第30話 暗根ヤミ、視聴者爆増です!!!

「……そろそろ配信しようかな?」


 銃原ガレンに修行をつけてもらい、装備に関しても燃え尽きた防具やナイフ、等々の新調は出来た。今回は前回に比べて更に購入数が増えたため、ヤミは購入リストを読み上げながら、配送されてきた商品を取り出していく。


「え~っと。炎・氷とかの魔法耐性防具に、サバイバルナイフに、上位版のARアサルトライフルに——」


 箱から出されていくのは、魔法と呼ばれるヤミがリボルバーから放つような力に対して耐性を持つ防具など、これまでのある程度廉価な装備とは違う。報酬金という潤沢な資金に物を言わせて買った高級品たち。

 急速にレベルの挙がったヤミに見合う品々である。


「何といっても、やっぱりこれが一番お世話になったなぁ……」


 中でも特に一番高価な物を取り出して、ヤミはねぎらうように撫でた。

 それは携帯型ショットガン【蜂】の最上位モデル、【黒蜂】。


「保険の武器こそ良いものを買えって師匠も言っていたし」


 銃を扱わない探索者たちでも保険として持っておく武装である、【蜂】シリーズの最高ランク。

 メイン武器としてはとても扱えない射程の短さをそのままに、威力だけにこだわった逸品である。

 今回のヤミの購入物品としては【黒蜂】とサバイバルナイフである【白蝶】の二点が高額一位二位だったが、二位の【白蝶】が二本買えるお値段をしている。これが魔石と強化弾薬による一撃で融解したらヤミは普通にぶっ倒れる自信があった。

 ヤミは【黒蜂】のレシートに刻まれた凄まじい数の0に変な汗を流しながら、配信の準備を進める。


「二人に脅されたけど、やっぱり何か規制を入れた方がいいのかな?」


 今回の探索は新装備の慣らしも兼ねているので、それほど長時間活動するつもりはない。不測の事態が配信で起こっても、対応は可能だろうとヤミは考えていたが、あの二人が心配するほどの人たちだ。


 あの、推定高位探索者(しかも海外の)である二人の知り合いで、難がある性格の人達。字面にした恐ろしさに、ヤミは対策をすることにした。


「と、取り敢えず、2人にモデレーターの権限を渡しとけば良いか」


 モデレーターとは、配信者以外の人がコメントをバンしたり出来る人のことを指し、ヤミはワンとトゥをモデレーターに設定した。

 先日家に届いていた、トゥのカメラをパソコンに接続する。


「これで地味に面倒くさかった有線接続ともおさらばできる……!」


 トゥが贈ってくれたカメラは、なんと最新技術で迷宮内でも無線での配信が可能。そして宙に浮いており、自動的に写りの良い場所に移動してくれる優れ物らしい。


「やっぱり有名な人だから、新しい技術の入手とかも出来るのかなぁ……?」


 この製品が市場に流れるのはいつになるのだろう?なんて事を考えながら、地球外で作られたオーパーツカメラのスイッチを入れた。

 配信、開始。


「──ど、どうも〜」


 開口一番、変な挨拶をしてしまいながら、ヤミはおっかなびっくり頭を下げる。

 やっぱりこの、始める時に何を言えば良いのか分からない……!

 定番の挨拶でも作れば良いのだろうか?彼らもこんな悩みを持っているのかな。

 そんな勝手な共感を抱いていると、骨伝導のイヤホンから、通知音。


 視聴者の数が、2人に増えた。


「あ、こんにちは!」


 ヤミはその数字に安心しながら、ちょっぴり残念には思いながら、おそらくはワンとトゥであろう視聴者に挨拶をしようとして。──唐突に雪崩が起きた。


 通知音。

 通知音、通知音、通知音。

 通知音。通知音。通知音。通知音。通知音。


『ここが噂の配信か』『ホントに迷宮の外じゃん』『お、きたきた』『いぇーい!』


「わわわわっ!」


 視聴者の増加と、それに伴ったコメントの読み上げで、ヤミの耳は何も聞き取れなくなった。


「えっと、えっと──ちょっと待ってて、クダサイ……」


 ヤミはイヤホンの音量を下げて、コメントの読み上げ機能と、視聴者の増加に関する通知をオフにした。

 まさか自分がそんな有名配信者みたいなこと出来るとは。なんて嬉しく思いながら、視聴者数を確認して、ヤミは口から変な音が出た。


「に、2000人……!?」


 それは前回までの視聴者2人に比べて、千倍の増加であった。

 途端、2000人の視線を意識してしまったヤミは、自分の口が急に動かなくなってしまう感覚に陥りかける。


「──こ……こんにちはッ!暗根ヤミですッ!」


 だけど、ここで黙るわけにはいかない!

 ヤミは全力を振り絞って、2000人の視聴者に対して声を出した。


 そんな配信者側の都合など知ったこっちゃ無いと言わんばかりに、爆速で流れていくコメント欄に反応できずに泣きそうになっていると、ヤミは名前の横に光る青い特徴的なマークを見つけた。


『取り敢えず、連打できないようにした』


「ワンさん……」


 それは青いスパナのマーク。モデレーターだけが持つ特徴だった。

 モデレーターの権限で、連続でのコメント投稿を制限したと言うワンに、ヤミは最早半泣きで感謝した。


『知らない人の群れから、知り合い見つけたからって嬉しくならないの』


 先程までの爆発的なコメント欄の速度からは収まり、いくらかコメントを視認できるようになると、もう1人のモデレーターであるトゥのコメントもヤミは見つけられた。


『ヤミは知り合い作りに来てるんでしょ?なら知り合い以外に話しかけなさい』


 その言葉に、ヤミは気合を入れ直した。

 他の視聴者のコメントも読めば、おふざけコメントもあるが、ヤミの事を知りたいと思ってくれているのは間違いないと分かる。


 興味本位でも、好奇心でも、この配信に来てくれたのだ。自分のことをもっと知ってほしいし、楽しんでほしい。

 そんな思いを胸に、ヤミは出来る限り普段通りに話し出すことができた。


「──それで、コミュ障の改善と、友達作りの為っていうのが、配信を始めた大きい理由ですね」


『なるほどね〜』『やっぱ人は考えてることちょい違うな』『友達欲しいとか考える事ないもんなぁ』


 そんな反応が返ってきて、やっぱり海外だと考え方は違うのかとヤミは考える。

 みんな自分の話に反応を返してくれるし、文化の違いを楽しんでくれている。思ったより怖い人達じゃない。僕も楽しく頑張ろう。


 最初の挨拶が終わって少し雑談タイムになった際に始めた荷物準備も終わり、迷宮に向かう準備は整った。


「それじゃあ、タクシーで迷宮に向かおうと思います」


 室内での撮影だったのでカメラをオンにしていたが、一応住所特定を避けるために、暫くは映像をオフにしておく。


「これ、ヤミはオフにしたつもりになってないか?」


「私たちは地球に住んで無いんだから、住所バレもクソも無いわよ」


 カメラをオフにしたつもりのヤミだが、ヤミに対する観察は公式に許可された神々は、関係ないとばかりに自分の力でヤミの状況を見てしまう。

 やりたい放題の視聴者には気づかず、ヤミは迷宮へと向かった。

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