第12話 暗根ヤミ、探索者2日目です。

「え、えらい目にあった」


 ヤミの迷宮探索のルールは日を跨いで行われた。

 その結果、以下の法律が制定された。


 一つ、初めて入る迷宮で、すぐにボスモンスターと戦わない事。


 二つ、弾薬の数が三分の一削れたら撤退する事。3時間を超えても撤退する事。


 三つ、良い装備に良いスキルを持っていても、慢心しない事。


「これを破ったら、ボコボコにするからね」


「やりたくないが──お前の配信を毎回チェックする事になるからな」


 そんな脅し文句を並べられ、ヤミは顔面蒼白の首振り人形になるしかなかった。特に後者が効いた。


 ◇◆◇◆◇


「そうは言っても、来月分のお金は稼がないと!」


 そんなこんなで探索者3日目の朝、ヤミは探索者用のサイトで手頃な迷宮を探していた。

『ナビリンス』、何てふざけたサイト名だが、全世界の探索者が使う信頼度のある物だった。


「迷宮の難易度を1〜3に制限して……できればレベル2だと良いなぁ」


 迷宮のレベルは一つ上がると、探索者の適正レベルが5つは変わる。

 本来レベル3のヤミでは、適正レベル5はある迷宮難易度2は厳しいのだが、スキルによる補正を加味すれば、適正レートだ。


「決められたルール内で活動するなら、難易度1じゃあボスとの遭遇がありうるし。──あった、迷宮難易度2」


 場所を検索すれば近場にあるようだ。

 マップにピンを打ち、親にも場所を教えておく。

 ヤミは迷宮探索用の荷物を抱えて出発した。


 ◇◆◇◆◇


 ゴロゴロと、旅行でもないのにキャリーケースを転がして歩く。

 特に飛行機や新幹線がある通り道でも無いので、目立つかと思ったが、他にもキャリーケースを使っている人が目についた。


 やっぱりみんな、キャリーケースで移動してるんだ。

 見れば全員が探索者用の腕時計をしており、同業者である事が伺えた。


「ここら辺だと比較的都会だというのもあるけど、レベル2以降の迷宮は人気だなぁ」


 副業で探索者をやってる者は、比較的安定しているレベル2〜3の迷宮を好む。

 もしかしたら、探索中にすれ違うこともあるだろう。

 迷宮は空間が捩れており、同時に入らないと同じ迷宮にいるのに認識が困難になるという特性がある。


 稀に認識できる場合があったり、救助隊が持っている魔法の道具を使えば、知らない人と同じ場所で出くわす事がある。


「それも迷宮の醍醐味、よし。その時は頑張って挨拶しよう!」


 そして出来れば知り合いに、そこから友人になったりしちゃったりして……!

 そんな妄想を抱きながら歩いていると、目的地に辿り着いた。


 迷宮難易度2【獣の草原】。

 見晴らしがよく、急なエンカウントがないことから人気の迷宮だった。

 今回の迷宮は稼ぎやすい場所の為、ボスモンスターの討伐が禁止されている。しかし現在のヤミには関係がなく、1階層で探索する分には問題なかった。


「迷宮は難易度が1つ変われば、


 前回は1階層で完結していたが、今回は2階層ある上に、ボスモンスターは最下層にしか存在しない。

 前回と異なり偶然の接敵はありえない。


 ヤミは設置されていたゲートを潜り、探索者用の着替え室に向かう。

 前回が山中で特殊だったが、本来は国が迷宮の出入り口に施設を建て、探索者のサポートをしている。


 キャリーケースから新たな装備を身につけて、不要なものはロッカーに預ける。

 ノートパソコンを起動させ、ケーブルを昨日買ったカメラ付きマイクに付ける。


「よし、行こう」


 ヤミの、2回目の迷宮探索が始まった。


 ◇◆◇◆◇


 ダラララと、辺り一面に広がる草原で銃声が響く。澄み渡るような青空に薬莢が飛び出し、モンスターの悲鳴が木霊する。


 迷宮【獣の草原】。

 見晴らしが良く、奇襲されずらいこの迷宮は、ある程度慣れた者達にとって比較的やりやすい迷宮である。

 しかし、例外が1つ。


「敵の数が!?」


 彼らは耳が良い。

 剣や弓での戦闘ならまだしも、銃声なんて迷宮の端から端まで聞こえてしまう。


 迷宮探索開始から30秒。

 配信アプリを起動させる前に、ヤミは最初のモンスターと接敵してしまった。その数は2匹。

 それがどんどんと数を増し、探索開始から10分、現在のモンスターは20を超えていた。


「ちくしょう!」


 マガジン内30発を撃ち切って倒した15体も、リロードと回避に割いた時間で増援が来て意味がなくなる。

 何とか回収した魔石も、アサルトライフルでは使用出来ない。

『ブレードラビット』、彼らの発達した刃状の耳に、ヤミはひどく苦しめられていた。


「1回地上へ!」


 飛び跳ねる灰色の毛玉を撃ち落としていく。

 2回目のリロード。残り30発となった時点でヤミは進行を諦め、素早く地上への階段へ向かう。

 追い縋るブレードラビットの群れへと引き撃ちをしつつ、下がる。適当にばら撒いた弾を躱し、その耳で切り裂こうとしてくる個体へ銃を叩きつける。


 階段へ足をかける。あと数歩で地上への境界線、モンスターが通常来れない場所へ入れる。

 弾が切れ、モンスター達は逃げるヤミへと肉薄する。


 ナマズのポーチ改め、『キャットフィッシュ』と命名されたポーチに魔力を注ぎ、弾丸を生成。

 素早くマガジンを開き、一発だけではあるが装填。即トリガーを引く。


 倒せて1匹、だが先頭さえ押さえられれば、逃げ切れる。

 そんな思いでほぼ全ての魔力を注いだ1発の弾丸は、先程までの回避重視の動きから変わったラビットへと命中。

 ブレードラビットの身体を容易く貫通し、その威力を落とすことなく2匹目に。

 そして──、そのまま3匹目も貫く。


「……え?」


 身体が暗い境界線へ沈んでいく瞬間、ヤミは目撃した。

 放たれた弾丸が、合計8匹のウサギを貫いてみせたのを。


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