第26話 暗根ヤミ、厄介ファンがつきました。
「そんな事言っても簡単に折れたらトップとしての威厳がさぁ……そういえば、何でワンは僕が暗根ヤミに注目してるって気づいたの?」
「人間由来のスキルは、限られたステータスしか補正しないんですよ。彼は魔力回復の速度が異常です」
人間が自分で目覚めるスキルは、筋力や速度、耐久性や体力、魔力は補正しても、体力や魔力の回復速度。レベルの上がりやすさまで補正する効果は無いのだ。
「神視点で考えすぎですね。後、私に気づかれずに注目している人間に力を与えるなんて芸当が出来るのは、アナタだけですから」
おそらく、創造神が暗根ヤミに気づいたのは、自分と
「アンタがヤミに期待しているのは何?」
滅多に力を与えるなんて事をしない創造神が注目する理由は何か。トゥの疑問に特に悩むそぶりも見せず、創造神は答えた。
「人間の到達点が見たくなった」
暗根ヤミの願望から発生する想いの力は、人類で1番の出力を誇る。
「夢を追い続けるってことを神である僕は知らないけど、人間にとってはかなりの苦行なんだって」
基本的に、夢は見るものか、叶えるものか、諦めるもの。
切望し、熱望し、追い求め続けるのには才能がいる。
「だけどね、彼はコミュ障を克服しきれず夢を叶えるのが難しい状況で、諦めずに妥協せずに
それだけでも凄まじいのに、探索者としての大成という願望まで抱いた事で、想う力は神への通信を可能にするまでになった。
「だから彼のスキルに細工をした。探索者として強くはなれるが、人とは関わりづらくなる効果を付与したんだ」
ヤミは探索者としての才能がある。何も干渉せずとも、いずれ探索者として大成は可能だろう。
1つ大きな夢を叶えた人間が、もう1つの長年の夢も叶えたいと想った時の出力は、どんなものになるのだろう。
「彼が人から神になれるのか。それを僕は見てみたいんだ」
創造神の言葉に、ワンは思わず言葉を失う。
──それってつまりは、
「厄介ファンって事ね、アンタ」
「そういう事だな」
「……そういう事なのッ!?」
トゥの呆れたような表情で呟かれた言葉に、ワンは頷き、創造神は驚く。
「言っちゃえば、アンタはヤミに夢を追い求めてて欲しいけど、叶えちゃったら嫌なわけじゃない」
「地球でよく言う、『売れないバンドマンを応援してる私って素敵』って現象に近いのか?」
「ちょっと違うし……君ら人間に毒されすぎじゃない?」
創造神はヤミに注目してから、日々人類に興味を持って情報収集をし続けている2人に苦言を呈すが、もちろん無視された。
そんなこんなで雑談は続き、結論としては、ヤミに権力のあるタイプの厄介ファンが付いた。
「何でそんな結論になっちゃったんだ……まぁ、もういいや」
創造神はもっと批判されると思っていたのだが、彼ら自身も好奇心からヤミに接触した手前責めることは出来ないようだと考えた。
「まぁ大した使命を持たせたわけじゃないなら勝手にすればいいわ。私は帰るから」
「私も失礼させてもらう。アーカイブを見たいので」
ワンとトゥが話は終わったと席を立てば、思い出したように創造神が最後に一言。
「──あっ、今後のヤミ君の配信、他の神々からも見たいという要請があったから許可しておいた。君たちがしっかり統制しておくように」
それはあの部屋に2人が入ってくるまでに申請された事。もしもあの人間の通信を切断する決定にならなかった場合は、自身達も暗根ヤミを観察してみたいと言う要請だった。
「まぁ、それくらいは予想してたわ。ある程度考えはあるから、任せときなさい」
「放置してたら迷惑がかかるからな、しっかり縛りを設けておくつもりです」
ヤミに対する情報の提供や、素性の暴露、連投やらスパムやら嫌がらせ行為。それら全てを抑制し、制裁を加えるシステムを、2人は既に構築していた。
その上で、彼ら2人で常にヤミへと注意を払っておく。神々が彼に悪さをすることは不可能だろう。
空と星の神々は、自分のお気に入りを守るために全力であった。
「ちょっと引くくらい凄いな」
創造神が引くくらいには。
◇◆◇◆◇
「ふわぁぁ……昨日楽しくなっちゃったせいでまだ眠いや」
ワンとトゥの為に体験談を話し込んでしまい、ヤミは寝不足気味であった。
しかしここからはキチンと自分も頭を働かせる必要がある。
「だって、魔法書選びを師匠だけに頼りきるなんて勿体無い。自分のことなんだから」
ヤミが気合を入れた場所は、先日も訪れた探索協会本部。
今日はその地下に建てられた魔法書の保管庫に用があるのだ。
ヤミが職員に訪ねれば、既にアドバイザーは相談用の個室にいるとの事。
部屋の番号を教えてもらい、そこへ向かおうとすると、自身の名前を呼ぶ声がした。
「おーヤミじゃないか。今日はなんでここに?」
「あ、田中さん!ニュース見ましたよ」
それは共に【氾濫】を生き延びた戦友にして、ヤミから頑張ってLINEで話しかけた田中であった。
……友達、とも言っても良いよね?
そんな言葉を呟いて、今後の田中の紹介に付け加える事を決めた。
「やめてくれよ恥ずかしい。英雄だの天才だの褒めくりまわされて、これは半分以上お前への褒め言葉の筈なんだぜ?」
そう、田中は現在、一躍『時の人』になっていた。『協会の英雄』やら『秀才』やらと協会の仕事ぶりを裏付ける存在となった田中は、連日連夜インタビューに追われていた。
「そんなのは置いといてだ、今日はなんで?」
「魔法を選びにきました」
「お!早速だな。まぁステータスの急成長で、次の迷宮は二層どころの階層じゃないだろうからな。しっかり準備したいか」
「そうです。それで、今から師匠に銃を見せつつ相談に行こうとしてました」
流石にリボルバーを腰に下げて協会に入るのは気が引けたのでアタッシュケースに入れたソレをちらつかせる。
その時、奥の方から職員のザワザワとした声が聞こえてきた。
「あーマジックアイテムのリボルバーか。名前はもう決め──」
田中の声を遮るように、ヤミと田中を隔てるように一本の線が走る。それは腕であり、田中には認識のできない速度で接近してきた高位探索者のものだった。
「な、何だっ!?」
「あ、師匠」
それはヤミのアタッシュケースを掴み、そのままヤミも一緒につけたまま、来た道をズカズカと戻っていく。
抵抗出来ないのか、するつもりもないのか。ヤミが師匠と呼んだ人物が腕を振るたびに空中にブンブンと振り回されながら、ヤミは田中にヒラヒラと手を振る。
「待たせちゃってたみたいなんで、もう行きますね。ま、またお話ししましょう!」
「いや、おま──お、おう」
そこで緊張する所の状況じゃないだろ……。という言葉を飲み込んで、田中はヤミへと手を振った。
「アイツたまに常人じゃねぇな」
あれに動揺するでもなく、むしろあれが日常だったのではないか?と言うほどに冷静であったヤミに、田中は少し、引いた。
ファンがファンなら推される側も推される側である。
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