友達の欲しいコミュ障は、配信をしながら迷宮に潜る。
つちのこのこ
1章
第1話 暗根ヤミ、コミュ障です。
「それではこれで、迷宮探索者の登録は終わりです。何か、質問などございますか?」
「……」
「どんな些細なことでも大丈夫ですよ?」
「──っ、ぁ」
「大丈夫ですかね?それでは、安全に気をつけて頑張ってください!」
──コクリ。トトトッ……。
「……大丈夫ですかね?あの子」
「体調でも悪かったのかな?」
受付のスタッフは、小走りで去る、一言も発することのなかった少年の後ろ姿を見ながら、そう言った。
◇◆◇◆◇
「ふぅ〜……キンチョウシタ」
先程、迷宮探索者の登録を済ませた少年『暗根ヤミ』は、役所から出て、ようやく肩から力が抜けた。
役所の人からしたら、挙動不審な変な人だったが、ヤミとしてはかなり頑張った。
「きちんと登録できたし、首肯だったけどコミュニケーションも取れたっ。結構頑張ったぞ!」
ヤミはそう言って、自分のコミュ障克服訓練を褒めてみる。
年齢は16歳と、そろそろ今後の人生についてボンヤリと考え始める時期。ヤミは気づいてしまった。
──このままじゃ彼女はおろか、友達もいないで、仕事にもつけずに人生を終えるのではないか、と。
顔が良くない、性格が良くない。それらの欠点は最悪の場合、青春は捨てても就職は頑張れば出来る。だけどコミュ障は、就活が出来ない。
出来ないというか絶対他の人に負ける。どんなに醜男でも、ハキハキと自信を持って答えられる人と、イケメンだろうがなんだろうが、オドオドと小さい声で話す人だったら、きっと前者が選ばれるし、自分だったら選ぶ。
「このままじゃダメだっ!」
そう一念発起し、ヤミは様々な試みをした。
学校のクラスメイトに話しかける。過呼吸になりかけて断念。
ご近所の優しい老夫婦に帰り道で今回こそは挨拶を返してみる。ギリギリになって曲がり角で曲がってしまった。
インターホン越しに「今親がいないので分からないんです」とセールスを断ってみる。結局は居留守してしまった。
そんな玉砕続きの彼が唯一できたこと、それは電話越しにセールスを断ることだった。
それは常人からしてみれば呆れるほど普通のことだったが、彼からしてみればたった一つの克服への糸口だった。
そこから更に自分について研究を重ねた結果判明した、自分が緊張してしまうライン。
それは『声、または文字でのみの会話なら問題がない』ことだった。
それを発展させていき、自分のコミュ障を克服するための計画を考えた。
それが、『配信者になってコミュ力を鍛えつつ友達を作ろう計画!』である。
現代日本において配信者とはメジャーな存在になり始めている。彼らはコラボや複数人で活動していることもあるが、基本的には個人で視聴者とやり取りしながら活動をしている。
その視聴者とのコミュニケーションツールには、コメント欄が用いられている。
それならばヤミでも緊張せずに会話ができ、もしかしたら自分のコミュ障を知った上で友達になってくれる人もいるかもしれない。
「という事なんですけど……やってみても良いですか?」
ヤミは両親に以上の事を説明して、やってみる許可を得ようとしていた。配信者にはパターンがある。顔を出さず、声とワードセンスでやっていく人。そして顔も出して配信をする人だ。
「多分最初は緊張して、顔を隠しながらやると思うんだ。だけど、そのままじゃ克服は出来ないと思う」
ヤミの最終目標はコミュ障の克服と、自分のことを理解した上で友達になってくれる人を見つける事だ。その為には目線を気にせず、自分が誰かも隠せてしまえる状況では無くす必要があった。
「応援はしてあげたいんだけどねぇ……」
父も母も、ヤミの将来に不安はあった。そこに本人からのリハビリの提案。協力も応援もやぶさかではない。けれど、迷宮探索者にもなりたいというのは不安だった。
「なんだって迷宮探索者にもなる必要があるの?それこそ、お部屋でお喋りしてるだけでも可能なんじゃないの?」
「声が俺たちに聞こえて恥ずかしいって言うなら、ヤミの部屋を防音の壁にしたって良いんだぞ?」
「僕は会話が上手じゃないし、そんなんじゃ誰も話しに来てくれない。この辺りの迷宮を攻略してる配信者って居ないし、地元の人が僕を見てくれるかもしれないんだ。だから、無理はしないからやらせて欲しい」
ヤミは自分が必死に考えたプランを両親に伝えていく。その熱量と、自分を変えたいという願いに折れた両親は、『無理をしないこと』そして『日帰りで帰ってくること』を条件に探索者になる事を認めた。
配信者として人気になることで、自分の内面を知りながらも好意的に接してくれる人が作れたら。探索者として成長していく中で、仲間や同業者との関わりが増えたら。
きっと、僕は人と話す自信がつく。
友達を作れるかもしれない。コミュ障が改善されるかもしれない。なんなら、手に職つけて将来安泰。そんな一石三鳥計画の達成のため、全力で取り組んだ。
◇◆◇◆◇
「これで準備おっけー、かな?」
ヤミは貯めていたお小遣いと、両親に頼んで借りたお金で配信機材と武器防具を買っていた。
迷宮は不思議な力で外界と隔たれており、内部ではインターネットを介した配信をする事ができない。そこで彼らがとった解決策は、ゴリ押しの一手だった。
「ここにLANケーブルを取り付けて、杭を打てば大丈夫かな?」
迷宮は地下へと続く階段のような構造になっており、その外側にはテントが設置されていた。それはヤミの配信機材が設置された場所であり、ここから超長いケーブルを繋ぎ続けて迷宮内の様子を配信するのだ。
「すごい深い迷宮だったらケーブルの長さ足りないけど、日帰りにする予定だから問題ないよね」
パソコンが問題なく起動したのを確認したヤミは、防具や武器を身につけ、配信用のマイクとカメラを取り付ける。
「あー、あー……うん。聞こえてるし見えてる。」
準備万端。いざ、迷宮へ
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