第3話 暗根ヤミ、おっちょこちょいです。
「こ、こんにちは。ヤミです。今回は『星の観測地』を探索して行きたいと思います。よろしく、お願いします」
……
「ま、まぁ1人も来ないよね。当たり前だ」
何の宣伝も後ろ盾も、目を引くような経歴もない自分の配信に、開始直後に来る人なんて居るはずが無かった。
「これで良い。むしろ、緊張しない分良いかも」
見てる人を意識せず、自然体でいる自分を見てもらえる方が良い。だから何人見てるかは気にしないで話し続けよう。
「今回が迷宮探索者に登録して初めての探索だから、緊張っ、します。アドバイスとか貰えると嬉しいです」
ヤミは配信画面の端にそう文字を書き込むと、リボルバーを抜いて歩き出した。
配信も気になるけど、僕は迷宮探索者にも憧れていた。この状況にワクワクしないと言ったら嘘になる。
「無理せず、楽しく。やっていこう」
◇◆◇◆◇
夜空の見える山道を、サクサクと草を踏みながら歩いていく。
涼しい風と綺麗な風景に騙されそうになるが、ここは迷宮。ヤミはモンスターを探しに歩いていた。
「まだ不思議パワーに目覚めてないから、結構、体力使うなぁ……」
人は迷宮の中でモンスターを倒すと、その力を吸収してパワーアップする。そうすればこんな山道、訳もないのだろうか?
そんな事を思いながら、ヤミは歩みを進める。
この迷宮は山頂からスタートし、下山するほど迷宮の奥へと進む事なる。ヤミはケーブルが木に絡まないようにしながら進んでいた。
「あっ、いた。モンスターだ」
それは透明で粘度の高い水のような物質の塊。不思議生物第一号のスライムだった。
カチリ、と壱式リボルバーの撃鉄を起こす。
講習と免許合宿で、銃の撃ち方は習った。
二つのサイトを合わせた場所に、モンスターを入れる。
「ちょっと触ってみたいけど、撃ちます」
体を固定し、トリガーを引く。腕が跳ね上がる程の衝撃が壱式リボルバーから発生し、スライムに向かって1発の弾丸が放たれる。
「い、一撃……」
対モンスター用に設計された弾丸は、衝撃波を伴ってスライムに衝突し、木っ端微塵に吹き飛ばした。
「あ、でも魔石は残ってる」
スライムが吹き飛んだ辺りを見ると、きらりと光る石が一つ。不思議物質の魔石があった。
他にモンスターが居ないことを確認し、リボルバーに弾丸を1発装填しながら近づく。
魔石を拾おうとスライムの残骸に触れると、青白い粒子が浮かび、ヤミの体内に入ってきた。
「ちょっと変な感じ」
魔力と呼ばれる粒子が体内に入ってゆき、肉体が強化されていく感覚は、少しくすぐったさがあった。
山登りで疲労していた足に活力が湧き、迷宮探索を開始した時よりも力が漲る。
「あっ、そう言えば一度戻るんだった」
初めての探索だから、初戦闘をしたら戻ると決めていたのだ。ついでに視聴者が0人なのは配信ミスでは無いのかという、期待を持ってヤミは一度帰還することにした。
──後ろからこちらをジッと付け狙う気配に気づくことなく。
◇◆◇◆◇
「やっぱり変な感じ」
先の見通せない階段を登って行くと、夜の寒さが消え、朝の暖かさがやってくる。奇妙な感覚を味わいながら階段を登ると、心配していた事が嘘のように、無事に地上に戻って来れた。
「……うん、問題なく配信出来てるな」
テントに戻り、パソコンの画面を見ると、問題なく配信サイトでの配信が行われていた。
まぁ、これも大切な積み重ねだ。
動き出しても見てもらえないことはあるが、動き出さなければ何も変わらない。
ヤミはコメントを見落とさないように、配信を一度止めて、コメント通知を起動してから迷宮に戻った。
「目標は、弾が半分近くになったら戻る事。そしてレベルを上げる事」
探索者になって支給された時計のボタンを触ると、自身の体内にある魔力量から計算された、現在の自分のレベル【1】が表示された。
レベルは他生物の魔力を吸収する事で上昇する。その為ヤミは、少数で行動するモンスターを探して歩き出そうとする。
──ジュウ、という異音。そして、ビニールが溶けたような匂いが、あたりに立ち込める。
「っ、モンスター!」
ホルスターから素早く壱式リボルバーを引き抜き、後ろから迫っていたモンスターに向かって銃弾を放つ。
軽い衝撃と、体に何かが飛び散る感覚。
スライムの残骸が、自分に降りかかっていたのだった。
「うわっ、最悪だ!」
モンスターの体液には酸性の物もあり、ヤミは急いで水筒の水を被る。初期のモンスターであるスライムの酸は大した事がなく、魔力により強化された皮膚には影響が無かった。
「焦った……さっき帰る時に跡をつけられてたのかな?」
リボルバーについた水を拭き取りながら、ヤミはスライムの魔石を拾いに行く。
本来、迷宮の出入り口付近でモンスターに出会うことなど、そうそう無いことだと教わったのだが。
「うえ、何かさっきより臭い」
スライムの魔石近くには、溶けた黒い液体が少量落ちていた。それは何かのビニールが溶けた物であり、ヤミには心当たりがなかった。
「あっ、そう言えば配信切ったままだった。良い所逃しちゃったかな?」
ヤミは軽く感じるケーブルを引っ掛けないようにしながら、急いで前回進んだ場所まで進むのだった。
──スライムによって溶かされた、ケーブルを置いて。
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