れもあるのだと言うことを、ヤミは胸の内にしまっておいた。
どんなに平静を装っていても、やはり戦闘中に返答を考えるほどの落ち着きはヤミには無く、コメントに反応した今も心臓はバクバクであった。
『あっという間に10階層だ』『バックパックもパンパンになったね〜』『荷物の詰め方が丁寧だから、見てて楽しい』
「荷物の詰め方は、師匠に習ったんです。一杯になった時に取捨選択しやすいように、高価で小さい物ほど奥に詰めろって」
ヤミはそう言いながら、低層で入手したドロップアイテムを捨てて、10層のモンスターからドロップしたアイテムを空いた隙間に入れた。
本来であれば1番コスパの良い魔石を最奥に詰め込むのだが、ヤミの奥の手では魔石を使うので、バックパック側面に取り付けた別のケースや、【キャットフィッシュ】の中に収納していた。
「──これで良し。この階層の奥に、ミドルボスがいます。今日はそれを倒して帰還します。……まぁ、もしもミドルボスが他の探索者に倒されていたら、今日は帰還します。残念ですけどね」
『おっけー、頑張れ!』『ミドルボスがいると良いね〜』『ボコボコにしてやろうぜ』
「──あっ、はい!」
『同じ空間に転送される事なんて稀やんw』みたいなツッコミを期待して少しボケたのに、思った反応が返ってこなかったので、悲しさと応援された嬉しさとを混ぜた表情で、ヤミが返事をすると──。
「──ッ、」
迷宮の奥から、何かが聞こえた。
『何か聞こえた?』『人の声っぽかった』
それは常人であれば、それこそマイクが拾った様な微かな音。しかし、ヤミの強化された聴覚は、確かに聞き取った。
それは、──人の悲鳴だった。
「うわぁぁぁっ!?」
「──ッ!」
その瞬間、地面を蹴り砕かんばかりに足を踏み込んだヤミは、全速力で駆け出した。
進行速度のギアを上げた。魔力の出し惜しみをする事なく、悲鳴のなる方へと駆け抜けた。
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