第10話 暗根ヤミ、深夜の反省会です……。わーわー

「うごごごごごご……」


 初探索から帰宅して、服を洗いご飯を食べ、家族と話した後、ヤミは1人、ベットの上で悶えていた。


「何が『死んだら恨みます』だよ、死ぬなら魔石持ってる意味もないのに、ワンさんに嫌な思いさせるだけだろバカ!」


 そこは暗根家の一軒家、しかもヤミの為の部屋だった。

 内装は藍色と白で纏められており、殺風景な中で、干された探索用の服と装備類だけが目立っていた。


 ヤミが行なっているのは、今日1日の反省会。しかも探索の内容では無く、他者とのコミュニケーション上での失敗を振り返るものだった。

 陰キャ特有であろうそれは、会釈の一つから発言の一つまで、自身の言動全てを精査して粗を見つけては悶える地獄の時間である。


「だけど、これまでは誰とも関わらなかったからコレが無かったと考えれば、全然前進してる!」


 この地獄は進歩の証。そう解釈したヤミは、1人で暫くの間悶えているのだった。


 ◇◆◇◆◇


「総評、文字から音声に変わっても、ワンさんとの会話が続けられていたのは、非常に進歩している!」


 窓から朝日が差し込み、目を開けて開口一番。

 そう自分を評したヤミは、体にみなぎるエネルギーを感じた。

 モンスターから魔力を得て、ステータスという超常の力を得たのが昨日、その日のうちにレベル3にアップしたのだ。

 その変化は著しく、スキル補正も相まって身体が作り替えられたのかと思ってしまうほど。

 その全能感に酔いしれ、足元を掬われないように、ヤミは今日を休日とした。


「まずは装備の更新に行かなきゃ」


 ヤミは干されている探索者の服を見る。

 水は完全に乾いているが、コボルドの攻撃やスライムの体液、落下の衝撃による劣化。そこへ止めの爆炎余波で、ボロボロなのが見てとれた。


「濡れているときは気づかなかったけど、かなり頑張ってくれていたんだな……」


 本来なら捨てるのが普通だろうが、ヤミはなんとなく、その服をクローゼットの奥にしまっておく。

 思い出の品のようになったそれを眺めた後、ヤミは出かける準備を始めた。


 ◇◆◇◆◇


 探索者用品店、abidas(アビダス)。

 事業拡大前はスポーツ用品店であった事から、迷宮産の布など、動きやすい素材を用いて防具を作る店である。


「いらっしゃいませ〜!」


 防御力では金属防具に劣るが、機動性を重視した者たちに人気であり、金属鎧のインナー用として買う者もいる。

 そんなメジャーな探索者用のお店に、ヤミはやってきていた。


 本日購入予定の品は、防具、武器、配信機材の三つ。

 予算はドロナマズの魔石代金35万円。そしてドロナマズの遺土の売却金15万円、計50万円である。

 遺土は魔法の道具として用いられるもので、ボスモンスターのものは意外な高値がついた。


 出来るだけ防具に力を入れたい。

 そう考えているヤミは、目安として30万円前後の物を探していた。


「出来るだけ動きやすくて、丈夫なやつ……」


 平日なのも影響し、人が少ないのを嬉しく思いながら、ヤミは店内を物色していく。

 その際に店員の視界からできる限り消え、近寄られたらスマホを持って弄ることも忘れない。


「──うん、これでいいかな?」


 手にした防具は、紫がかった黒い布防具をベースに、急所位置に金属プレートをあしらったものだった。

 防具の名前は【サランディーネ】。

 目についた謳い文句は、【防水】、そして【防火】の2つ。

 前回の探索でどちらも縁があり、炎に関しては、現状の最大火力を出す為には必要な物のため、ヤミは重視していた。


 スッと試着室へ向かい、実際に着てみる。

 冒険者の防具屋では、着心地だけで無く動きやすさも見るため、試着室に隣接したかなり広い広場がある作りになっている。


 軽く走ったり、跳んだりして動きやすさを確かめていると、店員がやってきた。


「お客様、そちらの防具は比較的初級レベルの品物でして、お客様のステータスですとより上位のモデルにした方が宜しいかと思います」


 レベル3と言えばまだビギナーなのに、何をおだてているのか。そんな風に思いながら、ヤミは頑張って口を開く。


「だ、大丈夫です」


 話せた!!!!

 探索者登録の頃と比べたら遥かな進歩だ!やはり配信での経験がいきている。

 少し不思議そうな店員を置いて、ヤミは防具を購入しに戻っていった。


 ◇◆◇◆◇


 abidasの店員、横井は不思議な青年の動き姿を見つめていた。

 動きにはぎこちなさが残っているのに、その身体から溢れるエネルギーは初心者のソレではない。


「レベル5……6はあるかな?」


 レベルは上がれば上がるほど必要な魔力が多く、毎日迷宮へ向かったとしても、レベル6に上がるのに2週間はかかる。

 それだけあれば動きに迷いが消え、段々と様になっていくと思うのだが……。


 何にしろ、その力に防具が見合っていないのは確かだ。そう思った横井は、動いている青年に声をかけた。


「お客様、そちらの防具は比較的初級レベルの品物でして、お客様のステータスですとより上位のモデルにした方が宜しいかと思います」


 途端に青年は固まり、先程まで溢れていた力強さが霧散する。

 何らかのスキルが複数、消えたのか?

 そんな疑問を抱いた横井に向かって、青年は一言。


「だ、大丈夫です」


 それだけ言って、青年は帰っていく。

 普通の冒険者であれば、防具は1番お金をかける場所だ。これまでの客はそう言われれば、助言通りに上のモデルを見に行っていたのだが、青年はそのまま防具を購入していた。


「不思議な人だったな……」


 技術とステータス、行動が普段の人とは異なるヤミに、横井はそう呟いた。


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