第27話 暗根ヤミ、新しい魔法です。
相談用に防音加工がなされた部屋に、
それをビビりながら伺っていた職員たちは、恐ろしすぎて何も口を挟まず、その常識外の行動を眺めていることしかできない。
「お、お騒がせしてごめんなさい」
初対面の人にはまだ緊張しているヤミが頭を下げれば、怖がっていた職員の怖いものの矛先が女性からヤミに向いたのが感じられた。振り回されている人間がこっちに謝罪してくるのだ。それほど怖いことはなかなかないだろう。
そんな事に気付く暇もないまま、ヤミは部屋に引き摺り込まれた。
「銃」
「そのアタッシュケースです」
ドアが閉められ周囲に音が漏れなくなった瞬間、ヤミはアタッシュケースごと一度解放され、その後再びアタッシュケースだけ強奪された。
「お久しぶりです。師匠」
あまりにも奇行に触れすぎて慣れてしまったヤミは、その女性。銃原ガレンに挨拶をする。
男性平均身長であるヤミを掴んで足を浮かせれるほどの高身長。そんな高身長の足元に届くほど伸ばされた灰色のロングヘアー。内側の服はその時々で変わるが、纏うロングのコートが印象的な女性である。
探索者になるための訓練期間。銃という人気の無い武器に適性のあったヤミに、銃の使い方を、探索者としての技術を教えてくれた人。そして銃をメイン武器としながら、探索者の中でもトップクラスの実力を持つ存在だった。
探索者には階級が存在する。探索者となって半年はランク付けがないという規定でヤミはまだ無縁だが。探索者はブロンズ、シルバー、ゴールド、プラチナ、ダイヤモンドの五つに分類分けされている。
本来ならダイヤモンドのランクであるガレンが初心者の教育などやるわけがないのだが、彼女は銃使いであり銃オタクでもあった。重度の。
つまり、新規参入者を増やす為なら努力を惜しまないのだ。
「銃身に曲がりはない。弾倉には六発、整備がしやすい単純な構造。しかし魔力を感じるな?これは私の持つのと似ているがいやしかし──」
銃原ガレンはヤミから強奪した(本人は許可をとったと思ってるし、ヤミも許可したのだが、見た目は強奪であった)リボルバーを舐めるように観察している。
「撃っても?」
「どうぞ」ダァン!
ヤミへと発砲許可を求めたガレンは、ヤミが言い切る前に信じられない速度の早撃ちを見せた。
弾薬を入れてすらいなかったのに、しかもどこに撃ったんだろう?
レベル30程のステータスを持つヤミですら霞むほどにしか見えなかった技能に冷や汗を流しながら銃身の先を見れば、ガレンが設置した迷宮産の金属の中に弾丸は埋もれていた。
「──悪くない。良い銃だ、名前は?」
ガレンは一旦満足したのか、ヤミへとリボルバーを返却してくる。
師匠からのお墨付きをもらい、銃としての性能に安心しながら、ヤミはリボルバーを受け取る。
「僕はネーミングセンスがあまり無いので、後でじっくり考えようかと」
「そうか、決まったら教えてくれ。連絡先はここだ。ところで随分と受け答えが出来るようになったな?」
ヤミへとLINEのQRコードを見せながら、ガレンはヤミの変化へと言及する。
会話のテンポが早くて目が回りそうだが、これはヤミとガレンが訓練していた時にはなかった事だった。
「少し、自信が出てきて。話せるようになりました」
「それは、良かったな。お前が夢に前進していて喜ばしいかぎりだ」
お前からの疑問点や相談は全てメッセージでやり取りしていたのが懐かしい。そう笑うガレンに、ヤミは申し訳ない気持ちで一杯になった。
「さて、報酬分はそこそこ堪能させてもらった。そろそろアドバイザーとしての仕事をしようか」
ガレンは先程までのオタクモードを一旦オフにして、ヤミの前に三個に分けられた書類を提示してくる。
それはガレンが用意してきた、オススメの魔法のリストであった。
「魔法はレベルが上がれば自力での習得もあり得る。こちら側は自力習得が可能かつ、出来れば欲しい魔法リスト。そしてこっちが魔法書として存在している魔法のリスト」
「水魔法に火魔法。回復魔法とかですか」
「お前はソロ向きのスキルだからな。全てを自身で解決するなら便利な魔法達だ」
迷宮は難易度によって階層が増える。レベル30クラスの力を持つヤミは、今後迷宮内で寝泊まりする可能性もある。生活を支える魔法というのはかなり必要であった。
「それで、最後のこの資料は?」
ヤミの前に提示されたのは三つに分けられた資料、その最後の資料が何なのか聞くと、ガレンは恥ずかしそうに頰をかいた。
「それは〜、私のロマンだ。自己満足、エゴと言い換えても良い」
「ロマン、ですか?」
「あぁ、恥ずかしい話。ヤミが銃をメインにしない可能性を考慮していなくてな。それは銃を武器にする想定で特化した魔法のリストだ」
キマイラとの戦いで、ナイフを使ったのだろう?そうガレンに訪ねられたヤミは、頷いた。
ヤミが銃を使っていたのは、近接武器が苦手だったからでは無い。近接武器でモンスターを傷つける感触が苦手だったからだ。
「一度乗り越えてしまえば、正直言って慣れていくと思う。特に街を守るためになんて理由でナイフを振るったお前ならな」
それに対してヤミは頷いた。
ヤミはキマイラを殺すために、街を救うために、自分の好悪なんてどうでもいいと覚悟をもってナイフを振った。
「正直、今は近接武器への苦手意識はあんまりありません」
むしろヤミは今後の装備新調の際に、【氾濫】時に使ったようなナイフを購入するつもりでいた。
「ですが、近接武器メインに移行しようとは思いません。僕は銃を使うのが得意ですし、何より好きですから」
「……そうか。なら、良いんだ」
私の活動が実を結んで嬉しいよ。そんな照れ隠しの言葉を入れながら、ガレンはヤミに書類を渡した。
その資料は三つの魔法について書かれており、その一つ一つに500文字程度の理由と使用方法が記述されていた。
「力の入れようが違いませんか?」
「当たり前だ、これを1番最初に作った」
さっきまで用意されていた、ただの魔法名のリストとは熱意が違う。
流石の銃オタクだなと感心しながらヤミが読み進めていると。
「……あ、この魔法。僕もこれにしようかなと思っていました」
目についた最後の魔法は、ヤミが魔法書をもらえると分かってからボンヤリと考えていた事であり、銃使いの避けられない欠点を補う魔法であった。
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