第407話 臨界37(パルマサイド)

 動きは、直線だ。移動に使える箇所は上下左右を見渡しても見失うということはない。三次元的な動きをしたところでこの状況をひっくり返しようがないのだ。


 読みやすさにパルマは笑いを隠そうとするも隠し切れない。こんな単純な動きで突っ込んでくるガネーシャの愚かさに嗤うしかなかった。


「仲間がやられて狂っちまったか⁉」


 言葉は返ってこない。返ってくるのは、殺意だけ。純粋にお前だけを仕留めると訴えてくるそれに背筋がゾッとした。同時にヒリヒリと神経が昂る。


「燃えカスになれ‼」


 目を剥き、虹色の刃が日輪のように強く輝きを放つ。輝きはまるで小型の太陽だ。


 熱波の結界を最大出力に調整した。これまでとは温度が比にならない熱は触れると人体どころか吸血鬼であろうと炭に変えるだろう。既に範囲にあるオブジェクトは融解してその形を一切留めていない。


 それでも、ガネーシャは動きを止めようとしない。熱を浴びて纏っていた衣服が火の衣に覆われていく。色鮮やかな光景にガネーシャは勝ったという確信を持った。


「これで最後だ‼死ねェ‼」


 次の瞬間に訪れたのは、激痛だ。目下にはガネーシャと喉元に深々と突き刺さったあの青い剣の切っ先だ。もう一つは、腹部を容赦なく貫く木の根を思わせる巨大な先端。最初に味わったあの連続攻撃に劣るとはいえスパークする痛みに足が止まった。


 痛んでいるのは、一か所だけではない。


「な、ニィ⁉」


 噴出した血泡が破裂した。目玉がちょっとずつ後ろに移っていく。


「待ってたぜ。このときを…」


 焼け焦げていたサードニクスは死んでいたはずなのにしっかりとランスを握っていた。それが自分にとっての致命傷になったことを直感が教えた。弱点をいつのまに見抜かれたのか問答するもそれだけの猶予は許さない。


「ここなら、十分だ。やっと、近づけた」


 熱の結界はパルマを中心とした僅かな距離で温度の変化はない。使用者であるパルマを守るために温度を落としておく必要があるのだ。人為的に吸血鬼であってもこれだけの熱には耐えられない。


「懺悔の言葉は、十分か?」


 腹部を貫いたランスから微弱な電気が流れる。最初は弱く、それがどんどんと強くなっていく。焦燥感がシンクロするように高まっていく。


「ぜ、全員消し飛ばすつもりか⁉」


 驚愕に見開かれたパルマの目に映るのは、サードニクスの勝ち誇った顔だ。聞かないまでも答えは十分だった。


「こんな真似をして、無事で済むと思っているのか⁉」


「無事?無事か…。笑わせるなよ?俺が覚悟も無しにこの策を提案していないと思っていたのか?」


 バチバチ。光の増加と共に音が鋭さを増していく。伴う肉の焦げ臭さを霞ませてしまうそれはサードニクスの言葉を正確に示している。


「覚悟はしなくていい。瞬きしている間には終わる」


 スーッと息を吸う音が、そこだけが道でも通しているように聞こえた。一点の場所だけを見つめる目がパルマの足を固定する。


雷光スプライト

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