第31話 暗根ヤミ、お披露目会。
ヤミは前回訪れた迷宮、【不死者の巣窟】に来た。
「今日はここのミドルボスを倒すのを目標に行きたいと思います」
ミドルボスとは十層ごとに現れる、ボスモンスター同様に強力なモンスターのことを言い、前回ヤミが十層の先に向かわずに引き返した要因である。
特徴としてはボスモンスターと異なり倒されても復活し、マジックアイテムをドロップしない事があげられる。
「十層と十一階層を繋ぐ階段にいるらしいので、そこまでに武装に慣れながら向かいます」
『なんか聞いていたより進んでない?』『まだ探索者やって3、4回目の探索じゃないの?』
前回探索した迷宮が二層までと知っているリスナー達は驚くが、【氾濫】を1人で片付けて得た経験値の事を言えば、みんなが納得した。
『だとしても凄い速度だよ。ミドルボスなんて言葉を聞くのは、まだ先のことだと思っていた』
ワンの言葉に嬉しくなりながら、ヤミは迷宮の階段を降りる。
その背中に、変なヤツを見る視線を浴びながら。
◇◆◇◆◇
「今のやつ、なんで何も無い所に笑顔で話しかけてたんだ……?」
「配信にしては、ケーブル無いのおかしいし、不思議ね」
未だ迷宮内で無線の通信は、不可能だという事実を、あらゆる手段を用いても難しいという事実を知っている探索者達は、気味の悪い人間を見る目をヤミに向ける。
カメラはヤミ以外には見えない様にされているので、ヤミの現状は虚空に向かって話しかけながら、迷宮に入っていく奇人であった。
「……前すれ違った時は銃使ってたし、やっぱ変な奴なんだなアイツ」
「銃!?なんだってそんな不人気武器をソロで使うのよ」
「知らねぇよ。しかも使いこなしてたし」
「何にしたって、そんな奴とは関わらない方が良い。俺たちも行くぞ」
そんなヤミと、前日の探索時にすれ違っていた探索者は、赤い髪をポリポリと掻きながら、自分たちも迷宮へと潜って行った。
◇◆◇◆◇
【不死者の巣窟】、二層。
「グォオオオ……」
狭い通路と定期的に現れる広間を繰り返して構成された洞窟の中、ヤミは10匹を超えるモンスターの群れと相対していた。
「アア゛ッ!」
グールと呼ばれるそのモンスターは、人の死体に似た姿に、獰猛な牙を持つモンスターである。その口元は肉食獣の様で、凶悪な相貌は人を食べるために進化した事を伝えてくる。
イメージの中のゾンビとは異なり、獣の如き瞬発力を持つグールは、尖った爪と牙を以てヤミへと攻撃してくる。
「フッ!」
ヤミは左手に持った【白蝶】でグールの腕を切り飛ばし、右手に持っていた
1匹目のグールの眉間に
「【フレイム】」
その隙を逃さず、ヤミは残弾五発を動きの止まったグール達へと早撃ちし、一瞬で土塊へと変えた。
「ウゥ」
グール達に知性があるのか、それともヤミがリボルバーを下げた事から見抜いたのか、残弾が尽きた瞬間に、残りの6匹のグールが一斉に突撃してくる。
背中に回したアサルトを構えれば銃撃は可能だが、リロードする前に接敵してしまった為、全員を倒し切れるか不安が残る。
──ここで出し惜しみはしない方が良いかな。
ヤミは左手に持ったナイフを一瞬空中に投げ、腰の後ろへと手を伸ばす。
後ろから引き抜いたソレを右側に放り投げ、リボルバーを仕舞った右手で握るという、曲芸のような動きを見せる。
迫る一体目の、胴体へと狙いを定めて、撃ち抜く。
携帯型ショットガン、【黒蜂】から放たれた散弾は胴体へと向かい、その全身を消しとばす。
『えげつな』『普通に過剰威力でしょこれ』『音がちょっと癖になりそう』
コメントを確認する余裕の無いヤミには分からないが、ヤミの曲芸じみた動きや【黒蜂】の威力に、コメント欄は大いに盛り上がる。
『でもこれ、2発しか装填されてなくない?』
もう一体を土塊へと粉砕したヤミは、死者ゆえに恐れを知らない速度で迫るグール達へと、残弾のない状態で近接戦へと移行した。
迫る牙を右足で弧を描く様に蹴り上げ、その回転を利用してナイフを首へと突き立てる。
引き抜くついでに別のグールへと、【黒蜂】を握ったままの右手で裏拳を叩き込み、その頭を目と鼻の間で横に断ち切った。
ヤミは残弾の無いはずの【黒蜂】を残るモンスターへと向けて、トリガーへと指をかける。
『残弾ない筈だろ』『牽制?』『グールに効くとは思えない』
口々に弾が入っていない事を指摘するコメントの中、ヤミを知る2人は別の箇所に着目する。
『……身体強化の魔力以外に、何か使ってる?』
『魔法か』
マジックアイテムである、
「【アポート】」
唱えた瞬間、魔力によって繋がれたポーチから、2発の弾薬が【黒蜂】の中へと転送される。
そうして放たれた弾丸は、グール2匹を土塊へと変えることで、モンスターの群れは一掃された。
それに何の反応も示さず、ヤミは素早く【黒蜂】から薬莢を取り出し、次弾を手で投入する。
「……フゥー」
次のモンスターを警戒し、しばらく周囲へ気を配っていたヤミは、問題がないと確信してから、張り詰めていた空気を緩めて息を吐いた。
その様はまるで熟練の探索者の様であり、短いキャリアながらに濃い経験を積んだ、ヤミの確かな成長であった。
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