第408話 臨界38(パルマサイド)
光が見えた瞬間にガネーシャは咄嗟に飛びのいた。未だ役割を終えていないから食らわないというほどに距離を開けることは出来ない。
「き、貴様ァ‼」
伸ばした手は届くはずもなく、パルマの体は白い光に包まれていく。光と音の暴力にガネーシャは腕でガードした。
壁と床に強烈な衝撃が駆けては走った場所全てに破壊の痕跡を刻んでいく。眩い光は目を開いている者たちの全てを見せようとさせない。雷の衝撃を一方的に浴びせられているパルマは一切動くことが出来ない中でも抵抗しようとするも筋肉が痙攣して指一本を動かすことが出来ない。
―や、ヤバい‼
迸る衝撃によって筋肉どころか脳までが壊れていく。脱出をと考えるが動くどころか頭は一切働かず体が壊れていく感覚に蝕まれる。ボロボロと指先から、壊れていく範囲が広がっていくのに未だパルマは伸ばす手を引っ込めようとしない。手や足が無くなっても首だけになって食らいついてくるのではないかとガネーシャの腕は自然と上がった。
光が収まっていないにもかかわらず広がるパルマの口元から覗く歯頚はまるで最後を悟っていることを予感させた。
「これで、終わりと思うか?」
「終わりです。貴方はここで崩れる」
脳も腸も蕩かしかねないほどに高温だった部屋の温度が落ち着いてきている。加えて雷に壊されている体が何よりの証左だ。ただ、この未だ勝ち誇っている笑みが確証に一部の揺らぎを与える。
「俺が、何の備えも無しに…ここへ立ち入らせると、思うか?」
パルマは宣言をすると、上下の歯をガチンと鳴らす。それが合図。当初の計画通りだ。
直後にビルの上下、内側のあちこちから爆音が聞こえる。全体を軋ませる衝撃は最後の抵抗の証。
「なるほど。これがあるが故の余裕ということですか」
「…どうだろうな。まだまだ、あるかもだぜ?」
腕は崩れ、胸元まで体が消失している。強がりであることは明白だ。何をしたところで最早助かりようはないことをパルマ自身も理解している。
強がり、ではないのだろう。命乞いをすることも、最後の抵抗とばかりに泣きわめくこともなく自らの運命を受け入れる姿に欠片ほどの好意をガネーシャは抱いた。故に何もしない。ここで斬りかかるのは無礼と弁える。
「悪い…。これ以上は、限界、だ…」
光り輝いていたエネルギーの光が弱くなっていく。サードニクスにも限界が来たようだ。
「分かりました。あとは私が」
任されたという旨を伝えると『
時間は残っていない。だが、礼は尽くさねばならない。一瞬だけ働いた葛藤はすぐに行動へとガネーシャを答えへと導く。こんな態度がエウリッピの顰蹙を買うことになると理解していながらもこれも自分の性であると前向きに受け止めた。
「介錯は必要ですか?」
「…けっ。やるなら、もうちっと早くやれよ。それより、コーラくれないか?」
「申し訳ありません。煙草ならあります」
ポケットをまさぐると少しばかり煤けた箱が出てくる。セロハンを剥がすと一本を取り出し、パルマの口に入れた。
「騎士様が不良の真似事とは、恐れ入ったぜ」
「最低限の嗜みとして身に着けているだけです。私自身は喫煙者ではないことを覚えておいてください」
「これから死ぬんだから覚える意味もない…。いや、最後ぐらいは覚えておくのもありか。今の今まで終わったら全部忘れてたが、最後ぐらいは…」
一気に喋ったからかパルマは黙る。その間にも揺れは強くなっていく。
「最後に、聞かせてくれ」
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