第2話 暗根ヤミ、配信者です。
迷宮、レベル1『星の観測地』。ヤミの地元、山の頂上にある迷宮であり、星空がよく見えるこの場所は、地元のカップルに人気の土地だった。
迷宮が発生し、人も来なくなると思われていたが、迷宮の危険度を指すレベルは最低値であり、景観を損ねるものでも無かったため、現在でも夜はカップルの姿が見てとれる場所である。
そんな観光地に朝からせっせとテントを設置し、迷宮に潜るのに少し悔しさを感じてしまうが、彼女以前に友達すらいないヤミは自分を変えるという気持ちを一層強くして迷宮へと向かった。
「う、なんか温度が変わった感じがする……」
階段を下り始めると、地上の光が一歩ごとに薄れ、現世から別れて行くのを実感できた。
20段程度の階段ではありえない現象に、ヤミは少し動揺する。
「ちょっと探索したら、一度戻ろうかな」
まだスタートしてすらいないが、地上の光が恋しかった。
◇◆◇◆◇
「──ここが迷宮。すごい綺麗だ」
真っ暗な階段を下り切ると、唐突に視界が開け、清涼感のある風が吹いている。
上を見上げると、現世の時間に影響されず煌めく夜空の星々が見れた。
迷宮は出来た場所に少なからず影響を受ける。火山地帯では火、海辺なら水に因んだ風景やモンスターが出現する。
ここは星空山というあだ名がつくほど夜景が綺麗な場所だから、迷宮も影響を受けたのかもしれない。
「迷宮がどうやって出来たのか、あまりよくわかって無いらしいけど、ここはロマンチックで素敵だな」
起きた被害を考えれば軽々しく褒めることはできないが、迷宮に関係する全ては等しく悪だと決めつける人にはなりたく無かった。
「よし、まずは周囲の危険と武器の確認」
ヤミは迷宮探索者の協会で習った講習を復習するように呟く。
腰に差したリボルバーを取り出し、弾数を確認する。
一マガジンに6発の銃弾が装填された代物は、日本では見ることもない拳銃の類だが、迷宮攻略時には免許を取得することで携帯が許されている。
「ホントは剣とか槍とかの方が安いし手軽だったけど、生き物を切る感覚がなぁ……」
講習では、既に亡くなった猪型のモンスターを使って練習したが、肉を断つ感触に拒絶反応が出てしまった。そこでヤミは近接戦を止める決意をしたのだった。
「マガジンに6発、ポーチに50発。これを撃ち切る前には必ず帰ろう!」
獲物の名前は【壱式リボルバー】。対モンスター用拳銃の中では金額的に1番安く、唯一買えそうだった武器ではあるのだが、リロードまでに6発しか撃てないというのは、かなりの不安点だ。
敵対するなら少ない数を選んでやろうと決めた。
防具は初心者向けの中では上位のモデル。森林迷宮向け万能防具、【
雨対策にフードのついた迷彩柄のパーカー型の防具だ。腕には金属製の手甲がついており、緊急時には盾のような役割を果たせる。
この装備ならある程度までは余裕を持って対処可能だろう。
「──よし、そろそろ始めるか」
これまで気を逸らしてきたが、ヤミは漸く腰から伸びているケーブルに手を添える。
そのケーブルは腰に下げたスマートフォンから伸びており、地上のパソコンに向かって伸びている。
地上側で、自動的にちょうど良い長さに伸ばしたり巻き取ったりする為、足に引っ掛けたり絡まる心配は無い。
「最初の挨拶、何にしよう……?」
不安で胸が一杯になる。
喋れなかったらどうしよう。みんなが不快になる事を言ってしまったらどうしよう。配信でも克服できなかったら親にどんな顔をすれば良いだろう。
そしてこれが失敗しても、自分はまだ諦めないで別の挑戦を出来るのだろうか?
そんな時、父親から伝えられた言葉を思い出す。
「『自分を知って貰いたいなら、嘘偽りなく、自分が思っている事を伝えなさい』……か。うん」
ヤミは「人気になりたい」が一番の目的ではない。「自分を知って、友達になって欲しい」が目的なのだ。
だから嘘をつく必要は無い。遠慮する事もない。自分を曝け出して、その上で自分と仲良くしたいと思ってくれる人を大切にしていけ。そう両親からは言われた。
「よし、やるぞ」
ヤミはスマートフォンに表示された。配信開始のボタンを押した。
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