第24話 暗根ヤミ、無事に帰宅。
「おつかれ〜。はい、これ報酬関連の書類ね」
「あ、田中さん。ありがとうございます」
ヤミがエントランスのソファーで手続きを待っていた所に、田中がやって来た。
執務室の男性職員から受け取って来たのか、先程交渉の末に増えた報酬に関しての書類をヤミへと渡してくる。
「田中さんのおかげで、報酬が増えました。ありがとうございます」
「いやいや、むしろこんな大人のゴタゴタに巻き込んですまなかった。お前のしたこと考えれば、ホントはもっと評価されて良いんだぜ」
命救われてんだから、お礼も謝罪も俺たち側がするべきなんだよ。
田中は、そう言ってヤミに頭を下げてくる。
「【氾濫】を鎮めるために戦ってくれて、ありがとう。市民を安心させるために、功績を譲らせてすまなかった」
ヤミが何を言うべきなのか分からずオロオロとしていると、田中はそれで話は終わりだとばかりに表情を仕事用に変えると、周りの職員に車を用意させた。
「暗根様をご自宅までお送りしろ」
「分かりました」
「暗根様、報酬金に関しては銀行へと送金致します。魔法書に関しては、アドバイザーに希望する人がいらっしゃらなければ、こちらで選んで通知いたしますが、いかがなさいますか?」
「あ〜、アドバイザーは僕が指名しても良いんですか?」
「相手方の了承が得られれば可能です。基本的には協会の用意するアドバイザーをお勧めしていますが、高位の探索者にツテがあるのでしたら、そちらでも」
「じゃあ、『
「……だ、大丈夫なのか?アドバイザーはヤミの方から指名するなら、
明らかに動揺し、言葉も普段使いに戻ってしまった田中の姿を面白く思いながら、ヤミは何の気負いもなく答える。
「大丈夫です。『銃タイプのマジックアイテム見せます』って言えば、師匠なら飛びつくと思うので」
「……大丈夫だな、そりゃ。──コホン、かしこまりました。では、そのようにお伝えいたします」
「はい、よろしくお願いします。……そ、それじゃあ、また連絡しますねっ」
ヤミは勇気を振り絞ってそう言った後、そそくさと窓を閉めて発進するようお願いした。
ヤミを乗せた車が走り去るのを眺めながら、田中はつい愚痴ってしまう。
「普通なら数千万する指名依頼を、たかがマジックアイテム一つ見せるだけで良いとか、ほんとマニアって凄まじぃな」
そして高位探索者に対して、それで良いだろと実行するあたり、あいつも良い根性してるよ。
田中は苦笑いを浮かべながら、協会へと戻っていった。
◇◆◇◆◇
「え、えっっらい目にあった……」
つい最近言った気がするセリフを再び言って、ヤミは自室のベットに倒れ込んだ。
ヤミは【氾濫】鎮圧後、即座に病院に搬送されたため数日帰宅できておらず、病院では外ということもあって我慢していたであろう両親と対面した。
そこには、涙目でキレる母と、何言ったら良いか分かってなさそうな父がいた。
おもいっきし引っ叩かれた。思い切り抱きしめられた。
滅茶苦茶に叱られたし、頑張ったと褒められた。
命を危険に晒した息子で、人々を救った英雄で。両親は何を言えば良いか困ってしまったらしい。
ヤミもどうしたら良いか分からなくて、2人の話をいっぱい聞いて、自分の話もいっぱいしていたら、昼には帰って来てたのにすっかり夜が更けてしまっていた。
「ホントはこのまま寝てしまいたいけど……あの人たちにも心配かけてるだろうしなぁ」
ヤミが取り出したのは、職員がロッカーから回収してくれたパソコンと、マイク付きのカメラ。
出来る限りプライバシーは守りたいのでカメラはオフにして、万が一にも顔が映らないようにしておく。(普段はヘッドセットみたいな付け方なので、顔は見えていないのだ)
友人作りも目的としているヤミとしては、顔出しするのもやぶさかでは無いが、やはり少しはオシャレをしてから顔出ししたい。
こんな病院帰りで髪もボサボサ、ヒゲも少し生えてきちゃった状態ではごめん被りたかった。
「タイトルは……『無事に生きてます』とかでいっか。時間も遅いし、2人は来ないかもなぁ」
普段日中にやっている配信だが、今回は夜八時を過ぎている。海外の生活リズムは分からないが、日中見てる人が夜中も見てるとは思えない。
「ライブも暫くは動画として残るし、取り敢えずの安否報告って感じで良いかな?」
普段はAIが映像内で勝手に選ぶサムネイルを使っているが、今回は手に入れた戦利品。マジックアイテムのリボルバーを写真に撮ってサムネイルとした。
「あ、あぁ〜。コホン。聞こえてますか?」
ホントは雑談配信ならBGMやら画面に映像やらを流した方が良いんだろうが、見切り発車で始めてしまったので何にも用意出来てない。
まぁ、明日から暫くは色々と準備期間に当てるから、その時にでも用意しよう。
「【氾濫】で負った傷も病院で治してもらって、特に後遺症も無く完治しました。手には少し火傷痕が残りましたけど、それも痛々しい程では無かったので大丈夫です」
ヤミは自身の左手人差し指をチラリと見る。トリガーを引いていたため、銃口と1番近かった人差し指の外側には火傷痕が残っていた。
「あ、そう言えば。倒したボスモンスターとかモンスターの魔石類を買い取ってもらったら、すごい大金持ちになりました!これでまた欲しい物が色々買えるので楽しみです」
正直もう伝えたい事は無い。
マジックブックの選定も相談したかったが、話の流れで功績を売ったとか気づかれそうで言葉にするのを避けた。
5分と経たないうちに伝える事は伝え終わったヤミが配信を切ろうとすると、通知音が一つ、二つ。
『元気そうで何よりだよ』
「ワンさん!」
『そんだけ金が入ったなら良いカメラを買ってね。カメラがブレて見ずらいのよ、今使ってるソレ』
「トゥさん!」
それはヤミの配信を見てくれる2人、
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